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事前期待を上回るサービスとは? 


ビジネス進化論   ~成功するビジネスモデルの法則~
2010/10/29 第 24号 ━━━

長野県北アルプスは白馬山麓にある何気ないホテルのサービスを 
ご紹介します。
繁盛している隠れた理由がそこにはありました。


信州は北アルプス、白馬山麓にある「ホテル白馬」に夏の終わりの
ある日夫婦で2泊してきました。

JR大糸線 白馬駅から車ですぐの田園地帯にポツンと建っている、 
コンクリート建ての一見何の変哲もない小奇麗なホテルです。

八方尾根や白馬のトレッキングを目的としていましたので、朝夕食
ともバイキングということもあり、価格もそこそこだし、小奇麗そう
だし、それ以上ホテル自体には全く何も期待することなく、
まー温泉に入って泊まれればいいや、程度の感覚で予約しました。

ところが、滞在するにつれて、段々我々の評価が変わって行きました。
大げさなサービスはないものの、ちょっとしたところに客をうなら
せるサービスを提供しているのです。

例えば、朝夕のバイキング。

普通バイキングといえば、メニューの種類は豊富でも、毎日同じ
メニューしか出ないと思ってしまいますよね。

ここは違いました。
朝夕、毎日メニューの種類が替わるのです。 それも、よく観察
するとその日の客層によって毎日替えているのです。

我々は、金曜日と土曜日に宿泊したのですが、金曜日は、高齢者の
方々の団体さんが大勢いましたので、メニューが日本食中心の高齢者
好みの料理が多く出ていました。

地元の山菜を使った料理とかお漬物とか。

逆に土曜日は、若い子供連れの家族連れが多く、あきらかに洋食
中心で、カレーやハンバーグ、ピザなど子供が喜びそうなメニューに
変わっていました。

また、料理一品一品の前に、地元のどういう生産者の食材で作った
のか、どのようなところに味へのこだわりがあるのかなど、詳しい
説明メモが手書きで書かれておいてありますので、楽しみながら選択
することができました。

それと、お風呂はそれ程大きくない露天風呂でしたが、意外にも目の
前に小さな小川が流れており、せせらぎを楽しむことができ、湯船
からは北アルプスの碧い山並みを眺望することができ、それはそれで
結構なことでしたが、驚いたのは、シャンプーとリンスに資生堂の椿
を使っている事でした。

普通は、ゴルフ場などでよく見かけるリンスインチャンプーという
リンスとシャンプーが一緒になった、一本の容器が無造作に置いて
あることが多いのですが、ここでは、あの深紅に輝く椿のセットが
ずらりとならんでいました。

また、各階に飲み物の自動販売機が設置されているのですが、この
飲み物の販売価格がとても安く設定されており、市販価格と大差ない
のです。

一方、一階にある土産物屋が大層繁盛していたので、覗いてみると、
なるほどと原因が分かりました。 

バイキングと同じように、全ての土産物に、ホテルのスタッフが書いた
と思われる丁寧な商品説明が載った手書きメモが置かれています。
 
それと、全ての買い物かごの底に、電卓がなにげなく置かれています。

アウトドアライフを楽しみに来ている顧客がほとんどですので、フロ
ントデスクの横には、本日の天気と週間予報が誰もが分かるように、
大きく書かれた掲示板があり、予報の移り変わりと共に、刻々と書き
換えられています。

パンフレットがとても洒落ていて、かつ便利です。
「白馬山麓ハンディガイド」というパンフレットにはホテル白馬の
情報と、白馬村や大町と北アルプスの山々の詳細な地図が美しく掲載
されておりました。

各種スポーツイベントの案内や推奨美術館、トレッキングコースなど、
まさにここに滞在している客が必要とするであろう情報が見事に凝縮、
網羅され、かつコンパクトにまとめられているので、このパンフレット
一枚あれば滞在中ほぼ不自由を感じることなく楽しく旅行をすることが
できました。

まだまだ言い尽くせないほど細やかなサービスがたくさんあったの
ですが、ここで筆者がいいたいのは、どのサービスも顧客をあっと驚かす
ようなものではない、とてもささやかなものであるということです。

ただし、それらが集まって価値が集合体として高まることによって、
顧客の満足度を向上させ、リピート客を得ている
という点です。


「事前期待のマネジメント」という言葉をご存知ですか?

どの企業も「顧客満足の向上」をお題目にしています。

ただ、ではどれくらいの企業が真の顧客満足を理解し、それを着実に現
場で実行しているかというと疑問です。

たいていの企業は、「お客様は誰か?」という定義を曖昧にしていたり、
顧客の声に真摯に耳を傾けるということをおろそかにしており、掛け声
倒れというのが多いのではないでしょうか?

「顧客満足の向上」を語る際に重要なことは、まず顧客の「事前期待」
を適確に把握し、それを現場に反映すること
がとても肝要です。
「事前期待」をうまくマネジメントするのです。

このホテルの例では、旅行系のインターネットサイトでの口コミ情報が
大変多く、その口コミ情報に対して、ひとつずつ丁寧に回答をしています。

恐らく、このホテルは、この口コミサイトからの情報なども含めて、  
そこから適確に顧客の「事前期待」を把握し、それを出来ることから
きちんと現場レベルに落として実行してきた
結果が、先述のささやかに
驚かせるサービスレベルの提供を実現しているのではないかと思います。

「事前期待のマネジメント」
をうまく実行するには、このホテルのように、
まず顧客の「事前期待」を把握し、それを少しだけ上回る価値を上乗せ
して提供する
ということです。

顧客の事前期待は、時間と共にどんどん膨れ上がりますので、過度に
大きな価値をもったサービスを提供してしまうと、顧客は必ずそれ以上の
価値を次回得ないと、事前期待を満たすことができないとして、失望する
ことに繋がりかねません。

かといって、それを恐れて、事前期待より低いサービスを提案してしま
いますと、そもそも宿泊予約や注文、受注を得ることができなくなって
しまいます。

従って、大事なことは、まずは顧客の「事前期待」をしっかり把握すること。
その上で、その期待をギリギリ上回る価値をサービスとして提供する、
その目利きをうまく行うマネジメントが、サービス業のビジネスモデルに
おける勝敗を決するコアであると思うのであります。

参考文献:
「顧客はサービスを買っている」(諏訪良武氏著 ダイヤモンド社刊)

その上で、その期待をギリギリ上回る価値をサービスとして提供する、
その目利きをうまく行うマネジメントが、サービス業のビジネスモデルに
おける勝敗を決するコアであると思うのであります。

参考文献:
「顧客はサービスを買っている」(諏訪良武氏著 ダイヤモンド社刊)

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (17)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


大日本商事テヘラン支店は、機械、鉄鋼、石油などの
取引を中心とし日本人駐在員数20数名を誇る中東に
おける重要な支店である。


支店を構えて30年以上は経つ、大日本商事の海外支店
の中でも伝統のある海外支店のひとつであった。

「何だ?これは」

日本酒1ダースを宮田からすっと差し出された永井店長は、
目を丸くして言った。


税関でイラン人の検閲官と同じ言葉を発した。

「君は本当に日本酒を持って入国してきたのか???」

「は、はー・・・」
<そやかてあんたがそう言うてたやないけ・・・>


「今まで恒例行事として冗談半分で東京からの出張者に
日本酒の持ち込みをお願いはしてきた。
だが、東京側もだれも真剣に受け取ってくれないし、今までで
本当に持って来る人間なんて誰一人としていやしない。
イランの入国審査でとっつかまるのは目に見えているからね。
だからいつもジョークのつもりで打電していたんだ。 
本当に日本酒持って入国してきたのはこのテヘラン支店
30年以上の長い歴史の中でも宮田君、あんたが初めてだ!
それも12本とは!」


宮田は照れ隠しで頭をかいてみたが、これってほめられて
いるのか、馬鹿にされているのかわからないなと感じていた。


長らく日本酒を手にすることがなかったのであろうか、
うれしさのあまり段々興奮してきた支店長は続けた。


「宮田君。
さらに今日は、君の同期でドイツから同じく今日入国
してきた石油部の両国君は、なんと、ポルノビデオを
3本も持って入国してきた。それも貴重なドイツものだ。

あー、今日はなんと素晴らしい日であろうか!

イスラム諸国の中でも特に戒律の教えに忠実で厳しい
このイランの聖地に、日本の二人の勇気ある若者が、
危険を承知で素晴らしいものを持ち込んでくれた。

これはテヘラン店にとって歴史的な日となることだろう。

今日はもう仕事は終わりだ!
早速仕事を切り上げて、我が家で丸の内重工の
皆さんも呼んで、盛大に大日本酒ビデオパーティを
やろうではないか!」


永井支店長はその場で失神してもおかしくないくらい興奮しきって
叫んでいた。

永井支店長の普段の生活が相当抑圧されたものであることは
容易に想像できた。


<アホちゃうか。このおっさん・・・こういう環境で駐在して
いると、こうなるんかなー。こーだけにはなりとうないわ>


支店長宅は、1000坪はあろうかという大豪邸で、日本
企業の支店長クラスはほとんどがこの手の大邸宅を
会社資産として所有し住んでいた。


支店長宅は、運悪くイランの最高指導者ホメイニ氏の
自宅に程近いところの豪邸街にあった。


これが影響してか、支店長宅の周りには多数の瓦礫の
山と大きな穴が無数にあいていた。


支店長宅の周辺が荒れている理由は明快だった。


テヘランの町のすぐ北には5671mもあるダマヴァンド山
という主峰を筆頭に4000mから5000m級の大きな
山脈が連なっている。


ホメイニ氏の自宅を狙って空爆を仕掛けてくるイラク
戦闘爆撃機は、まず急降下してホメイニ氏宅を狙って
ピンポイントで爆弾を落とそうとする。


だが、直前にそびえるこの巨大山脈が邪魔して、降下
体制を長時間維持できずに仕方なくホメイニ氏の自宅の
手前で爆弾を早めにリリースしまうのであった。


その理由は、そのまま低空飛行を続けていると戦闘機が
山脈に激突してしまう恐れがあるからである。


仕方なく早めに落としてしまう場所がちょうど支店長宅の
ある場所にあたっていたので、たびたび会わなくてもいい
爆弾の被害を受けていた。


だが奇跡的に支店長宅への直接的な被害は免れていた。


いったんホテルに戻って、丸の内重工の皆様をお連れ
して支店長宅に着くと、夜の7時は過ぎていた。


次回へ続く。


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