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政府関係者は、今すぐマーケティングを学びなさい!

東日本巨大地震が発生して以降、懸命の復旧作業が続いておりますが、
いまだに復興への大きな道筋や、シナリオ、さらにはこれからの日本
のあるべき姿などの青写真が見えてきません。

政府関係者は、今こそ「マーケティング」を学んで、「顧客」である
国民に「ホールプロダクト」を示してください。

未だに日本政府からは、政府が考えているソリューションの全体像が
見えてきません。 今後日本はどのようなステップで、どんな青写真
の元に、何を実行して行こうとしているのかといった発信がなされず
にいます。 

その代わりに、被災地や福島第一原発の現場で行われている救援活動
状況ばかりが断片的に伝わってくるのみです。

今こそ政府は、国民あるいは世界に向かって、日本はこうなってい
く!という明確で強いメッセージを発する時期だと思います。

マーケティングには、サービスや製品を提供する「提供者」と、その
サービスや製品の提供を受けて、ベネフィットを享受する「顧客」
いう概念が存在します。

今、サービスや製品を提供する「提供者」を「政府」、そして、ベネ
フィットを享受する「顧客」を「国民」と置き換えて考えてみたいと
思います。

マーケティングの考え方の一つに、「ホールプロダクト」という考え
方があります。 顧客が期待するサービス・製品は、ひとつの価値だ
けで成り立っているのではありません。 いくつもの価値が複合して
機能して初めて顧客は満足するのです。 それを
「ホールプロダクト」
と呼んでいます。

「ホールプロダクト」は中心から外側に向かって「コアプロダクト」、
「期待プロダクト」、「拡張プロダクト」、「理想プロダクト」
の順
に4つの層をなして形成されています。

「コアプロダクト」というのは、顧客が抱えている課題・問題などを
解決するための中核となるベネフィットで構成されています。 顧客
が製品やサービスを購買する場合に必ず求めるものです。 例えばパ
ソコンの場合は、仕様通りのパソコンそのものです。

「期待プロダクト」というのは、顧客が購入する際、こうであるべき
だと考える製品・サービスのことで、顧客満足のためには最低限そろ
っている必要があるものです。パソコンの場合だと、液晶モニターは
当然ついているはずだと考えます。

「拡張プロダクト」というのは、コアプロダクトの機能を拡張する
ために準備された数多くの付属品やサービスのことです。 顧客の
購入目的を最大限満足させるために必要なもので、パソコンの場合
だと、プリンターや、24時間対応のカスタマーサービス受付、使い
方の勉強会などです。

「理想プロダクト」というのは、顧客に提供される価値の上限をさ
し、顧客がこれ以上の製品・サービスは求めることはないものです。

上記でわかるとおり、顧客がパソコンを買う目的は、パソコンとい
う物理的な箱を所有することが目的ではなく、快適に効率よく情報
を収集・加工し、仕事の能率を格段に向上させるための機能を買う、
つまりホールプロダクトとして買うのです。

例えば、ゴルフ場でプレーするのも、ボールを打つのが目的ではな
く、友達と楽しく自然の中でプレーを楽しみ、もっと親交を深めた
いということが目的であったりします。

ここで、今、日本国民は政府に対してどんなホールプロダクトを欲
しているのでしょうか?

筆者の勝手な考えで以下のようなホールプロダクトをデザインしま
した。

「コアプロダクト」は、マズローの欲求五段階説で言われる「欠乏
欲求」である安全の欲求からきています。 行方不明者の救助と放
射能汚染の拡大を食い止めて原発を安定した状態にし、津波や地震
の二次被害から解放され、ライフラインが復旧し当面の衣食住が満
たされた安全な環境の提供などであろうかと思います。

「期待プロダクト」
は、その上で、日本全体の電力需給不足や物資
の偏在を解消すべく十分な発電供給能力や流通・物流網の回復がな
され、製造業も生産再開を開始する状態、いわば安心できる環境の
整備・提供でありましょう。

「拡張プロダクト」は、その上で、日本の産業・経済・金融状況や
国民生活が震災前の状況に復帰し、海外から観光客や資本、ビジネス
マンなど多く戻ってきて、活況を呈することではないかと思います。

「理想プロダクト」は、この震災から日本全体が世界と一緒になって
一致団結して見事復興し、その経験やノウハウ・知見を生かして、震
災や津波災害、次世代エネルギー政策などの分野を中心に世界の平和
と安定に貢献し、尊敬と信頼を得る国になることです。

さて、マーケティングでは、このホールプロダクトをデザインし、発
信すればそれで終わりではなく、時間と共に市場が推移していくにつ
れて、それぞれ四つのプロダクトを市場に出していくタイミングを検
討しなければなりません。

タイミングを間違えると、ホールプロダクトは市場から受け入れられ
ません。

まず、最初の「コアプロダクト」は、初期市場に提供され、その対象は、
通常極めてセグメンテーションされた狭い市場セグメントのピンポイ
ントの顧客に対して集中的に提供します。 今回の地震の場合、被災
地への集中提供となります。

その後、市場が時間と共に推移し、メインストリーム市場と呼ばれる
マス市場に移行するにつれて、提供する顧客の対象領域を広げて、
ホールプロダクトの層を外側に拡大していきながら提供します。

今回の場合「期待プロダクト」は、首都東京を含む東日本地域の市民
と企業群となり、「拡張プロダクト」は、日本国民全員であり、最後
「理想プロダクト」は、日本の復興と世界の安定を願っている全世
界の国々の政府や組織、人々となります。

もちろん、個別の具体的なソリューションは、さらに顧客の属性によ
って(年齢や企業規模など)で、セグメンテーションされなければな
りません。

ここで一つ重要な点は、初期市場とメインストリーム市場の間には、
キャズムと呼ばれる大きな溝が存在しており、初期市場で成果をあげ
ることができなかったホールプロダクトは、キャズムという奈落の底
に転落してしまい、そのホールプロダクトはメインストリーム市場に
移行できずに、そこで終わりとなってしまうという点です。

従って、今回も「コアプロダクト」を如何に的確に震災現場に提供し
成果をあげられるかどうかが、今後のホールプロダクトの戦略に大き
く影響を及ぼすことを理解する必要があります。

ホールプロダクトという呼び名でなくても結構ですから、日本政府に
は、今後日本が歩んでいく道筋とその先にある姿を、国民や世界に
一刻も早く提示頂きたいと思います。


【「サービスサイエンス」で有名な諏訪良武氏の新著のご紹介】
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「顧客はサービスを買っている」の著者で「サービスサイエンス」の
第一人者である諏訪良武氏が、同じくダイヤモンド社より新著を送り
出した!
  「たった2つの質問だけ! いちばんシンプルな問題解決の方法」
大昔から諏訪氏がやってきた問題解決のアルゴリズムが、できるだけ
分かりやすい内容となって披露されています。
========================================================

人類が頼るべき原子力の代替エネルギーは何か?

原子力の次を担うエネルギーは何か?という命題を、東日本大震災は我々に突き
つけています。
今回は、いろいろな代替エネルギーについて考えてみました。


CNNでは、今回の原発事故を受けて、次の代替エネルギーは何だ?
という問いかけを始めています。
「Japan and energy: What's the alternative?」

CO2削減効果の高いエネルギーの切り札として、世界から多くの期待を寄
せられ、世界各国で建設計画が実行されていた原発。 今回の福島第一
原発の事故で、そのムードは吹っ飛んでしまいました。

では、次の代替エネルギーは一体何なのか? この問いかけに対する回
答は、一部の研究者や政府関係者だけに任せているだけではなく、我々
自身もシロートながら主体的に考えてみる必要があるのではと思ってい
ます。

現在、日本のエネルギー別発電電力量は、2009年の統計で、LNG 29.4%、
原子力 29.2%、石炭 24.7%、水力 8.0%、石油 7.6%、新エネルギー
1.1%となっています(日経2011年3月25日朝刊)。

CNNのレポートでは、新エネルギーのひとつである「風力発電」にフォ
ーカスを当てています。  福島第一原発の近くで稼働していた風力発
電プラントは、一基のタービンを残して、その他全て順調に稼働してい
ると報告しています。

ただ、風力発電の問題は、まだその発電規模がとても小さいという点で
す。 確かにクリーンで、安全で、地震にも強いということが実証され
たとしても、前述のプラントの場合、福島第一原発の6号機までの合計
能力の10分の一程度でしかありません。

同じ新エネルギーを見ていきますと、「太陽熱発電」も盛んになって来
ています。 2011年2月25日付日経に、三菱商事が、スペインで世界最大
級の太陽光発電を現地企業と共同運営するという記事が出ていました。

発電能力は20万キロワットで、一般家庭10万世帯分の電力需要を賄える
とのことです。 現在世界の太陽熱発電能力は100万キロワットであるが、
2020年にはその150倍に増える見通しです。 ただ、発電効率は高いので
すが、難点は広大な土地が必要になる点です。

石油や石炭に続くエネルギーとして期待の高いのは、「メタンハイドレ
ード」
といわれる、メタンを豊富に含んだ物質です。 東海大学の山田
義彦教授の報告によりますと、この物質が日本の海に大量に眠っている
ということです。

メタンは、燃焼時に発生する二酸化炭素量が、石油や石炭などに比べる
と約半分と大変環境にも優しいが、いかんせん推進500mから1000m程度の
海底のさらに地下数百メートルの地層から採取する必要があり、高い技
術と資金が必要となってくるのです。

日本の周囲に豊富に存在する海洋エネルギーも重要な次の発電手段です。
 そのひとつが「洋上風力発電」です。 地上の風力発電に比べて立地
確保や景観の問題、プロペラによる羽切音の騒音問題などがないという
メリットがありますが、陸上に比べて設備コストがかかってしまうとい
う難点はあります。

世界四位の海水量を誇る海洋大国の日本が注目しているのは、「波力発
電」
です。 波の力を発電に変えてしまおうというのがこれです。 波
による海面の上下運動で空気を圧縮し、その力でタービンを回転させて
発電します。

今回多大な被害をもたらした大津波も、逆転の発想で発電の対象の源泉
として活用できるのかもしれません。 日本の海岸線に押し寄せる全て
の波の力を波力発電に使用すると、一時間で約3500万キロワットの発電
が可能となるという試算もあり、これは、この夏に予測されている首都
圏の電力不足1500万キロワットの約2倍以上を楽に賄える計算です。

あと、「海底温度差発電」というのもあります。 表層の温かい海水(25
~30度)と、深層の冷えた海水(4~5度)の温度差を利用して発電す
るのですが、風力や太陽光などの自然エネルギーと違って、天候に左右
されずに安定した供給が期待できます。

いずれの方法も、送電方法や経済合理性など解決すべき課題・問題点が
山積しておりますが、日本を始め世界各国の研究機関が実用化に向けて
確実に歩みだしております。

逆に世の中の流れと逆行するかのようですが、「石炭火力発電」も見直
されています。 最新鋭の火力発電所では、石炭を燃やした際のNox
(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)などを削減する技術が大幅に進み、
クリーンエネルギーになってきたということです。

Jパワーの横浜発電所では、大震災の後フル稼働の様ですが、ここも発
電効率が、20%台以下が一般的な太陽光や風力よりも40%以上も高く、
昔の石炭火力のイメージではないようです。

あとは、プロパンガス(LPガス)から電気を作り燃料電池ユニットに
蓄電し、かつ太陽光発電と組み合わせたダブル発電という家庭用向けの
自家発電システムも実用化されてきました。

これからの世の中は、益々節電が求められるでしょうし、さらに究極的
には、各家庭はエネルギーの自給自足へと回帰していくようにも思えま
す。

読者の皆様も、これを機会に発電という課題を身近なものとして捉え直
して、最適なエネルギーとは何かを考え直してみては如何でしょうか?

参考文献:「日本は世界第4位の海洋大国(山田吉彦著)講談社」

常識破り介護への挑戦! バリアだらけの「バリア・アリー」

ビジネス進化論  ~成功するビジネスモデルの法則~
2009/07/31 第 5号 ━━━

デイサービスセンターという老人の福祉施設をご存知ですか?   
高齢者に対して送迎・入浴・食事などの提供、機能訓練、介護方法の指導、
レクリエーションを提供する日帰りの介護施設です。 

発想の転換を行って、常識破りの新しいサービスモデルに挑戦し、高齢者の心を
わしづかみにしている元気一杯のセンターの事例です。
( 主な情報ソース:スーパーモーニング 2009.07.23)


◆サービスの特性として、サービスはお客様との共同作業で作り上
げていくということがあり、この点はハードウェア製品と大きく異
なる点である。

◆お客様の参加をうまく組み立て、お客様に心から楽しんで頂き、
サービススタッフとお客様が一体となって喜びと楽しみを共有する
ことが成功するサービスモデルにとってはとても重要である。

◆これに関連して押さえておきたい点がある。 人間の欲求に関す
る考え方で有名なマズローの5段階欲求説である。 人間の欲求を
5つの段階に分けて、低い段階から上位の段階に進んでいくという
理論である。

◆人間は、食べたい、眠りたいといった「生きるための欲求」が満
足されると、「安全の欲求」、次に「所属したい欲求」へと進み、 
さらに「認められたい欲求」があって、最後に「自己実現の欲求」
というものを満たしたくなるのである。

◆また、ハーズバーグの衛生理論では、働くことや活動することへ
の強い動機づけには、「尊敬されたい」「創造的なことをしたい」
「目標を達成したい」というような、より上位の欲求を満たす必
要があるという。

◆「サービスはお客とサービススタッフの共同で作業する」という
特性と、人間が本来もっている「上位の欲求」を意識すると、成功
するサービスモデルを成り立たせる成功要因というものが見えてく
る。

◆テレビ朝日「スーパーモーニング」で、常識破りの介護に挑戦し、
高齢者の心をわしずかみにして大成功を収めているデイサービス
センターの取り組みが紹介されていた。

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■■ 人間の尊厳と自尊心とは?

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◆そのデイサービスセンターの名前は、「夢のみずうみ村」。 
山口や富山、福岡など全国に6か所のセンターを持ち、「介護施設
の革命児」といわれる作業療法士の藤原氏が運営している。

◆このセンターでは、通常のセンターでは考えられない常識破りの
方法を取り入れて、利用者である高齢者に大変な評判を博している。

◆例えば、「バリアだらけのバリア・アリー」といわれる施設内で
至るところで見られる「高齢者にとって不親切」と一見移るサービ
スや施設類。 

◆「人生の坂道」と名付けられた手摺のない急な階段や、自分で動
いてお皿に盛りつける「バイキング形式の食事」などがあり、敢え
てこうしたバリアだらけの環境にすることで高齢者が自然にリハビ
リをすることに繋がるという。 

◆さらに、レクリエーションの一貫として「おいちょかぶ」と呼ば
れる花札や、パチンコ、ルーレットなど、まるでここはカジノかと
見間違う程にギャンブルを取り入れて、奨励しているのだ。

◆もちろん、ここで掛けるのはお金ではなく、この施設内だけで使
える「ユーメ」という通貨。

◆この「ユーメ」というお金は、例えば自分の食器を片付けると5
ユーメもらえたり、リハビリの目標を立てると100ユーメ、達成す
ると500ユーメなどと決まっており、活動毎に受け取ることができる。

◆施設内のサービスを受けるには、必ずユーメで支払いをすること
になっている。 例えばコーヒー一杯飲むのにも、施設内展示即販
会などで花の苗を買うのにもユーロでの支払いが必要となる。

◆ギャンブルを通じて、皆楽しみながら自然と喜怒哀楽を表わすこ
とによって、眠りかけていた感情の起伏を感じ、頭をフル回転させ、
脳の活性化に役立たせるのが狙いであるという。

◆面白いのは、通常の施設では、作業療法士や介護士らが作ったメ
ニューが与えられるのが一般的であるが、ここでは毎日高齢者自ら
が、その日のサービスプログラムを選択するという仕組みを取り入
れているのである。 

◆ここでは、例えば「ポパイ(筋トレ)」、「何もしない」、
「ボーっとする」、「のんびりする」、「ギャンブル」などのプロ
グラムの中から、高齢者自らが選択し、コミットするのである。

◆放映では、目を輝かせてプログラムを選択し、自ら喜んで自発的
に楽しみながら、リハビリを実行しているお年寄りの生き生きとし
た姿が映しだされていた。

◆結果も具体的数字で出ている。 重度の介護を要する要介護3の
お年寄りの初回利用からの改善率では、全国平均が11.5%であるの
に対して、みずうみ村では何と76.9%となっている。

◆この施設の成功要因は何か? それは、「守ってあげる」「保護
してあげる」対象として見ていたお年寄りを、「自立した」、「自
尊心を持った」対象として位置づけて、本人の自立支援をおこなう
と考えた点である。

◆お客様、ここでは高齢者が自ら選択して楽しみながらサービスに
参加し、自ら決めた目標に向かって、人間の尊厳や自尊心といった
ものを意識しながら喜んで自発的にリハビリを行う。

◆従来よく見られるリハビリは、受け身で辛いものであったが、こ
こでは、自分で選んで、自分でいつまでにどこまで達成させるなど
をコミットする。

◆自分で納得して決めたことなので、モチベーションも上がり、楽
しいし、やりがいもあり、自然に効果も上がってくるのである。

◆人間の尊厳や自尊心を尊重し、「創造的なことをしたい」「目標
を達成したい」「尊敬されたい」といった、より上位の「自己実現
の欲求」を満たすサービスがうまく機能すると、素晴らしい高付加
価値を提供することが可能となるのである。

参考文献:
「顧客はサービスを買っている」諏訪良武氏著(ダイヤモンド社刊)

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■■ 今回の学び ■■
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サービスは、良かれと思ってあれもこれもと欲張ると、ともすれば
お客にとって「余計なお世話サービス」となりやすいと思います。
サービスは、提供するスタッフとお客様の共同作業で成り立ってい
ることが多いことを念頭に、どうすれば一番お客様が喜んでくれる
のか、お客様は本当は何を望んでいるのかを十分考えて、サービス
モデルを構築することの重要性をこの事例は教えてくれています。


お客にとって「余計なお世話サービス」となりやすいと思います。
サービスは、提供するスタッフとお客様の共同作業で成り立ってい
ることが多いことを念頭に、どうすれば一番お客様が喜んでくれる
のか、お客様は本当は何を望んでいるのかを十分考えて、サービス
モデルを構築することの重要性をこの事例は教えてくれています。


メールマガジン(4) 進化するゴルフ場 

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■■■ ■■■ ■■■  今回のお話  ■■■ ■■■ ■■■
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ゴルフ場というビジネスモデルについて考えてみたいと思います。
ビジネスマンの方にとって、ゴルフ場と言えば「接待ゴルフ」とい
うイメージが強いのではないでしょうか? 確かに一昔前は、そう
いったニーズが高かったといえます。 昨今のゴルフ場は、何かと
組み合わせることによって、我々ユーザーが気づいていなかった新
たなニーズの掘り起こしに成功して、生まれ変わろうとしているの
です。

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■■  如何にしてサービスバリューを高めるか?

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◆フリー百科事典「ウィキペディア」を見ると、「ゴルフ場とは、
スポーツの一種であるゴルフをプレーするために設計された施設を
いう」とある。 全国に2000か所以上あるそうだ。

◆ひと昔前、高度成長期からバブル前後までのゴルフ場は、まさに
ゴルフをプレーする場であり、一番のターゲット顧客は、"接待ゴ
ルフ"で使用する法人やビジネスマン
であった。

◆ところが、昨今の日本全体を覆い尽くす経済危機などもから、
"接待ゴルフ"を激減させている企業も多くなり、ゴルフ場もその
ターゲット顧客の見直しを迫られてきた。

◆ところで、サービスサイエンスの考え方でサービスを分解してみ
ると、サービスはサービスメニューの中心となるコアサービスと、
それに付帯するサービスで構成されている
ことがわかる。

◆例えば高級レストランを例に取ると、美味しい料理を提供すると
いうのがコアサービスであり、格調高いインテリアや、ウェイター
の笑顔やホスピタリティなどが付帯サービスといえる。

コアサービスが他社より劣っていたり、顧客満足からほど遠かっ
たりしていては、サービス業としては論外であり、差がつくところ
というのは、付帯サービスで如何に特徴を出し顧客満足を高めるこ
とが出来るかという点にある。

◆競争を勝ち抜くためには、付帯サービスを磨き上げることに加え
てサービスの価値を高める取り組みが必要になってくる。
 高める
ための要素はいろいろ考えられるが、先進的なゴルフ場が取り組も
うとしているのが、「サービスに何かを組み合わせる」ということ
だ。

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■■ 「ゴルフ場」から「カントリークラブ」へ続くフェアウェイ

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◆最近良く雑誌や新聞などで目にするのが、「ゴルコン」という言
葉。 グーグルで検索すると、なんと3.6万件もヒットする。 

◆ゴルフ場でゴルフや飲食を楽しみながら、いわゆる「合コン」を
やってしまおうという新しいスタイルのイベントだ。 ゴルフ場自
らが企画したり、専門の企画運営会社などが多くのツアーを催行し
ている。

◆また、最近、リゾート開発会社とゴルフ場が組んで、ゴルフと別
荘ライフの両方のサービスを1か所で提供するというサービスモデ
ルも出現してきた。

◆リゾート開発会社が、クラブハウス近くのフェアウェイやグリー
ンに面した眺めの良い敷地の地表権を買い取り、そこにリゾート型
のコテージを建て、ゴルフプレー権と抱き合わせで別荘のタイムシ
ェア会員権として販売
するものだ。

◆これらのゴルフを中心とする新しいサービスがユニークなのは、
ゴルフ場を「ゴルフをプレーするための施設」とする画一的な見方
から脱却し、ゴルフ場の持つクラブハウス、レストラン、温泉、美
しい自然に囲まれた風景、周辺の観光地などといった資産に着目し
ているところにある。

◆その結果、ゴルフというコアサービスと掛け合わせることによっ
て、ゴルフ場が新しいサービスバリューを生みだすことに成功をも
たらした。

◆ターゲット顧客も、今まではビジネスマンの接待族が主なターゲ
ット顧客だったのに対して、パートナーを探している独身の男女層
や、別荘ライフをゆっくり楽しもうとする初老の団塊の世代などが
ゴルフ場の新たなターゲット顧客として認知されるようになった。

◆このように他のサービスを組み合すことによって、新たな需要を
創出する
ことができ、ゴルフ場への新規来場客を増やしたり、リピ
ート客化させることに成功している。

◆実際、海外を見てみると、ゴルフ場の名前として、XXXカント
リークラブと付けていることが多く、ゴルフのプレー以外に、地元
のカップルが結婚披露パーティを挙げるために使ったり、小さな演
奏会が催されていたり、ビジネスマンが仕事帰りにぶらっと立ち寄
って、クラブハウスの中の重厚なバーで一杯やって仲間と語って帰
るというように、様々な目的で活用されていることが多い。

◆小生が商社時代に駐在していた南アフリカにも多くの美しいコー
スがあり、コースの敷地内には多数の大きな一戸建てが建てられて
おり、多くの人が自宅として購入し、住んでいた。

◆プレーしている我々をバーベキューを楽しみながら、あるいはデ
ッキに横たわりながら眺めて、時々手をあげて挨拶を交わしたりし
たものだ。

◆まるで居住施設を組み込んだ地元の公会堂のような使われ方であ
り、まさにカントリークラブという名前が見事にマッチしていると
言える。

付帯サービスも多様化・高度化している。 あるゴルフ場では、
キャディの代わりにGPS機能がついたカートを完備し、運転席上部
についたモニターからコースの詳細情報やカートからピンまでの正
確な位置情報、スコア登録計算機能を提供するところもある。

◆また、女性ゴルファーだけにターゲットを絞ったランチ・みやげ
付き格安レディースパックや、2人だけでのラウンドや、18ホー
ルを連続して回るスループレーが可能であったりと、ゴルファーの
多様なニーズに的確に応えて、サービスレベルを向上させている。


◆このように、今までのものの見方や視点を変え、新しい何かを加
えることで、ユーザーも気づかなかった意外性のある全く新しいサ
ービスモデルが創造されるのである。

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■■今回の学び ■■
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人間は、固定観念に縛られ、新しい発想が浮かばなくなることがよ
くあります。 その時は、何か全く別のものと組み合わせてみると、
面白い発想が浮かび上がることがあります。 新しいタイプのゴル
フ場のサービスがそうであります。 新しいタイプのゴルフ場とい
っても、特別にすごい、今まで見たこともないような仕掛けや技術
を取り入れる必要はありません。 「ゴルコン」なんかも特別な合
コンをやっているわけではありません。 今まで通りの合コンをた
だゴルフ場でやるという発想の転換がポイントです。 
新しい発想に困ったら、まったく違うものやサービスを並べて、どんどん
組み合わせてみると意外に簡単に面白いサービスが生まれるかも知れ
ません。に困ったら、まったく違うものやサービスを並べて、どんどん組み
合わせてみると意外に簡単に面白いサービスが生まれるかも知れません。


メールマガジン(創刊号) 日本一お客思いのスーパー

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■    成功するサービスモデルの法則
■■   ~事例で学ぶサービスサイエンス~

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 創刊号 ━━━

◆はじめまして。現役の事業開発・強化コンサルタント兼
サービスサイエンティストの三宅信一郎です。

◆成功しているサービスモデルには必ず成功の法則が存在します。
これからサービスサイエンス的アプローチを用いて、そのサービスを
観察しモデル化することで、その特徴を可視化し、そのサービスを成
り立たせている論理を明確にし、より高い価値を提供するサービスと
は何なのかといった本質を読者の皆様と探求しながら共有していき
たいと思います。

◆その結果、日本のサービス分野において、より高い価値を提供する
サービスがひとつでも多く現れて、より快適な世の中になればいいな
と思っています。

◆創刊号では、実在の企業ではないですが、故伊丹十三監督の「スー
パーの女」という映画に出てくる「正直屋」というスーパーを事例と
して取り上げました。「正直屋」が、どのようにそのサービスレベル
を向上させ、どん底から這い上がり成功に至ったかを分析してみたい
とおもいます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■    日本一お客思いのスーパー

━━━━━━━━━ 情報ソース:伊丹十三作品「スーパーの女 ━━

◆のど元過ぎればなんとやらではないですが、昨年は、中国から
輸入された餃子の農薬混入問題で、食品の安全性が疑問視され、
大変大きな社会的問題になったことを覚えていますか?

◆有名ブランドを誇る大手食品会社の信用問題までに発展しま
した。

◆忘れた頃に繰り返される食品への偽造、偽装、安全問題。立派
に立ち直った会社もあれば、この世から姿を消した会社もありま
した。あまりにも多すぎて、一つひとつの事例がどういう問題を
起こして消費者にどんな被害を及ぼしたのか、思い出せないくら
いです。

◆毎年恒例の京都清水寺の僧侶が書く「今年の漢字」の2007年
版は、情けないことに「偽」でした。偽装、偽証、偽計の「ギ」
だそうです。

◆こういう状況を見ていますと、企業経営において「顧客志向」
、「現場主義」が大事である!などと昔からよく語られますが、
そんものいったいどこに行ってしまったのかと思ってしまいま
す。

◆ある日、近くのビデオレンタルショップに行って、故伊丹十三
監督の「スーパーの女」という映画のDVDを借りてきて何年か
ぶりに改めて観てみました。

◆私がパートナーとして所属しているワクコンサルティングとい
うコンサルタント集団の中でのある研修会で、「顧客志向とは
何か」という本質を学ぶには、この映画は素晴らしい映画だから
ぜひ観るといいと先輩コンサルタントに薦められたからでした。

◆この映画を観てびっくりしました。1996年の作品なのでも
う10年以上も前に作られたのですが、そこに描かれているスト
ーリーは、まさに昨年来から問題になっている食品偽装に真正面
から取り組んで、真の顧客志向を追及するスーパーの物語が描か
れておりました。

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■■  売れるためのビジネスモデルの仕組みを読み
■   解く

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◆スーパーの名前は「正直屋」。宮本信子演じる主人公が、ある
とき近隣にオープンした安売り日本一を歌い文句にする「安売り
大魔王」という後発のスーパーに客を取られてしまい、そこに対
抗するために、幼馴染みの社長を支えながら、お店の改革に着手
し、やがて遠のいていたお客を見事取り戻すというストーリーが
描かれています。

◆主人公が支援を開始したときの正直屋は、名前とは全く正反対
のオペレーションを行っていました。

◆たとえば、業界の常識だといって、前日の売れ残りの肉や魚を
パックし直したり(リパック)、日付を偽装したり、高級肉に安
い肉を交ぜてかさを増してごまかしたりと、消費者がまさかと思
ようなことを平気で行って、儲けることばかりを優先していまし
た。

◆儲け至上主義が偽装を生み、結局儲けるどころか、結果として
大事なお客様を競合に奪われてしまいました。

◆お客様もさることながら、そこで働く社員やパートのおばちゃ
んでさえも、正直屋で買うことがないスーパーにまで落ちぶれて
しまいました。

◆そこで、主人公は、何よりも大切なことは何かを考えに考え抜
いた末に、それは、「お客様に本当に喜んでいただくこと」であ
るということに行きつき、それをビジョンとして掲げるに至りま
した。

◆そして、日本一のお客様思いのスーパーに何があっても生まれ
変ろうと強く決意したのです。

◆それからは、偽装に手を染めていた職人やマネージャー、調達
先の社長などから、猛反発に遭いながらも、偽装を良しとしない
一部の社員やパートのおばちゃんたちと一緒になってお客の声を
真摯に聞き留め、希望や要望を吸い上げ、たとえ誰が抵抗しよう
と、多少お店に損が出ることになろうと、やらなければならない
ことにひたすら邁進するのです。

◆この正直屋のビジネスモデルから学べることは、

1.顧客志向・現場主義

2.情熱をもったリーダーの存在(主人公)と明確なビジョン
(こうあるべきという誰もが理解しやすい方向性)

3.既存の業務プロセスの見直しと改革(改善ではない)

4.社員のやる気の喚起

の4点であると思います。

◆顧客満足(CS)の解説本を何冊も読むよりは、顧客志向の入門
を学びたい方は、是非この「スーパーの女」を見るのが一番ス
トレートでわかりやすいと思います。

◆以前ご覧になった方も、初めからこの映画から顧客満足向上の
方法論を学ぼうなどと思って見た訳ではなく、小生もそうでし
たが、単なるエンタテイメント映画としてご覧になった方がほ
とんどだと思います。

◆その時と違い、ぜひこのような観点から皆さんも一度ご覧にな
ってみてはいかがでしょうか?

◆ただ、本当に今すぐ見てほしい方々は、冒頭に記載した企業の
経営者の方々ですね。ぜひ正直屋のように見事に再生して、以前
のように消費者の満足度を向上させて、夢を与えてもらいたいと
思います。

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■■ 本日の学び ■■

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◆企業の商品の売れ行きが向上するとしたら、何がそのきっかけ
となり得るのだろうか。熱い思いを持った経営者が、顧客の「事
前期待」に真摯に向かい合い、そこに提供価値の拠り所を見出す
地道な努力がなされた時に初めてビジネスが動き出すのではない
だろうか? そのためには常に顧客の「事前期待」を収集する仕
組みを構築する努力を続ける必要がある。

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■■ 編集後記 ■■

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◆最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございました。
これからもこれぞというサービスモデルを見つけて、解説をして
いきたいと思っておりますのでお楽しみに。

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メールマガジン 「成功するサービスモデルの法則」記事への
ご意見やご感想、ご質問などを是非お寄せ下さい。
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発行責任者:三宅信一郎 shinichiro.miyake@bfc-con.com

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社内回覧・転送などはご自由に行いください。 但し、その際、
全文を改変などすることなきようお願い申し上げます。

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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (18)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を元に小説風にしました。


いったんホテルに戻って、丸の内重工の皆様をお連れして
支店長宅に着くと、夜の7時は過ぎていた。


もう既に酔っ払って赤い顔をした永井店長が上機嫌で
玄関まで出迎えてくれ、一行を30畳はあるであろう
大きなリビングルームに通してくれた。


縦横3メーターはあると思われる巨大スクリーンには、
既に例の同期の両国が持ち込んだというビデオが堂々と
上映されており、その前の机には、宮田が持ち込んだ
日本酒がまるでお供え物のように大事に並べられていた。


そこには、大日本商事テヘラン支店の駐在員20名ほどと
数社のメーカーの日本からの出張者の方々がすでに
ずらりと勢ぞろいし、リビングのソファに腰を下ろして
既ににぎやかに一杯やっていた。


「よう!宮田」

「こんなところで会うとはな。 元気そうじゃないか」


同期の両国が声を掛けてきた。


お互いの入国審査での苦労話で花が咲き、イランへの
出張目的なんかで話が大いに盛り上がった。


宮田の所属している課の篠原由美子が人気があって、
目の前に座っている宮田がうらやましいとか気楽な
話題で盛り上がり、また、遠い異国の地で気楽に話せる
同期がいることで気分も和んでいたところへ、永井支店長が
突然立ち上がり、皆の前に一歩進んで威勢よく切り出した。


「皆さん!

このたびは、日本から遠く離れたこのイランの地へ
ようこそおいで下さいました。

本日は弊社が世界に誇ります2人の若手有望株であります
機械の宮田と石油の両国両氏のお陰で、このテヘランの地で
一大エンタテイメントをひらくことができました。

是非とも夜遅くまで存分にお楽しみいただきたいと思います!」


その後、改めて上機嫌の支店長の乾杯の音頭を皮切りに
どんちゃん騒ぎが始まり、興奮の絶頂に達した支店長は
自らスーツを脱いで上半身は裸で、下はステテコ一枚となり、
さらに頭にネクタイを鉢巻代わりに巻いて、リビングの中央で
得意のどじょうすくい踊りの真似事をして丸の内重工の皆様
から笑いを取っては、日本酒をあおるように飲んでいた。

「ピンポーン」

皆が盛り上がっているその時、突然玄関のベルが鳴った。

すぐに同期の両国が玄関に飛んでいってトビラを開けた。


そこには現地のイラン人電気工事屋が立っていた。


「こんにちは。電気工事に参りました。お昼に永井支店長
からお電話をいただき、リビングの天井のシャンデリアの
調子が悪いので本日夜に修理に来て欲しいという依頼を
受けて、ただいま参りました」


「ちょ、ちょっと待ってください」


両国は電気工事屋を玄関で待たせて、酔っぱらって
上機嫌でどじょうすくいを披露している支店長のところへ
一目散に駆け寄って、大声で叫んだ。

「永井さん! 電気工事屋が来ましたが、どうしましょうか?!」

その声を聞き踊りをピタリと踊りをやめた支店長は、
見る見る内に急に冷静になってこういった。


「えー?あー???、そうだった!
頼んでいたことをすっかり忘れてた!
こんな情景を見られては大変まずい。
す、すぐに帰ってもらい、後日出直すようにに言ってくれ! 
そして彼を家の外からすぐ出してくれたまえ!」


「わ、わかりました!」

両国はそう答えて、すぐに玄関に向かおうと踵を返したした
その時、すでに電気屋は気を利かして家の中まで
上がり込んできてしまっていたのだった。


イラン人電気屋は、リビングのドア入り口に立ち、
目の前で何十人もの日本人達がアルコールのにおいが
プンプンする部屋でお酒を飲みながらポルノビデオを見て
乱痴気騒ぎをしている部屋の一部始終を呆然と
直立不動の姿勢で見つめているところであった。

それを見た支店長が言った。


「あー、み、見られたあー!」


「ま、まずい!」

とっさにそう思った宮田は、両国に目配せして、その電気屋の
両脇を両国と一緒に一気に抱え込んで、家の外に一気に
連れ出した。


柔道仕込みの両国によって一気に外に放り出された電気屋は
頭を抱えて何かをつぶやきながら、こちらを振り向くことなく
「ワー!」と叫びながら一目散に走って支店長宅の表門から
闇の中に消え去っていった。


「あー、もうこれで終わりだ。
この伝統ある大日本商事テヘラン支店の歴史も今日の
この日で終わりだ・・・」


支店長の悲痛なつぶやきがむなしく宴に響いて行くのであった。

次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (17)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


大日本商事テヘラン支店は、機械、鉄鋼、石油などの
取引を中心とし日本人駐在員数20数名を誇る中東に
おける重要な支店である。


支店を構えて30年以上は経つ、大日本商事の海外支店
の中でも伝統のある海外支店のひとつであった。

「何だ?これは」

日本酒1ダースを宮田からすっと差し出された永井店長は、
目を丸くして言った。


税関でイラン人の検閲官と同じ言葉を発した。

「君は本当に日本酒を持って入国してきたのか???」

「は、はー・・・」
<そやかてあんたがそう言うてたやないけ・・・>


「今まで恒例行事として冗談半分で東京からの出張者に
日本酒の持ち込みをお願いはしてきた。
だが、東京側もだれも真剣に受け取ってくれないし、今までで
本当に持って来る人間なんて誰一人としていやしない。
イランの入国審査でとっつかまるのは目に見えているからね。
だからいつもジョークのつもりで打電していたんだ。 
本当に日本酒持って入国してきたのはこのテヘラン支店
30年以上の長い歴史の中でも宮田君、あんたが初めてだ!
それも12本とは!」


宮田は照れ隠しで頭をかいてみたが、これってほめられて
いるのか、馬鹿にされているのかわからないなと感じていた。


長らく日本酒を手にすることがなかったのであろうか、
うれしさのあまり段々興奮してきた支店長は続けた。


「宮田君。
さらに今日は、君の同期でドイツから同じく今日入国
してきた石油部の両国君は、なんと、ポルノビデオを
3本も持って入国してきた。それも貴重なドイツものだ。

あー、今日はなんと素晴らしい日であろうか!

イスラム諸国の中でも特に戒律の教えに忠実で厳しい
このイランの聖地に、日本の二人の勇気ある若者が、
危険を承知で素晴らしいものを持ち込んでくれた。

これはテヘラン店にとって歴史的な日となることだろう。

今日はもう仕事は終わりだ!
早速仕事を切り上げて、我が家で丸の内重工の
皆さんも呼んで、盛大に大日本酒ビデオパーティを
やろうではないか!」


永井支店長はその場で失神してもおかしくないくらい興奮しきって
叫んでいた。

永井支店長の普段の生活が相当抑圧されたものであることは
容易に想像できた。


<アホちゃうか。このおっさん・・・こういう環境で駐在して
いると、こうなるんかなー。こーだけにはなりとうないわ>


支店長宅は、1000坪はあろうかという大豪邸で、日本
企業の支店長クラスはほとんどがこの手の大邸宅を
会社資産として所有し住んでいた。


支店長宅は、運悪くイランの最高指導者ホメイニ氏の
自宅に程近いところの豪邸街にあった。


これが影響してか、支店長宅の周りには多数の瓦礫の
山と大きな穴が無数にあいていた。


支店長宅の周辺が荒れている理由は明快だった。


テヘランの町のすぐ北には5671mもあるダマヴァンド山
という主峰を筆頭に4000mから5000m級の大きな
山脈が連なっている。


ホメイニ氏の自宅を狙って空爆を仕掛けてくるイラク
戦闘爆撃機は、まず急降下してホメイニ氏宅を狙って
ピンポイントで爆弾を落とそうとする。


だが、直前にそびえるこの巨大山脈が邪魔して、降下
体制を長時間維持できずに仕方なくホメイニ氏の自宅の
手前で爆弾を早めにリリースしまうのであった。


その理由は、そのまま低空飛行を続けていると戦闘機が
山脈に激突してしまう恐れがあるからである。


仕方なく早めに落としてしまう場所がちょうど支店長宅の
ある場所にあたっていたので、たびたび会わなくてもいい
爆弾の被害を受けていた。


だが奇跡的に支店長宅への直接的な被害は免れていた。


いったんホテルに戻って、丸の内重工の皆様をお連れ
して支店長宅に着くと、夜の7時は過ぎていた。


次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (16)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。

「これは何だ!?」


係官が疑いの眼で聞いてきた。


その時宮田はとっさに答えた。


「こ、これはTAMAN(田万)という
ジャパニーズライスジュースだ!」


「ライスジュースだと? それではこれは何だ?」


係官が指し示すラベルの先の数字の前後には、
カタカナと漢字でこう書いてあった。


(アルコール分25度)


幸運にもアルコールという文字が英語でかかれて
いなかったことをとっさに宮田は確認して堂々と
こう言い切った。


「米の成分が25%ということだ」


係官は、宮田の返事に一瞬怪訝な顔をしたが、次々と
紙パックを手にしてしきりに振って、ちゃぷちゃぷという音を
何度も立てながら、他の同僚係官となにやら話してから
最終的に宮田にこういった。


「検査は終了だ。週刊誌だけ没収する。
スーツケースのふたをして行ってよろしい」


検査自体はものの20分ぐらいだったが、宮田にとっては
数時間に感じられた。

終わったときには汗だくで放心状態であった。

税関を無事めでたく通過した宮田は、バゲッジクレーム
(荷物受け取り場)で心配そうに待っていた内村技師と
合流した。


「宮田さん。絶対出て来れないと思ってました。
よかった。よかった。 本当によかった。 
それにしても日本酒を12本もこのイランに持ち込んだなんて。
私も中東での仕事長いけどそんな日本人見たのは宮田さんが
初めてだ」


空港から外に出て天を仰いで見ると、9月のテヘラン市内は、
標高が高いこともあって、紺青色に澄んだ青空が広がる
とても気持ちのいい天気に覆われていた。

街中は、オートバイや車が多数走り回り、歩道には多くの
露店や通行人であふれかえってにぎわっており、
とても戦時中とは思えないほど活気に満ちており、
もっと暗いイメージをもっていた宮田は逆に平和な感じが
する街中を見て拍子抜けした。


宮田がチェックインしたホテルは、テヘランでも有数の
高級ホテルで、ロビーの大きな壁一面に

「打倒!アメリカ。 打倒!イラク」

という垂れ幕が掛けられている以外は豪華でゆったりした
ロビーをもった快適なホテルであった。

入国審査での大仕事の際の緊張感から開放された宮田は、
長旅を癒そうとしてロビーでゆっくりとくつろいでコーヒーを
すすっていた。

その時、数人の男たちに突然囲まれた。

全員が、重機関銃を持った屈強な兵士であった。
彼らは、宮田の回りを取り囲んだあと、驚く宮田に
こう言った。


「宿泊客か?」


「え・・・。 そうだが・・・?」


「我々は革命防衛隊のものだ。
お前の服装には大きな問題がある。
イスラムの戒律では、男も足や腕を出してはいけない。
すぐに長袖、長ズボンに着替えてもらいたい!」


そういわれて宮田は自分がTシャツ、短パン、草履姿で
座っていることを自覚した。

日本酒の指示だけしかなかったテヘランテンの総務を
恨んだ。


「わかった。すぐに部屋に行って着替えてくる」


「No!
本当に着替えるかどうか、部屋まで同行する!」


かくして自分の部屋まで連行され、数人の屈強な
銃を持った兵士に取り囲まれながら、素っ裸になって
着替えを余儀なくされた宮田は、


<とんでもない国に来てもうた。 ほんまに俺は異国の地
にいるんや・・・・>


ということを強烈に意識した。

部屋の壁には、空港の入国審査へと向かう通路に
あったのと同じホメイニ帥の写真が飾られ、宮田を
睨みつけていた。 

部屋の外からは、毎日定時になると街角のスピーカー
から流される、コーランの物悲しい旋律が聞こえてくるの
であった。


<何で一日で2回も人前でパンツ一丁にならなあかんのやろ・・・>


その日の夜は、無事持ち込んだ日本酒1ダースを大事に
かばんに隠し持ちながら、依頼した張本人である永井支店長の
待つ大日本商事テヘラン支店へタクシーを飛ばしていた。


次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (15)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「こ、これが戦時体制の空港か!」


バンコック経由ドバイで一泊し、翌日イラン航空機でやっと
2日間かけてテヘラン空港に到着し、入国審査窓口に
向かった宮田は驚いた。

税関の係官がいる検問所への通路の両側に重機関銃で
武装した兵士が何人もずらりと並んで、入国審査待ちの
乗客を睨みつけて立っている。

成田空港では到底考えられないようなその威圧感からくる
重苦しい緊張感の漂う空気に触れたその時て、初めて
宮田は心のそこから後悔した。


<あー。日本酒なんか持ってくるんやなかった。あー・・・・>


後悔先に立たずとはこのことである。


兵士が並んで立っている後ろの壁にはイランの高名な
宗教・政治指導者であるホメイニ師の大きな顔写真が
ずらりと飾られている。


「宮田さん!!。お酒、大丈夫ですかね?
この雰囲気だと見つかったらただじゃすまされないですよ・・・」


一緒に東京から現地入りした、丸の内重工のベテラン技師
である内村が心配そうに尋ねてきた。


「かといって、今ここで飛行機に戻ってずっと隠れているわけ
にも行きませんし。
捨てるといっても、この兵隊の列の中では・・・。 
なるようにしかならないですよ!」

宮田は虚勢を張って答えた。


「Next!」


ついに宮田の順番がやってきた。
係官が大きな声で指示した。


「Open!」


宮田はスーツケースのフタをそっと開けながら祈った。


<どうぞ神様。仏様。 見つかりませんように>


日本の神様が逃げ切るか。
イスラムの神様がそれを阻止するか。
ふたつにひとつである。


立派な口ひげを蓄えた長身のイラン人係官は、いくつかの
荷物に触れ、ごそごそと調べた後、意外にもすぐにふたを
パタンとしめて、

「OK. You can go」

とあっけなく言った。


宮田と、横にいた内村技師は顔を見合わせ、
ほっとした。


「サ、サンキュー!」


<やった!助かったやないの!>


小躍りしそうになるのを押さえて、努めて冷静さを
装いながら、その場を敢えてゆっくり立ち去ろうとした
その時、係官が宮田を呼び止めた。


「Wait!  What is that?  Show me!」


そう言って係官が指差したのは、宮田が手に持っていた
日本の若者向け男性週刊誌であった。

係官が週刊誌を手にとって最初のページをめくった。
そこには、女性の鮮やかな水着写真が飛び出してきた。

係官の顔色がだんだんと赤くなってくるのを宮田は
見ていた。

係官は週刊誌を持ったまますぐに奥の部屋に去っていき、
すぐに仲間の係官数人と共に宮田のところに戻ってきて
こう言い放った。


「お前の持っている週刊誌はイスラムの戒律違反である。
再度お前の全ての持ち物ならびに身体の検査を徹底的に
行うことにする。
奥の個室に連行し、そこで取調べを行う!」


<し、しもた!週刊誌でひっかかるとは・・・>

とっさに宮田は、その本欲しければ君にあげると
言おうとしたが、そんなことで流れが変わるはずもないと
悟って観念した。


<なるようになれ!>


こうなっては開き直るしかない。 
先ほど内村技師に言った言葉を思い出していた。
個室に入ると再びスーツケースを開けられ、今度は
中身をひとつ残らず出されて、全て机の上に並べられた。

宮田はパンツ一枚の格好で立たされた。

いよいよ問題の日本酒をつつんでいるタオルに係官が
手を掛けた。

宮田自身さえもいかにも怪しげだなと感じるような荷姿を
係官が目にしたとき、係官もこれは極めて怪しいと感じたのか、
他の数人の同僚係官にあごで合図を送り、一緒に確認
するよう依頼した。


「開けろ!」


係官の指示に従って、タオルや紙をはがして、丸裸となった
日本酒の紙パックを係官に手渡した。

紙パックの表面には日本語で、(清酒田万)と、見事に立派な
太い字で描かれている。

係官が数人がかりで紙パックの外装の表面をなめるようにして
観察している。


「これは何だ!?」

係官が疑いの眼で聞いてきた。


次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (14)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「宮田くん。どこに出張?」


「イランって言われました。」


「えー!? イ、イラン??? 
それは、・・・大変!」


宮田は心のなかで叫んだ。

<よりによって初めての外国、初めての海外出張が
イランとは!
アメリカやヨーロッパはどこへいったんか!?ほんま!>


当時イランはイラン・イラク戦争の真っ只中であった。
米ソを中心とする世界的な冷戦構造が続く中、旧ソ連が
イランを、米国がイラクを政治的・軍事的に支援しており、
イラン・イラク戦争は実際は背後の大国が操る泥沼の
戦争の様相を呈していた。

特に米国の全面的支援を受けているイラクは、
フセイン大統領のカリスマ性もあいまって、イランに
対して圧倒的な武力攻撃をしかけ戦況を有利に展開して
いた。

一方のイランは、旧ソ連から譲り受けた旧式の装備が
中心であるため劣勢に立たされ、国境を越えて音速で
侵入してくる最新鋭のイラク爆撃戦闘機による空爆が
首都テヘランやイラク国境付近で頻繁に起こっており、
日系企業主導の幾つかの火力発電プロジェクトなどが
イラク軍の爆撃の被害にあうという報道が連日のように
日本でもなされていた。

今回の出張はまさに空爆のさなかの首都テヘランで
あったのだ。


「おい、宮田。今回の出張は、お前も関与しているイラン
でも有数の企業であるアルミニウム オブ イラン
(Aluminium of Iran Co.Ltd、通称アロイコ{ALOICO})
の案件だ。

今、イランでは民需用の圧延製品の需要が大きく
伸びている。
特にアルミ箔やアルミニウム缶や自動車のラジエータ用途
などの需要であり、アロイコはその需要を大きく取り込もうと
しており、それに必要な設備能力の増強のために圧延機を
必要としている。
そのためのプロジェクトだ。
うちはこの分野で有数の実績を誇る丸の内重工業と
コンソーシアムを組んで参画している。
先日国際テンダー(入札)があり、うちのコンソーシアムは
丸の内重工の圧延機一式をフルターンキーベースで
50億円という数字で応札した。
この入札書類は一部お前にも手伝ってもらった。
第一次価格審査はおかげさまで無事通り、今回は、
第二次審査である技術検討会がテヘランのアロイコ本社で
行われ、うちのコンソーシアムも呼ばれている。
この技術検討会の結果がよければ大きく受注の可能性が
高まる。
これに丸の内重工の技術者らと同行願いたいのだ」

淡々と説明を進める関の顔を見つめながら、宮田は
本当にイランに行くんだ、というより行かされるんだと
覚悟を決めていった。


「宮田よ。現地のテヘラン支店長である永井さんから
テレックスが入っている。
今回東京から来る出張者、つまりお前に持ってきて
もらいたいものがあるらしい。
内容をよく読んでできるだけ持って行って差しあげろ。
何せ現地は戦時状態の上に、中東でももっとも厳しい
イスラムの戒律を守っている国家のひとつだからな。
そんな国での駐在生活というのは色々不自由があるもんだ」
 

宮田は、出張を翌週末に控えた土曜日、京浜東北線
大井町にある独身寮の近くにあるスーパーの日本酒
売り場で、幾つかの日本酒を手にとって見比べながら
悩んでいた。


大日本商事テヘラン支店長永井から関へのの御願いは
こうであった。


「KIHO KARANO SHUCCHOUSHA NI ONEGAI ARI Z
NIHONNSHU WO ONE DOZEN JISAN SARETASHI Z
TSUKAN NIHA JYUUBUN CHUUI SARETASHI Z
YORO ONEGAI SHIMASU ZZKOOUN WO INORU 」


要は
「入国審査に十分注意して日本酒を1ダース持ってきて
欲しいのでよろしく」
という御願いであった。


宮田はイスラム圏の国にアルコールを持ち込むという
ことで一瞬嫌な予感がしたが、店長自らの御願いでも
あり、何とかしようとして、できるだけ外見が日本酒に
見えないものをデパートで探していたのであった。

このことが後でどれほどの災難に発展するかも全く
知らずにいた宮田であった。

当時、日本酒は、昔からの一升瓶に取って代わり、
紙パックスタイルのものが世の中に出回りだしていた。


「紙パックだったら、わからないだろう」


そう考えた宮田は、紙パックスタイルの日本酒で、
(田万)という銘柄を12本購入して、寮の部屋で一本
ずつていねいに紙で包み、さらにそれを白いタオルで
くるんで、海外出張用のスーツケースの一番下にずらりと
並べて、さらに全体をバスタオルで隠すようにして詰めた。

次回へ続く

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (17)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


その日の夜は、無事持ち込んだ日本酒1ダースを大事に
かばんにひた隠しながら、依頼した張本人である
永井支店長の待つ大日本商事テヘラン支店へタクシーを
飛ばしていた。


大日本商事テヘラン支店は、機械、鉄鋼、石油などの
取引を中心とし日本人駐在員数20数名を誇る中東に
おける重要な支店であり、支店を構えて30年以上は
経つ大日本商事の海外支店の中でも伝統のある
海外支店のひとつであった。


「何だ?これは!」


日本酒1ダースを宮田からすっと差し出された永井店長は、
目を丸くして言った。


「君は本当に日本酒を持って入国してきたのか???」


「え? えー・・・」


「今まで恒例行事として冗談半分で東京からの
出張者に日本酒の持ち込みをお願いはしてきたが、
東京側も、だれも真剣に受け取ってくれないし、
それを真に受けて本当に持って来る人間なんて、
誰一人としていやしない。
イランの入国審査でとっつかまるのは目に見えて
いるからね。

だからいつもジョークのつもりで打電していたんだ。 

本当に日本酒持って入国してきたのはこのテヘラン
支店30年以上の長い歴史の中でも、宮田君、
あんたが初めてだ! それも12本とは!」


宮田は照れ隠しで頭をかいてみたが、これってほめられて
いるのか、馬鹿にされているのかわからないなと感じていた。

長らく日本酒を手にすることがなかったのであろうか、うれしさ
のあまり段々興奮してきた支店長は続けた。


「宮田君。さらに今日は、君の同期でドイツから同じく今日
入国してきた石油部の両国君は、なんと、ポルノビデオを
3本も持って入国してきた。 それも貴重なドイツものだ。

あー、今日はなんと素晴らしい日であろうか!

イスラム諸国の中でも特に戒律の教えに忠実で厳しい
このイランの聖地に、日本の二人の勇気ある若者が、危険を
承知で素晴らしいものを持ち込んでくれた。

これはテヘラン店にとって歴史的な日となることだろう。
今日はもう仕事は終わりだ!早速仕事を切り上げて、
我が家で、丸の内重工の皆さんも呼んで、盛大に大日本酒
ビデオパーティをやろうではないか!」


永井支店長は、普段の生活が相当抑圧されたものであるらしく、
その場で失神してもおかしくないくらい興奮しきって叫んでいた。


<アホちゃうか。このおっさん・・・こういう環境で駐在していると、
こうなるんかなー>


支店長宅は、1000坪はあろうかという大豪邸で、日本企業の
支店長クラスはほとんどがこの手の大邸宅を会社資産として
所有し住んでいた。


支店長宅は、運悪くイランの最高指導者ホメイニ氏の自宅に
程近いところの豪邸街にあった。 

これが影響してか、支店長宅の周りには多数の瓦礫の山と
大きな穴が無数にあいていた。

支店長宅の周辺が荒れている理由は明快だった。 

テヘランの町のすぐ北には、5671mもあるダマヴァンド山
という主峰を筆頭に、4000mから5000m級の大きな山脈
が連なっている。

ホメイニ氏の自宅を狙って空爆を仕掛けてくるイラク側
戦闘爆撃機は、まず急降下してホメイニ氏宅を狙って
ピンポイントで爆弾を落とそうとするのだが、直前にそびえる
この巨大山脈が邪魔して、降下体制を長時間維持できずに
仕方なくホメイニ氏の自宅の手前で爆弾を早めに
リリースしまうのであった。

理由は、そのまま低空飛行を続けていると戦闘機が山脈に
激突してしまう恐れがあるからである。

仕方なく早めに落としてしまう場所がちょうど支店長宅のある場所
にあたっていたので、たびたび会わなくてもいい爆弾の被害を
受けていた。

だが奇跡的に支店長宅への直接的な被害は免れていた。


次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (13)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第三章 初めての海外出張


柴田の話を聞いて興奮した新人時代からからあっという
間に3年という月日が経っていた。

お客様のさらにその先にいるお客様や、市場のニーズ
から把握するという考え方を頭の隅に叩き込んだ宮田は、
その後、日本非鉄金属の狙うべき市場ニーズに目を
つけて、日々の営業活動を行うよう努力していった。

その結果、徐々にではあるが、最初は冷たかった
鹿沼工場の人々も、宮田がもってくる話に耳を傾けて
くれるようになり、行けば向こうから


「宮田さん。今日は何か面白い話ないの? 欧米の客の
動きとか?」


と声を掛けてくれる資材部や設備部の人も現れてきた。

圧延機などの大型商談こそまだ扱う実力には至らない
ものの、中規模程度の設備商談には、関の荒っぽい
指導の下、何とかこなせる実力がついてきたようで
あった。


宮田は、先輩の関がかってアルミ缶のニーズに目を
つけたと同様、日本非鉄金属自身が次に着目しなくては
ならないニーズを必死で探そうとしていた。


鹿沼工場に通う以上に頻繁に柴田や同期の森永らが
いる非鉄金属製品部に足しげく通って情報交換や
相談をしていた。

日本非鉄金属協会など公的な関連機関にも訪問して
情報収集を行った。


日本非鉄金属という会社にも歴史があり、企業戦略がある。
その流れに乗ったものでないとダメだ。 
突飛な提案は受け入れられない。日本非鉄金属だから
こその流れがある。
その先のニーズを探さなくてはダメだ。 
さらに最後には大日本商事が大型プラント・設備受注に
結び付くようシナリオでないといけないと考えていた。

色々資料は集まってきた。

ある日、集めてきた資料を前ににして頭を抱えていた
ところ、入社したての頃赤坂での食事に誘ってくれた
マイクが声を掛けてきた。


マイクは、その後コーチ役として宮田の指導をして
くれている。


「やー、相変わらず頑張っているようやね。 
どないですか?」


ハンガリー向けアルミ鋳物部品プラントの入札のため
一ヶ月近い海外出張から帰国したばかりのマイクが、
例によって優しくて奥の深い包容力のある青い目を
輝かせながら、宮田を見て微笑んでいた。


宮田は、一緒に仕事上で組んでおり、人事上いわゆる
指導員と位置づけられている関には、どうしても自分の
弱みを見せたくないと思うのか、素直に色々聞けない
のだが、このマイクにはいつも本音で困ったことは
相談してみようという気になっていた。


宮田は自分が抱えている課題、日本非鉄金属工業の
ニーズという壮大なテーマで行き詰っており、いい
方向性が出ないで悩んでいると相談してみた。


「宮田君。ええ質問やね。
あんた、マーケティング志向で取り組んでいるようで、
ほんまええわ! 実にええね」


マイクは、宮田の机の上の資料の山をちらっと見て
さらにこう続けた。


「相当資料を集めたようやね。 そういうときは、
ここは一旦、木を見て森を見ずとならんように、敢えて
大所高所で物事を見てみてはどうやろ?

自分も枝葉に入り込んで森が見えなくなったときに
ようく使うんやけど、単純やが使いやすい考え方が
ありまんねんで。

{What we have done}
{Where we are} 
{To where we have to go}
というステップで考えてみてはどうやろ?

日本非鉄金属は、今までの歴史で何をしてきはった
のか? その結果いまどこにいはるのか?
これからどこに向かおうとしはってるんか?」


宮田は、マイクからヒントをもらったお陰で次の
ステップに進めそうだと感じていた。


そこへ、関から声が掛った。


「おーい。宮田。ちょっとこっちへこい。 
出張の件で話がある」


突然関に呼ばれ振り返ると、課長の細川の机の
ところに関が立っており、課長と一緒にこっちを見て
手招きしている。

また、どこかの国内の地方都市への出張かと思って、
細川と関のところへ歩み寄った。


「何でしょうか?」


「そろそろ君に海外出張に行ってもらおうと思っている」

思いもよらぬことを細川課長が切り出した。

すでに同期の連中の大半は海外ビジネスを中心に
任され、一部の連中は中国などに駐在を命ぜられるなど
して海外を飛び回っていたので、その連中に大きく
後れを取っていたと感じてきた宮田にとっては、
細川課長のその一言に、いよいよ念願のその日が
来たかと心中

「やった!」

飛び上がらんばかりのうれしい思いであった。

大学時代にあこがれていた海外との仕事。

頭の中にニューヨークのマンハッタンの高層ビル、
霧のゴールデンゲートブリッジの鮮やかで華麗な姿、
はたまた英国のロンドンブリッジの豪華な偉容

などが横切った。


「ありがとうございます!がんばります!
ところで、どこへ出張するのでしょうか?」


「イランだ」


関がニヤニヤしながら言った。


「は? イ、 イラン・・・ですか? あの中東の?」


「ばっきゃろー。他にどこにイランがあるってんだ。
イランといえば世界にひとつしかなかろうが」


「あのー。 お言葉ですがイランは今イラクと交戦中で、
戦時中ではなかったでしょうか?」


「だからどうした。いやならいいんだぞ。
イランはいらんってか?」

<しょ、しょーもな!>と思いながらも言い切ってしまった。


「いえ、行かせてください。がんばります!」

その言葉を聞いた細川課長が間髪入れずに言った。


「ではがんばって行ってきてくれたまえ。
あそこにうちの大事なお得意さんがあることは
君も知っていると思う。
出張の目的は関さんと十分打ち合わせをするように。

それと、現地は危険地域に指定されているので、
万が一のことも考えて安全対策に関しては人事部と
事前に十分相談するように。

ちなみに、そういうことだから危険地手当もでるはずだ。」


細川課長にそう言われ、ポンと肩をたたかれた宮田は、
とぼとぼと自分の席に戻った。


<し、しもた! 安請け合いする前に、先に行き先
聞けばよかった!>

勢いで、 「行きます!」 なんて即答するんじゃなかったと
後悔した。

目の前に座っている篠原由美子が心配そうな顔で
こちらをチラチラと見ている。

「宮田くん。どこに出張?」

「イランって言われました。」

「えー!? イ、イラン?  それは、・・・大変!」


次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (12)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「それでは質問です。関が目をつけたニーズとはいったい何だったでしょう?」


宮田と森永は目を合わせた。


宮田が恐る恐る言った。


「えーと、ジュースなんかの清涼飲料水やビールに、管理やリサイクルが
難しいガラスが使われなくなってきたという世の中の状況があったり、
とはいっても鉄は錆びやすかったり、運ぶのに重い、リサイクルしにくい
という状況があったのだと思います」


「ご名答」


「そうだね。世の中が環境問題や健康問題にナーバスになってきて、
環境にやさしくクリーンなイメージを持つアルミニウムを必要とする
社会的背景が整ってきたという状況だね」


宮田は、自分の発言に対して,会社に入って初めてほめられたので、
内心秘かにうれしかった。


「いかに総合商社といえども、このニーズを直接満たすことや、
作り出したりすることは出来ない。

だけど、このニーズを明確にし、ウォンツに影響を与えていくことは
商社だってできるんだ。

関は、このニーズを他の代替品の中からアルミニウムを選択するように
イノベータ(革新者)に働きかけたのだ。

この辺りからマーケティング戦略ということになるかな。

アルミニウムが欲しいというウォンツをイノベータに植え付けることに
成功した。
 
具体的にどのようにしたかというと、関は2年以上も俺と組んで、俺の
お客先回りをしたんだ。

国内外のビール会社からイノベータと呼ばれる会社を2-3社に絞り、
徹底的にアルミニウムのアドバンテージを説いて回った」


「イノベータとは何ですか?」


宮田が聞いた。


「お前ら本当にマーケティングの本を読めよ。
どこにでも書いてあるぞ。 

スタンフォード大学のロジャースという教授が
説いているイノベータ理論というのがある。

イノベータとはそこに定義されているのだが、ある技術や製品が市場に
浸透していく過程で、それを採用する態度によって購入者、採用者を
分類しているんだ」


<商社マンも理論武装っちゅうもんをせなあかのやな・・・>


柴田は続けた。


「イノベータは市場全体の2.5%程度で、とにかく新しいものに興
味があり、お金も持っている。

社会通念にとらわれず、新しい技術やノウハウを使い始めることを
好む集団をさすんだ。

その次に来るのが、新しい技術が社会的に大きく採用される下地を
打つ存在であるオピニオンリーダー(13.5%)だ。
文字通りオピニオンリーダーとなる会社である。

彼らは、業界のドライバーとなって、あそこが使ったんだから問題ない
だろうと、他の企業が見習うような会社である。


そして、そのオピニオンリーダーが採用するや否や採用するアーリー
アダプター(34%)という集団がいる。
{みんなが使っているから派}とでも言おうか。


そのあとには、新しい技術に慎重で、市場に十分出回るまで採用を
手控える集団であるフォロワー(34%)がいて、最後が新しいものや
ハイテク嫌いで保守的なラガード(伝統主義者16%)という分類となる」


宮田は、商社がそんな分類でもってお客を区別しているとは全く
知らなかった。

<商社っちゅうのんは、一見大味なビジネススタイルに見えるけど、
結構繊細に冷静に顧客を分類・分析しているんや・・>

「案の定、業界ではアルミニウムへのウォンツがイノベータや
ピニオンリーダーのお陰で高まって、そして、幾つかの大企業が
具体的に予算をとった形でのアルミニウムへの引き合い、つまり
デマンドとなって現れた。

そこに、俺と関はあらかじめ計画しておいた戦略通りに日本非鉄
金属の製品販売部隊のトップを引き合わせ、大口の引き合いを獲得した。

日本非鉄金属は、そうなると当然その引き合いに見合う生産量を新たに
確保しなくてはならないよな。

そのため、新たな圧延設備能力の増強という計画を立てる必要に
迫られることになる。

そこで、関と俺は、日本非鉄金属と一緒になって必要な生産量や
設備能力などのコンサルティングを行うと共に、新たに購入が必要
となる原材料であるアルミインゴットの調達先なども紹介し、プロジェクト
全体のプロデュースを行い、さらに、メーカーの選定プロセスや選定
基準までの道筋を描くわけだ。

その間、一方でその能力を満たすであろうメーカーにも内々に声をかけ、
わが社の強い立場を説明し、独占的に協業することを取り付けて、その
メーカーに応札準備を進めさせる。
 
結果、本社調達部から引き合いが出る頃には、わが社は日本非鉄金属と
メーカーの両方から切っても切れない大事なパートナーという位置づけを
得ている状態になり、自然と主契約者として商流に入り込むことになる。

なぜなら、市場からの声を背景にアルミニウムというデマンドを業界に
引っ張り出した張本人だからな。

お客、メーカーどちらにとってもわが社との連携はアドバンテージになる
からだ。

もっと言うなら、一般消費者も味方だよな。 市場や社会的背景から、
ニーズ、ウォンツ、デマンド、お客のお客、販売チャネル、製品仕様など
何でも知っているわけだから、不要なわけがない。

したがって、関は一度もお客に売り込まずに何百億円の設備を売った
わけだ。

要はビジネスをプロデュースした結果の売り込みであるということだ。
これを業界では出来レースともいう」


宮田はキーワードを思いついた。


売りたければ売り込むな!


<そうや! 売りたければ売り込みに行ってはあかんのや。 
これや! 
売りたかったら売り込んだらあかんというこっちゃ。これや。これ!>


このことは彼なりにマーケティングの極意だと思った。

それと、以前赤坂の夜、マイクが言っていたビジネスプロデューサー
という意味がなんとなくわかったような気がした。


「柴田さん。ひとつ言わせて下さい。

そのプロジェクトは、たまたま関さんと柴田さんという優秀な商社マンが、
たまたまうまくコンビを組んだから出来たのでしょう? 

とても自分には
そんな大それたことをやる自信がありません・・・」


宮田は正直に気持ちを語ってみた。

実際、横で汗を書きながらメモをとっている森永とそんなことを
やっている姿をイメージしようとしたが、何度やっても鮮明なイメージが
見えてこなかった。


「そんなことはない。何も特別なことをやってきたわけじゃないよ。

要はそういう意識をもって日常の雑事に対処しているかどうかが大事なんだ。

普段やることは地味なことの繰り返しだが、そこに確固たる戦略をもって
行動するかどうかが大事なんだよ。

君だってさっき関が目をつけたニーズを俺が質問したら、見事に
言い当てたじゃないか」


「はい。確かに」


「あれが戦略の取っ掛かりなんだ。

あそこに目をつけるということそのものが、とても大事なことなんだ
ということを商社マンは知っている。

君は大学を優秀な成績で卒業し、頭脳明晰で知能指数も高く頭は
誰よりも冴えわたっているエリートだと自分のことを思っているかい?」


宮田は、頭がシャーベット状態であるといわれた関の言葉を思い出し
ながら、頭を横に振っていた。


横を見ると同期の森永も、もっと強く頭を横に振っていた。

むしろその逆であるといった方が正しいように思った。


「だろう。森永だって柔道ばっかりやってきて、脳みそが筋肉だと
からかわれているよね。

俺だって、関だって同じだ。

別に特段優れた営業マンでもサラリーマンでもない。

ただ、商社マンとしてやるべきことはきちんとやった。その違いだけだ」


「それは何でしょうか?」


「戦略を立てること。 

そして、いったん立てたらそれを地道に確実に実行することだ。

戦略は実行するために戦術に落とす必要がある。

いわゆる実行プランだ。

この実行プランを、使命をかけて行うことが大事なんだ。

ところで、{実行}や{使命}という字を見てどう思う?」


宮田は、会話の最初から柴田の突然本質を突いた質問攻めに
戸惑いながらも、自分の知的想像力にだんだん火がついていくのを
感じていた。


<実行・・・、 使命・・・。
いつも簡単に口走ってる言葉やけど・・・。
どう思うていわれても答えようないな・・・>


「実行という字は{実際に行う}ということだ。

いくら素晴らしい戦略を描いても実際に行動に移さないと意味がない。

総合商社という環境は幸か不幸かよく出来ていて、考えるだけでは
給料をもらえないよ。

机と電話しかない環境に日柄座っていても仕方ないから外に出る
しかない。

自然と行動するしかない環境なんだな。 
評論家はいらない。
実際に自ら現場に飛び込んで、自分の目で見て、肌で感じて、
生身の相手とやりとりをして行く先を切り開いて行動するのが
商社マンだ。

それともうひとつ。

{使命}という文字。

よく、{あの人は、使命感にあふれている}とか、{使命感に燃えた人}とか
いう用途で使われる。

その人の行動を賞賛するケースがほとんどであるよな。

字を分解すると、{命を使う}となる。 

宮田君。この意味判るか?」


「命を使う・・・ですか?」


「そうだ。文字通り命を使うほど真剣に行うということだ。

これが商社マンの本質的な行動原理なんだ。

実際海外の発展途上国などで事故や戦争、テロなどで怪我をしたり、
最悪、命を失った先輩も少なくないからな」


宮田の心の中には、柴田の話を聞いていて、いろいろ困難はあるけれど、
早く海外に行って、見ず知らずの異国の地で、思いきりビジネスをし、
結果としてその国の人々の喜ぶ顔を見てみたいという思いが
沸々と湧いてくるのであった。


次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (11)


「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


翌日早速森永から電話がきた。


「宮田。柴田さんが今なら時間取れると行っている。すぐあがって来いよ」


非鉄金属本部のある15階に、9階から脱兎のごとく駆け上がった宮田は、
森永から柴田を紹介された。


「関さんの下でやっています、新人の宮田です。よろしく御願いします」


「おう、よろしく。君のことは関から聞いているよ。 関と俺は同じ大学出身で
同期なんでな。 で、何を知りたいんだ?」


しわがれた声で柴田が尋ねた。

柴田は、身長185cm程もある大柄な体格で、髪はオールバック、きらきら光る
銀縁めがねの奥から知的な感じのする眼光が放たれていた。

「はい。日本非鉄金属の鹿沼工場の設備や機械関係の売込みを担当し、
毎日色々な設備のカタログを持参して売り込みのトライをしているのですが、
ぜんぜん相手にされずうまく進みません。 

誠に恥ずかしい話なんですが、正直何をどう売っていいのか皆目わからず、
困っています。 関さんに相談しても、{そんなこと、自分で考えろ!}
の一言で終わりですし・・・」


「ははは。あいつらしいな」


「機械の売り込みのことを非鉄製品の販売の方に聞くのもおかしいのですが、
よろしく御願いします」

そういいながら宮田はぺこっと頭を下げた。


「全然おかしくないよ。むしろ当たり前のことだ。もっと早くくればよかったのに」


宮田は柴田の言葉に驚いた。 
柴田は笑顔から急にまじめな顔となって続けた。


「宮田君。 君にひとつ聞くが、日本非鉄金属の鹿沼工場は、わが社から
何を買いたいと思っているのかな?」


「何をって。 高性能で優秀な機械や設備を安く買いたいと思っていると思います」


「そうなのかな? それなら別にうちじゃなくても中堅の工具商社や、
メーカーさんと直接交渉して買えばいいんじゃないかな?」


宮田は柴田からそう言われて、以前関から自分のやり方を中小工具商と同じだと
叱られたことを思い出した。


「君がもしそう思い込んでいるとしたら、君はその考え方を変えない限り、
何年やっても一件たりとも大型の設備商談をまとめることは出来ないよ。
それと、もうひとつ聞くよ。 日本非鉄金属という会社は、何をしている会社かな?」


「何をって・・・。 アルミニウムや銅などの非鉄製品を製造し販売している会社
じゃないんですか?」


<そこまで馬鹿にせんでもええやん>


宮田はそんなこと知っているといわんばかりにちょっとむっとして答えた。


「そう。 その通り。 では、どんな製品をどのユーザーに販売しているのか
具体的に知っているかい?」


「えーっと。確かアルミの缶となる圧延製品を、色々なところに販売しています。
具体的にどこかはよく知りません」


「その程度しか知らないのは困りものだな。 それでは聞くが、そもそも君は
アルミニウムという金属をどれだけわかっているかい?」


「えーと。 鉄とは違う金属で、色は銀色のような色をしており・・・」


柴田は、これ以上宮田から何も出てこないころ合いまで待ってから、話を進めた。


「アルミニウムという金属は、比重が2.7と他の金属と比べてとても軽いんだ。
例えば、鉄は7.8、銅は8.9だ。また、比強度も他の金属と比べて優れている。
単位重量当りの強度が大きいということだ。  また、錆びにくいし熱伝導性にも
優れている。  

このように鉄などと違う金属特性を生かして、社会のいたるところで活用され
ようとしている。

例えば、鹿沼工場で生産している圧延品の場合、ビールや飲料水の缶以外にも、
自動車のパネル、アルミホウィール、ラジエーター、熱交換器、家庭用として、
あるいはタバコなどの包装用銀紙などに使われるアルミ箔、コンピューター用
ハードディスクドライブ(HDD)の中に組み込まれている磁気ディスク基盤、
新幹線や航空機、船舶、宇宙船などの構造材などだ。

それと、一円玉もすべてアルミニウムだ。  販売先も多岐にわたる。
ビール会社や飲料会社、缶を作る製缶会社、タバコ会社、自動車会社、
IBMやHPなどの大手コンピューター会社、大手重工メーカー、ボーイングなどの
航空機メーカーやスーパーなどの小売、造幣局などに販売しているんだよ」

隣の同期の森永もうなづきながら必死でメモを取っている。

「柴田さん。 素晴らしい金属で販売先も色々あるということはわかりました。
ただ、そのような情報が、僕の営業にどう役立つのかわかりません」

宮田はいらいらして聞いた。


「ここまでいってもわからないのかい? 

今回君の部で鹿沼工場向けに受注した大型圧延ラインを、日本非鉄金属は
なぜ導入することを決めたのか?  
それは彼らの製品のニーズが伸びて、需要が拡大し、それに対応する必要が
出てきたからなんだ。  アルミの総需要は現在400万トンといわれているが、
まだまだ伸びる可能性がある。  リサイクルも容易に可能で、環境にもやさしい。
マグネシウムやマンガン、亜鉛などの他の金属と混ぜて合金にすればもっと
機能が良くなり、新しいアプリケーションも開発されることもわかっている。 
アルミニウムの原料となるボーキサイトという鉱石の埋蔵量もオーストラリアや
ベネズエラの地下に250億トン眠っており、まだ1億トンしか使っていないので、
資源としても十分な量が約束されている。 

金属として非常に将来性のある有望なものなんだ。 
ポイントは、日本非鉄金属が何もしないで黙っていてこの需要の伸びに出くわしたのか
ということなんだ。  
君の部が何故大型圧延設備を受注できたかということとつながるんだが、実は、
君の先輩の関と俺で、日本非鉄金属という我大日本商事のお客様である、さらに
その先のお客様の市場に対してある仕掛けをしたからなんだ。

つまり、お客様のその先のお客様の新たなニーズに目をつけて、さらにウォンツと
デマンドを創出し、それらと日本非鉄金属の経営戦略と結び付けることに成功した
からなんだ」

宮田は、目からうろこが一枚一枚はがれ落ちるような思いであった。
商社の本質がだんだんとわかってくるような気がして飛び上がりたいほど
うれしい気分だった。
この際、聞くは一時の恥と自分に言い聞かせ、柴田が言ったマーケティング
用語に関する質問をした。


「柴田さん。 ニーズとウォンツ、それとデマンドの違いが良くわからないんですが・・・」


「森永もよく聞いとけよ。 お前ら、毎晩赤坂で飲んだくれて、女の子を追い掛け
回しているだけじゃだめだよ。  
たまにはコトラーの本でも読まないと。
マーケティングの世界的権威でアメリカの経済学者であるコトラーが
{マーケティングとは、交換過程を通して、ニーズとウォンツを満たすことを
意図する人間の活動である}と定義している。

この中のニーズとは、人間が生活を送る中で、必要なある充足状況が
奪われている状態のことをさす。 一方ウォンツとは、そのニーズを満たす
ある特定のものへの欲求、欲望のことをいう。
さらに、デマンドとは、購買能力と購入意思に支えられたある特定の製品に
対するウォンツであると定義しているんだ。

それでは質問です。
関が目をつけたニーズとはいったい何だったでしょう?」

次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (10)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「おう!宮田か。元気にしてるか? 
今日もう終わるけど、久しぶりに飲みに行かんか?」

入社直前の富士山の合宿以来、大変気が合う同期仲間の一人であった。

2人は会社近くの居酒屋に入って、まずはビールを頼んで、乾杯をした。


「宮田はまだましだよ」

森永が言った。

「俺なんか配属以来アルミ漁船を漁師に売って来いだぜ。
猟師の家の前で待ち伏せして、先輩と一緒に代金取立てもあった。
{支払い御願いします}と言いながら先輩と一緒に頭下げると、決まって
{次の漁まで待ってけろ。支払い条件は大漁翌月末現金払いだったべな}だ。
実際は契約書で納入翌月末現金払いとちゃんと規定されているのにだよ。
いつ大漁になるかなんてわからないよ。」

森永は続けた。

「ある先輩なんかは、納入したアルミ漁船の性能が契約通りのものが出なかったんだ。
その時怒った猟師さんが、

≪おれらは命張って漁に出てんだ!こんな船で漁に出られるか!この野郎!
海がどれだけ危険な職場か、お前らサラリーマンにはわからんやろ!≫

と叫びながら、その先輩をその船でしけの海に連れ出し、そのまま先輩は
海に投げ込まれ、危うく溺れ死ぬとこだったこともあったと言っていた。
また、違う先輩は魚群探知機の営業で、性能が出ないと怒った漁師さんに

≪海の底行って本当に魚がいるか見てこいや!≫

といって、投げ込まれたりしたこともあったろうだ。

それに比べれば、お前の担当している日本非鉄金属は
業界トップの大手だし、そこまでえげつなくはないだろうよ」

宮田は、森永の話を聞いてげらげら笑っているうちに、皆同じようなことを
やっているんだと思うとなんだかホッとし、本音で話し合える同期というのは
実にいいものだとつくづく思っていた。

それと、商社も結構面白いなと思い始めていた。

外から見る偶像と実際その中で体験することが違うのはどの世界でも同じである。

ある意味そのギャップが大きい職業ほど大変だが、その分それに携わった人間
にしか分からないやりがいというものがあるのだろう。

例えば、医者、弁護士、パイロット、プロ野球選手、経営コンサルタント、
女子アナ、キャビンアテンダントなどなど。

見かけは華やかで皆の憧れの仕事だと一般的にはそう言われているが、
その業務は外部からは垣間見ることができないほどプロフェッショナルとして
大変厳しいものがあり、だけどもその分やりがいも多いのであろう。

商社マンもそれと同類かなと宮田は思った。

「それなら一度おれの先輩の柴田課長代理を紹介してやるよ」

宮田が、機械のカタログを説明してもお客様から全く相手にもしてもらえず、
これから先何をどうやったらいいのか悩んでいると打ち明けたとき、
森永が言った。

「うちの課は、アルミニウム関連のありとあらゆる製品の販売をしている。
お前が担当している日本非鉄金属の製品も全世界に輸出してるぜ。
柴田さんはその道のプロだ。
何かいいヒントをくれるかもしれない」

同期の救いの手がとてもありがたかった宮田は、その後酒がどんどん進み、
酔った二人は、まだ総合商社を理解していない新米商社マンのくせに
これからの大日本商事はどうあるべきだとか、自分の実現したい夢や
ビジネス展望などさんざん持論を展開しながら、夜更けまで酒を楽しんだ。

しかし最後のほうは、同期入社のどの娘がかわいくて、どの部署にいるのかとか、
その娘に彼氏がいるかどうかなどの話題に終始していた。

次回に続く

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (9)


「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


お客様と会話をするきっかけを作ることが如何に難しいのかを初めて
認識した宮田だった。

宮田は、マイクからマーケティングの重要性を説かれたこともあって、
マーケティングの本を買って読んでいた。
その中にAIDMA理論というのがあったことを思い出していた。
この理論は、購買決定プロセスにおける消費者の行動心理を表した
もので、それぞれの心理の頭文字をとってAIDMA(アイドマ)と呼んでいた。


A : Attention (注目)
I : Interest(興味)
D :Desire(欲望)
M :Memory(記憶)
A :Action(行動)


宮田は、峰山課長のInteres(興味)を引くどころか、Attention(注目)さえも
持ってもらえなかったことに情けなくなった。

結局、その後カタログを手にぶらぶらと事務所を歩き回り、資材部にも顔を
出したが、誰一人としてまともに取り扱ってくれない。

それどころか目を合わせてさえくれない。
まるで厄介者が近づいてくるかのように追い払われる自分に、
さすがに宮田も、何でこうなのだろうと思うと悲しくなった。

大学を出て大志を抱いて上京したのに、なんでこんなことをしなくてはならない
のだろうと自問自答していた。

海外取引だったらこんな地味な売り込みをしなくてもいいのに。
もっと格好がいいのに。
国内営業の担当を言い渡されて、本当にがっかりだった。


「ばっきゃろー!。それだけか?
俺への伝言を取るためだけに鹿沼くんだりまで出張しましたというのか? 
それじゃ子供の使いじゃないか!
何のビジネスの話も出来なかっただと?
ふざけてんじゃねーぞ!」


帰社して夕方峰山課長からの伝言をそのまま関に伝えると、案の定雷が落ちた。


「本当に馬鹿かお前は? 
カタログ振り回して、その説明だけをやってきましたなんて、地元の中小工具商
だってできる。
お前は、どこの会社に勤めてると思っているんだ。
天下の総合商社の大日本商事だぞ。
もっと頭使え。自分の頭だけじゃなく、人の頭も使うんだよ。
北海道の冬山の中ばっかりで生活していたから、お前の脳みそは
凍ってシャーベット状態になってるんじゃないのか?え?」


<くそったれが。そこまで言うか。そやけどシャーベット状態とは
これ結構おもろいかも。
うまいこというなこのおっさん。メモっとこ。>


そうこうして、配属されてから半年二ヶ月が経った。

週に何度も早朝から鹿沼に通い、嫌がられてもまずは顔だけでも覚えて
もらおうと一日中待合場所でぶらぶらした。

お昼は、工場の食堂で冷えたうどんを、ヘルメット姿の工場の作業員たちが
占有する机の隅の横ですすり、午後からは、色々な機械や設備のカタログを
手にして、隙あらば資材部、設備部の方々に声を掛けようとした。

だけど、ろくに話も聞いてもらえず、話題も続かず、門前払いを食うか、
あるいは一方的に挨拶だけで終わったりして、その結果を引きずって、
打ちひしがれては赤坂本社に夜遅く帰宅した。

そうすると、決まったように、まだ会社に残っている関に雷を落とされた。

関の雷を余韻に机の前の山積みされた例の暗号だらけテレックスに目を通し、
くたくたになって深夜に寮に帰るという毎日が続いた。

篠原由美子は、夜の8時や9時に鹿沼から帰社してもいつも残業しており、
宮田を見つけるといつも満面の笑みで迎えてくれたが、彼女も相当忙しいらしく、
マイクと3人で食事をして以来、夜のお酒や食事に誘い出したりする余裕も
チャンスもないままであった。


「宮田くん。同期の森永さんから電話があったわよ」


篠原が渡してくれたメモには、同期の森永の配属された部署である
非鉄金属本部、非鉄製品部の内線番号が書いてあった。

森永は、東京六大学の有名私立大学の柔道部キャプテンをしていた
こともあって、豪放磊落、体重も90キロはあろう体育会系の巨漢であった。


電話の向こうで森永が言った。


「おう!宮田か。元気にしてるか? 今日もう終わるけど、久しぶりに飲みに行かんか?」


入社直前の富士山の合宿以来大変気が合う同期仲間の一人であった。
2人は会社近くの居酒屋に入って、まずビールを頼んで、乾杯をした。

次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (8)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「ネタがないんだったら、これでも売り込んでこい!」


圧延前の工程としてアルミニウムをスラブという形状にするための
鋳造工程というのがあり、その鋳造機にアルミニウムを入れるため
アルミニウム地金を溶解するための設備であった。

宮田は、宇都宮までの電車の中で、そのカタログを何気なくぺらぺらと
めくって、初めて目にする機械のスペック(仕様)と特長なりを頭に入れて、
自分なりのセールストークを考えようと必死だった。

鹿沼工場には製造部、品質保証部、研究開発部、設備部、資材部
など色々場部署があった。

通常、機械や設備物、サービスを工場に売るためには、色々な部署との
コネクションを構築し、情報を収集しなければならない。

関が以前この工場から受注した150億円もの圧延機となると、工場だけ
でなく、本社の調達部、本社の担当役員はもちろん、社長や会長なども
重要な関係者となって、受注にいたるまでに押さえておくべき関係者は
膨大な数とそのレベルが高度になってくる。

宮田は、守衛所で入門証をもらって、まずは資材部のところに足を運んだ。

そこには、大勢の地元含む建設業者や機械卸、設備メーカーなど色々な
業者が、資材部との打ち合わせをしようと商談コーナーにたむろっていた。

ここで、じっと待っていても、何も起こらないという予感はしていた。

意を決して、業者の待ち合わせ場所と事務所を仕切るキャビネット越しに
身を乗り出し、何人かの設備部の方々に向かって、声を出した。


「す、すみませーん。大日本商事の宮田と申します。
ちょっとよろしいでしょうか?」


宮田の呼びかけに対して、誰一人として応答しようとしない。

応答するどころか、宮田に一瞥さえ向けることもなかった。

なんら変わることなくもくもくと事務作業をしているシーン
とした事務所に、宮田の声だけがむなしく響き渡って
とても恥ずかしく思った。


<なんやこれ・・・。正直メッチャはずかしいやんけ。俺。>


先日のキックオフの際、関と親しそうに話していた設備部圧延担当の
峰山課長がちょうど前を横切ろうとしていた。

彼とならなんらかの話のとっかかりが出来るだろうと考え、思い切って
声を掛けてみた。


「す、すみません。いつもお世話になっております!大日本商事の宮田と申します。
関の下でやっております!」


「はい。それで?」


「・・・・」


「ちょっと今、忙しいから」


「あ、ちょっ、ちょっと待って下さい。今日は、最新鋭の溶解炉のカタログを
持ってきました。
この溶解炉はインダクションヒーティングシステムという業界初であります
電磁誘導方式というのを採用している溶解炉でして、通常より、オペレーション
コストの大幅な削減、かつ操業時の安全性に優れ・・・・」

宮田は、カタログを示しながら必死で説明を続けようとした。


「知ってるよ。それ、大和工業炉さんのだろう。昨年開発が終了したというやつだろ。 
そんな今さらカタログ読まれても。いらん。いらん。 興味なし!
もういいだろ。忙しいんだよ。

それより、あんた関さんと一緒にやっている新人さんっていったね?
関さんに、例の件よろしくと伝えといてよ。」


「例の件とは何でしょうか?」


「あんたには関係ない。それだけ言えば彼ならわかるから」


まるで、虫けらを見るような扱いにショックを受けたのであった。


<{全く宮田という自分というものを認めてもらってない。
大日本商事の社員なんやからなんだからもうちょっとはましな応対
してくれると思ってたんやけどな・・・}>


お客様と会話をするきっかけを作ることが如何に難しいのかを
初めて認識した宮田だった。

次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (7)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第二章 一人前への長い道のり


翌日、関が宮田に近寄ってきて案の定いつもの雷を落とした。


「ばっきゃろー!何だこれは。お前は全くテレックスの内容を
わかっておらんじゃないか。 もっと真剣に読んで、わからん
ことは回りに聞け! 皆忙しいから待っていても誰も教えてくれんぞ!
聞いて聞いて聞きまくれ。
板前修業のようなもんだ。わかったか!」

<出たー。またこれや。なにが「ばっきゃろー」や。どうせならアホ!
いうてもろたほうがまだましや。 
それと、聞け聞けいうけど、いざ聞こうとしたらいっつも「忙しいから後だ!」
で終わりやないか。ほんま。>


「それと、お前、今日何でここに座ってんだ?」

<なにいうてんの。このおっさん。>


「えー? ここ自分の席ですからと思ってるんですけど、
どういうことでなんでしょうかしょうか?」

<なに聞いとるんや、このおっさんは。 アホかいな。
この机は、俺の机やろが。 なに、この会社は机もくれへん
会社なんかいな?>


「違うだろうー! 何で会社にいるんだと聞いているんだ。
どういうことなんでしょうでしょうか じゃないだろう? 
馬鹿か!。 お前は。」


「はー・・・」


「鹿沼には行かないのか?」


「鹿沼・・・ですか?」


「そうだよ。 先日一緒に行った日本非鉄金属工業の鹿沼工場に
行かないのかって聞いているんだよ!」


「え? また行かないといけないのですか?」


「あったりまえだろう! お前はあそこの担当になってるんだよ。
雨が降ろうが、風が吹こうが、あの会社があそこにある限り、あそこには
何度でもずっと行き続けるのだ。 行って注文とってこい! 今からすぐ
行って来いや!」

<そんなん聞いてないし・・・>


正直、あんな東京から中途半端に遠い、田舎のお客様の担当になるのは
気が重かった。 

もうひとつ理由があった。


華やかな海外ビジネスや英語とは無縁の泥臭い国内商売を担当するのは、
正直がっかりであった。

同期の連中の多数は、配属早々テレックスなどで海外の支店、お客との
やり取りを始めたり、早速オファー(Offer:(見積書))を提示するための
原稿を英語で書かされたり、海外取引先の要人とのアテンド(接待)に
駆りだされたりと大忙し。
 
彼らは、いわゆる総合商社らしい華やかな海外取引の現場に
入り込もうとしていた。

同期の連中が本当にうらやましくて仕方がなかった。

宇都宮から乗ったタクシーの窓から見える栃木県ののんびりした水田風景を
眺めながら、宮田はつぶやいた。


「前回は、冷間圧延設備のキックオフという大イベントがあったが、
今日は何もない。 いったいどの部署で誰とどんな話をすればええんやろか・・・」


会社を出る前に、関からあるメーカーのアルミニウムインゴットの溶解炉の
カタログを渡された。


次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (6)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


赤坂の夜の世界というのはある種特殊な世界である。


官庁、霞ヶ関などの役所、政府関係機関などが近隣にあるため、
日本の行く末などが語られる政治家御用達の料亭が、ひっそりと裏通り
にあったりする。 


かと思うと、ここは日本かと疑うばかりのハングル語や中国語が
飛び交う表通りがあったりし、多種多様化した巨大繁華街である。 

外国人、大物政治家、役人、財界人、サラリーマン、任侠の世界の人、
ちんぴらなどありとあらゆる世界に軸足を置く人間が夜な夜な
混沌とした闇の中でうまく融合しながらうごめいている夜の世界。

 
「これが夜の赤坂や。 一見華やろ?」


繁華街といえば、北海道のススキノしか知らない宮田だった。
ススキノは、同じ繁華街でも北海道らしくあっけらかんとしており、
赤坂から感じるどろどろした何かおどろおどろしいブラックホールの
ような不気味な雰囲気はなかった。

マイクがご馳走してくれた高級中華料理に舌鼓を打った一行は、
場所を変えて赤坂見附の交差点から程近くにある高級ホテルの
最上階にあるバーに移り、ウイスキーの水割りを注文し、
赤くぼんやりとライトアップされた東京タワーを遠くに望み、
眼下に赤坂の夜景を眺めながらお酒を楽しんでいた。


マイクが口を開いた。


「宮田君。 自分なー。マーケティングって言葉知っている?」


「はー。マーケティングですよね。広報とか宣伝とかのことですよね。」


「まー、そや。 普通、日本の大企業には、マーケティング本部とか
あるいはマーケティング部といった類の組織がようあるんやけど、
大日本商事にはマーケティング組織というものがあれへんのや。
気ーついてたー?」


「いえ・・・」


「うちに限らず他のいわゆる総合商社と呼ばれる会社には、どこにも
マーケティング組織なんかあれへん。 なんでやと思う?」


宮田はそれまで気づかなかった。
そういえば、社内電話帳を見回してみても、そういう部署名を見たこと
がない。

それに同期入社100人の連中の中で、マーケティングと名前の付いた
部署に配属になった人間が居るという話は聞かなかった。


「そういえば、確かにないですね。 大事な機能だと思うんのですが、
なんでないんですか? ようわかりません」

関西弁で話されると、封印していた関西弁がつい出てしまう宮田
であった。


「各自みな自分でがやるから必要ないんやよ。」


「商社は、取り扱い品目がめっちゃ多いんよ。 
マスコミなんかは{ラーメンから原発まで}とかなどと呼んだりしたり
するわな。 

そやから、とてもひとつの組織ですべての商品や
ビジネスのマーケティングを取り仕切ることは土台無理っちゅうもん
やねんな。 

例えばやな、君がやっている機械やプラントビジネスのように、一発ドドン!
とやるビジネスのマーケティングと、パプアニューギニアとかベトナムから
植林からやって何年もかけて育てて、木材をバルクで長きにわたって
日本に輸入しているビジネスのマーケティングとは違うんや。 

そやから、商社の場合は、各部課あるいはチームや個人単位で
マーケティングを行うんや。 

ええか。 商社マンちゅうのは単なる営業マンとちゃうんや。

商社マンはみな、物を売りながら、あわせてマーケティング活動も行うんやで。

もちろん、うちにも広報部というのはある。

ただ、これはマーケティングの大きく4つある戦略、通称4Pといわれる
Price(価格)、 Product(製品・サービス)、 Place(チャネル)、
Promotion(販売促進)のなかの,
Promotion戦略ということをやってるんよ。

Promotion戦略っちゅうのは、ステークホルダー向けの広報・宣伝活動、
パブリシティのための組織であってやな、あくまで一部のマーケティング
活動なんよ。

ステークホルダーって、自分わかるよね?」


「は、はい!?」


「あ、そのリアクション。多分分かってへんね。 
まー、ええけど。 
いずれにしてもやね。 このマーケティング感覚をガツンと磨いて
いかんと商社マンはやっていけまへんで。

それと、もうひとつ重要なことがあんねんけど。 自分聞く気ある?」


「え?ええ、もちろんです!」


<このマイクさん、何者やろ、よう知っとるし、説得力あるわなーという
気がする・・・>


マイクは、宮田の顔をじっと見つめて、さらに進めた。


「商社マンちゅうのはな、事業家の精神も必要やねん。」


「事業家???」


「そや、事業家や。 マーケティング力とあわせて一言で言うと、商社マンは
ビジネスプロデューサーであれっちゅうことかいな。
ビジネスクリエーターとも言える」


宮田は意外であった。
商社マンというのは営業マンとほぼ同義語で、違いは、ただ、皆、
英語など外国語がしゃべれて、海外駐在期間があって、活動が
日本のみならず、グローバルなだけかと思っていた。


<皆がそれぞれ、マーケティング活動を行うというのはどういうこと
なんやろう>


「マイクさん。マーケティングって一言で言っていって、いったい
何なんですか?」

宮田は尋ねた。


「一言でいうんは難しいけどなー、敢えていうとマーケティング
ちゅうもんは

{成功する確立の高い、売れる仕組み}

を作る行為と言えるかもしれへんねー。 

営業行為っちゅうのはやな。 その仕組み、あるいは仕掛けに乗って、
契約という最後の聖域での儀式を滞りなく行うことやねんな。

この契約する瞬間を{真実の瞬間}と表現する学者もおる。

何故真実の瞬間というかというと、契約されへん限り、商品の価値が
市場に向けて認知せーへんからなんや。

契約っちゅう行為はな。
商品やサービスにとって価値が認められて
世に出る大事な瞬間ともいえまんねん。

この真実の瞬間という儀式を無事クローズするのも大変やけど、
そこに向けてどんだけ効率ようその儀式へのお膳立てが出来るかどうか
が勝負や。

この確率の高こうて売れる仕組み作りと真実の瞬間をまとめあげる能力が
商社マンで生き残れるかどうかのポイントなんやと思うな。

誰かて楽をして物やサービスを売りたいやろが? 

お客さんにぺこぺこし、競合と同じようにその他大勢のひとつとして
扱われてやで、受注できるかどうかも皆目わからんで、
先の見えーへん状態であくせく競争しながらモノ売りたないやろう?」


<成功する確立の高い売れる仕組みか・・・>


 篠原由美子も、ふんふんと深くうなずきながら三田村の話を
興味深く聞いていた。

宮田は、マイクの話に引き込まれながらも、商社には関のように大声で
怒鳴って、命令と自己主張ばっかりしている人間ばかりでなく、
マイクのように論理的に客観的にビジネスを捉えて、語る人も
いるのだと感心していた。


<商社もまんざらすてたもんやないな・・・。結構勉強になるやんけ・・・。>


そう感心している自分がいると同時に、斜め前に座っている篠原の、
時々その黒くてつややかな長い髪をさらっとかき上げるしぐさや
意外の胸元が切れ込んだブラウスの胸の谷間を、不謹慎だと思い
ながらも、マイクに気づかれないよう、ちらちらと盗み見ては、都会的な
華やかな女の色気にどきどきしているのであった。


次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (4)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。

第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ


幼稚園児以下の議事録とレッテルを貼られたこともショックだが、
宮田がそれ以上にショックだったのは、お客様である日本非鉄金属に
大日本商事がとても評価されていることだけはわかったが、
肝心の大日本商事の役割自体が飲み込めず、いったい
このビジネスを大日本商事が、あるいは担当者である関が
どう取りまとめて、どの様に成立しているのか、大日本商事を
中心にいったい何が起こっているのか何もかもがわからない
自分が情けなかった。


「宮田。次、現場にいくぞ!」


関が、現場視察に行くというので、大きな建屋に事務所から車で移動した。

工場の中にはいくつもの大型の建屋があり、その中に、世界各国から
輸入したアルミ地金をインゴットからスラブ状にし、それを溶解炉で溶解させ、
熱間、冷間圧延を施し、精製してコイル状にする一環工程での大型設備が
各工程毎に納められている。


<ハー。でっかいなー。ようこんなでかいものを人間が作りよったな。><>


入り口には、巨大なシャッターがあり、そこから中をのぞくと、天井には長さ
何十メートルもある巨大なオーバーヘッドクレーンとよばれるクレーンが
うなり声をあげて走り回っており、その下を既存の圧延機の長いラインが
ずっと建屋の奥まで続いている。

圧延機が高速で回転するためにその回転部分が加熱しないように
冷却するためのクーラントオイルが噴霧されているため、奥のほうは
ぼんやりとかすんでいて見えないほどであった。

「このラインは、数年前にうちが納入したラインだ。これでフルターンキー
契約ベースで約150億円のビジネスだ。
今回キックオフされたラインはこれよりもひと回り大きい規模となる。
お前も早くこれくらいの設備をまとめられるようになれよ!」


関が何気なく言った150億円という数字が宮田の頭の中に響いていた。


<なんなん、それ。150億円って。実感なんかわかえへんで。 
そういえば大学の時代、大学生協で食べるめっちゃまずいとてもまずい
定食の値段が、そういうたらいえば150円やった・・・>

そういうことを思い出していた。


そのレベルが日常の物差しとなっていた宮田にとって、商社が扱う
取引金額は大きいとは聞いていたが、具体的な案件に落とし込んで
聞いてみるとその額の巨大さがより際立って感じた。


何故電話と机だけで、そんな大型商談をリードできるのだろうか?


何か仕掛けがあるに違いない。

でないと、工場や研究施設をもっているわけでもない商社に対して
そんな大きな注文を出すはずがない。

ただ、その仕掛けとはいったい何なんであろうか?


ますます悶々としてくる宮田であった。


<机と電話したあれへんこんな会社に何でそんな契約を任すんか、
やっぱりわかれへん?どう考えてもわかれへん・・・>


翌日、いつもの様に早朝から出社した宮田は、目の前に置かれた
テレックスの山と格闘していた。
関から、それを全部読んで、今日中に内容をまとめておけと
昨日から命令されていた。

テレックスというのは、パソコンによるe-メールなどのインターネットが
普及する前に、海外と安く交信できる通信手段として広く普及した
通信技術で、大日本商事も海外との交信は、主にこのテレックスか
ファックスを活用していた。

今で言うところの情報システム部である電算室にて全世界から
受け付けられ、巻紙上の紙の上に印字され、毎朝一番に各部門に
一斉に配布される。

インクで印字された新しいテレックスを読むのは、刷り上った新聞を
読むのと同じような緊張感とうきうきした期待感があった。

テレックスに書かれている日本語は、全てがローマ字で記載されていた。

相当慣れなれないと読めるものではない。
宮田にはどの文字も同じに見え、内容を把握するどころか、
一時一句読むことさえままならなかった。

周りを見回すと、自分以外の皆は、このテレックスを片手に電話で
わいわいがやがやと議論しあっている。


「宮田君。 テレックスの読み方 教えてあげようか?」


目の前に座っている篠原由美子が、あごに両肘を付いてこっちをみて
ニコッと微笑んでいる。


篠原由美子は、宮田の1年先輩であり、横浜の短大を出て、
大日本商事に就職し、この機械・プラント本部第三課に一般事務職
として配属となった。

横浜のお嬢さんといった感じの雰囲気を持っており、すらっとした長身、
長い黒髪、色白な顔に切れ長の美しい目が知性を感じさせる都会的な
美人である。

宮田は一年浪人して大学入学しているので、彼女は二つ年下である
ということを宮田は瞬間に計算していたのであった。


「宜しく御願いします」


<そーか。なんやら入社してから初めて人間らしい扱いを受けたような気がするわ。
あー、やっとほっと一息やわ・・・>


宮田は、ここ数日間あれよあれよと経験した商社の生々しい現場に
振り回され、周りを落ち着いて眺める余裕がなかった。

篠原由美子に声を掛けられ、ハッっとした宮田は、彼女のその優しい
微笑みに、妙に安心感と安堵感を覚え、フーっと肩の力が抜けていくような気がした。


次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (5)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ


篠原由美子が話し始めた。


「テレックスというのはね。送り先、受信先がコードで決まっているの。

例えばこの{FRM NYKYK}というのは、{大日本商事米国株式会社
機械部から着信}という意味なのよ。

あと、{WND MTKS}なんて略語があって、これは、
{Well noted. Many thanks了解しました。大変ありがとう}
という定例句で、文章の終わりに使うもの。

{PLS IFO YR STUATN ASAP}は{Please inform your situation
as soon as possible 大至急そちらの状況を連絡されたし}。

テレックスの料金は語数に比例して課金されるから、少ない字数で
かつわかりやすく複雑な内容を伝えなくてはいけないから大変なのよ。

それと、プロジェクトによっては、万が一競合他社から情報が盗まれる
ことを考えて、暗号をよく使うの。

例えば海外のお客様のキーパーソンを呼ぶ場合、名前を直接書かずに、
EBI-SAN, TAKO-SAN, IKA-SANなど魚や動物の名前をつけて読んだり、
プロジェクト名にもMAGURO ProjectとかMORINO-KUMASAN Project
とかのようにカモフラージュしたりしているわ。

例えばMAGUROというのは、適当につけているのじゃないのよ。
Malaysia Gulf Rolling Mill Project(マレーシア国湾岸圧延プロジェクト)
の頭文字を取ったりしているわけ。 

だけど人に対する魚の名前は、本人がどの魚に似ているかなど冗談半分
のような理由からつけているみたいよ。面白いでしょ」


<おもろいか?これが。そんなことよりめっちゃ大変やん これって。 
こんなもん毎日見て、理解して、判断して、それに対して返信するみたい
なこと、えー、そんなんできひんで。絶対できひんって。>


篠原由美子は、宮田の席の横にイスを置いて座り、宮田の顔を覗き込む
ようにしてけらけらと笑った。

宮田は一緒に笑えない自分が悔しかった。本当は余裕を見せて一緒に
げらげら笑いたい。

だけど、ただでさえわからないテレックスに暗号まであると聞いて、これから
自分がしなくてはいけない苦労を考えると、とても笑顔どころか、
余計顔がこわばっていくのであった。


「どないですか? 自分」


突然、声をかけられて、ふっと目の前を見ると、青い目をした金髪の端正な
顔立ちの白人青年が、ウインクをしながら、話しかけてきた。


<どないですかって。突然そういわれても・・・>


「自分宮田君よね。 今晩夜空いてまっか? よかったら赤坂のバーに
連れて行ったげるわ。 篠原さんも一緒に行かへん?どないだ?」


「あのう。すみません。 あなたのお名前は?・・・」


「あー、ごめん。関さんから聞いてへんかった? わて。マイクいうねん。
自分の5年先輩になるねん。一緒の課やから今後ともよろしゅうな。」


「は、はー。 よ、よろしくお願いします・・・」


<こんな人居たかいな? 一体なにもんや???>


マイクと名乗る謎の白人青年をじっと見つめてみた。 見事な金髪が
ウェーブをしながら輝いており、透き通るような色白の肌に、まるで
地中海の海岸のエメラルドブルーのような濃紺色の深い美しい瞳と
まっすぐ鼻筋の通った高い鼻をもった、まさにこれぞ白人美少年とも
いえる風貌を持っていた。

言うならば、ウィーン少年合唱団の美少年が、そのまま大人になった
という感じである。


意外な人物であるマイクに声を掛けてもらい、初めて赤坂の夜の町に
出かけることもうれしかったが、篠原由美子も一緒に来てくれることが
本当はうれしいのであった。

猛烈な勢いで暗号だらけのテレックスの山を何とかこなして、
夜7時30分ごろ、三人は赤坂のネオンの中に消えていった。

次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (3)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。

第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ


大日本商事は、売上高7兆円、業界で4位の位置にある総合商社である。 

全世界に130箇所以上の現地法人、出張所などを持ち、従業員7000名。
輸出、輸入、国内取引、三国間貿易、投資案件、新規事業開発などを
手がける。 

本社は25階建ての真っ白いビルで、東京赤坂見附にあり、鉄鋼輸出
本部、国内鉄鋼本部、非鉄金属本部、船舶本部、航空機本部、自動車
本部、重工プラント本部、化学プラント本部、通信プロジェクト本部、ガス
エネルギー本部、食料本部、化学品本部、繊維本部など20以上の
利益を稼ぎ出すビジネス系の本部があり、あとは、財務関係、広報関係、
情報システム関係などバックエンドでビジネスを支える管理系の本部が
幾つかある、本格的な総合商社である。

宮田真一が配属されたのは、6階にある重工プラント本部の機械・
プラント部第3課であった。

部の総勢は約50名、その中には4つの課があって、それぞれの課は、
機械・プラントと名の付くものであればなんでもビジネスにするべく、
世界各国、色々な領域の機械・プラントの商談を展開していた。

また、部の傘下には、10の子会社を統括していた。


「おーい。宮田君。 これから栃木県の鹿沼というところに出張に
行ってくれ。 そこに日本非鉄金属工業の鹿沼工場があるんだ。
その会社は日本で有数のアルミニウム圧延工場で、うちの大の
お得意様なんだ。 そこで、うちが受注した圧延設備プロジェクトの
キックオフミーティングがあるので、そこに参加して、議事録を取って
きて欲しいんだ」


昨日の一件から気を取り直して、朝7時30分から、はりきって出社した
宮田は、課長の細川から呼び出された。

まだ東北新幹線が開通していない中、栃木県鹿沼まで行くには、
大変時間を費やした。

上野駅から、東北本線で宇都宮まで電車で2時間。 

そこからタクシーで40分。 合計約3時間かかって、やっと到着した
日本非鉄金属工業 鹿沼工場の周囲には、東京の喧騒の街中とは
違い、青々とした田んぼが広がる広大な田園風景が広がっていた。


<どうでもええけどメッチャ遠いな・・・>


門の前では、課長代理の関が宮田の到着を今や遅しと宮田を待ち
構えていた。

関と一緒に入門手続きを終え、工場の中に入った。


「うわー。アルミの工場って大きいんですね」


驚く宮田に関は誇らしげに言った。


「ここでは年間100万トンのアルミ圧延品を製造している。圧延品
というのは、主にビール缶や飲料缶などの材料になるものだ。
今日は、制御系電気設備を担当する大手電機と大型圧延機を
納入するJHJという重工メーカー、それとプラント据付を担当する、
総合プラント建設工業が一同に介してのキックオフミューティングが
行われるわけだ。
我々大日本商事は、その元請業者という立場で、日本非鉄金属工業
からすると、唯一の発注先企業だ。大手電機、JHJ、関東プラント建設
への発注は、全て大日本商事が行う。要は、大日本商事が全てこの
ビジネスを取りまとめたということになる」


会議室には、発注先である日本非鉄工業側の圧延部長、設備部長
以下、担当技師ら10数名、及びそれぞれの会社から営業責任者、
技師らが各社5~8人勢ぞろいしていた。


大日商事からは、重工プラント本部本部長の吉田、関、宮田の三人
だけであった。

我々の到着を待って、日本非鉄金属 圧延部長が口火を切った。 


「本日は、わが日本非鉄金属工業 鹿沼工場の命運を決するとも
いえる第3冷間圧延機プロジェクトの第一回合同打ち合わせの
ためにお越しいただきましてありがとうござました。 
この冷間圧延機、いわゆる冷延機が稼動しますと、生産量20%アップ、
品質の大幅な向上が実現可能となり、わが社におきましては業界に
おけるトップの地位をゆるぎないものにすることができると、弊社役員
一同も大変期待しているプロジェクトであります。 
今回、このプロジェクトを見事に取りまとめていただきました、
大日本商事さんの重工プラント本部本部長吉田様からお言葉を
頂きたいと存じます」


吉田本部長の挨拶が終わり、本部長、部長クラスが部屋から
出て行くと、早速担当者レベルの会議となった。

最初から、机に置かれた大きな図面を元に、機械と電気、据付関係の
技術や建設用語が飛び交う。

議事録を書くにも、飛び交う言葉がまるで英語のように聞こえ、何を
書くべきなのかどうか、どの単語やセンテンスがキーなのかどうか、
何が大事で大事じゃないのかなどの判断どころか、何も聞き取れない。

2時間たってたった数行の言葉しかかけなかった。

宮田はその紙切れを恐る恐る関に見せると、いつもの雷が落ちた。


「ばっきゃろー! お前こんなの幼稚園児でももっとちゃんとかけるぞ。
もっと耳の穴かっぽじって聞け!」


<そこまで言うか。このおっさん。そやけど、ほんま、何書いてええのか皆目わからへん。どないしょう。ほんま、幼稚園児ゆわれてもしゃーない。ほんま、これからどないしょう・・・>

幼稚園児以下の議事録とレッテルを貼られたこともショックだが、
宮田がそれ以上にショックだったのは、お客様である日本非鉄金属に
大日本商事がとても評価されていることだけはわかったが、肝心の大日本商事の
役割自体が飲み込めないことであった。

いったいこの重要なビジネスを、大日本商事が、あるいは担当者
である関が、どう取りまとめて、どの様に成立しているのか、大日本商事
を中心にいったい何が起こっているのか何もかもがわからない自分が
情けなかった。

次回へ続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (2)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ 


関と宮田を載せたトラックは、品川を抜け第三京浜を経由して
約30分後、JR大森駅の近くにある後藤鉄工所の前で止まった。

車を降り立った宮田の目の前には大きな工場の門があり、
複数の鍵で施錠され閉まっていた。 

隣にある事務所のほうへ移動して、窓越しに中をこっそりのぞいて
みても、中に人のいる気配がしない。

関は、おかまいなしに事務所のドアをガチャガチャと荒々しく開けて、
中に入っていった。

事務所の鍵はあいていた。


< ええんかいな。そんな勝手に入って・・・ >


宮田も置いていかれまいと関の後を追った。


「すみませーん! 誰かいますかー?」


関の大声が事務所の中に響き渡ったが、シーンとしていた。


「ちくしょう。やっぱり遅かったか・・・。銀行の連中は本当に早いよ。 
血も涙もない。 商社以上にハゲタカだ」


宮田には関が吐き捨てるようにつぶやいた言葉の意味がよく
わからなかった。

誰もおらず、電気もついていない薄暗い事務所の中を必死に目を
見開いて見渡してみると、机やイスなどの事務機器がなく、なにやら
がらんとしており、もぬけの殻といった様子であった。

事務所の奥には社長室があり、そこに入ってみると、この会社の
オーナー社長のものであろうか。

誇らしげに微笑む恰幅のいい紳士の大きな顔写真が、額に飾られ
壁に掛けられていた。


「社長は夜逃げしたに違いない。後藤さん、さぞ辛かったろうなー。
おい、宮田。 次は工場にいくぞ!」


宮田は、関の後を追って工場に入り、ずらりと整列した機械を見て、
初めて関が口にした言葉の意味がわかった。

全ての機械の表面にこのような張り紙が張られていた。


{本物件は、XX簡易裁判所において、XXX年○月△日をもって
物件立ち退きの判決を受け、この日を持って以降、如何なる者の
立ち入り、又は動産等の移動をしたものは、即時建造物侵入、又は
窃盗などにより、刑事告訴する。  
所有者YYY銀行 代理人弁護士◎△太郎}


関が言った。


「宮田よ。 どの機械の表面にも、こんな紙切れがべたべた張られて
いるだろう。 貸し倒れになった売掛債権を回収するために、銀行が
転売用として差し押さえたんだ。 銀行は、倒産したらその日にでも
差し押さえに来るからな。 事務所に机とかイスとかが全くなかった
だろう。 転売可能で持っていけるものは鉛筆一本だって何だって
持って行く。 この機械のように工場に据え付けられていて、重くて
すぐ運べないものにはこうして張り紙をして権利を主張する。 
銀行に比べたら商社なんて甘いものよ」


宮田は、社長室の壁に掛かっていた写真の中で誇らしげに
微笑んでいた、社長と思わしき人物の顔を思い出していた。

自分が汗水たらして苦労して育てあげた会社が、こうなってしまっては、
さぞ無念であったに違いない。


「宮田。 何でもいいから価値のありそうなものを車に積み込め。
何もないよりましだ」


宮田は、帰りの車の中で打ちひしがれていた。

大学時代抱いていた、華やかな商社でのビジネスマンのイメージが、
頭の中でがらがらと崩れていく音がした。

配属早々から、ビジネスのどろどろした裏の世界を間近かに見せ
つけられて、大学時代北海道の大地でのびのびと生活していた
自分とは相当の決意をもって決別し変わっていかなくては、とても
これから、この世界でやっていけないのではないかという漠然とした
不安感を抱いたのだった。


< あの後藤社長は今どないされてんのかな? 奥様や家族は
いったいどうなってはるんやろ・・・・ >


大学時代に倒産した自分の大阪の実家の親父の顔がだぶっていた。

額に飾られた写真の中の誇らしげな社長の顔が頭から離れなかった。

関が、宮田の心中を察してか、こう言った。


「宮田よ。 総合商社は国内外数え切れないほどの数の取引をして
いるんだ。 それも売り買いともにな。 商社の取引では、今日のような
ことはよくある話なんだ。 常に売掛金などの債権回収など貸し倒れ
リスクと隣りあわせで、ぎりぎりのところで商社はビジネスをしているんだ。
別に商社だけじゃない。 ビジネスはお金を手にしてなんぼの世界
なんだよ。 だけど総合商社は特にそうなんだ。 なんせ机と電話しか
ないからな。 回収漏れは即その契約の赤字につながる。例え、それが
海外のビッグプロジェクトであっても同じだ。 海外のプロジェクトのほうが
もっと厄介かもしれない。 契約当事者が法人相手だけではないからな。 
国を相手にして商売する場合もある。 その場合は、相手国の国情などが
リスク要素となってくるんだ。 カントリーリスクって聞いたことないか?
そういうのが常に付きまとう。 非常危険といって、民間企業がコントロール
不可能な、その国特有のリスクを分析しなくてはならない。
例えば、戦争、紛争、テロが起こる度合い、それらから影響を受ける
国家体制の安定度合い、為替リスク、外国為替法の安定度によっては、
急に現地で苦労して稼いだお金を、海外送金停止という制限によって
日本の本社に送金できなくなるなんてこともありえる。
俺が駐在していた中東サウジアラビアの国なんて、まだましなほう
だったけど。 まー、今日は、入社早々からどろくさい現場をお前には
見せることになったが、商売というものは万国共通どこにいっても
こんなものよ。 要は金を回収してなんぼの世界なんよ」


(ようしゃべるおっさんやな・・・)


そうは思いながらも宮田は、帰りのトラックの中で語る関の話を聞きながら、商社マンの
本質、さらには、ビジネスそのものの本質のほんの一部を垣間見た
ような気がした。

それと、いかにもやり手商社マンといった風でとっつきにくいと思って
いた関も、中東の海外駐在経験があって、ビジネスの厳しいところで
それなりに苦労しているのだなと思うと何となく親近感が沸いてくる
ことを感じていた。

次回に続く。

連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (1)

商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ

「今日からここが君の机だ。 これからは、人身売買以外は何やっても
いい。 自由に好きなようにやってくれ」


人事部に連れられ、配属先である9階の大日本商事 機械・プラント部
の金田部長に挨拶をした宮田真一は、金田部長から案内された自分の
机を見て、目を疑った。


< ほ、ほんまに机と電話しかあれへん・・・・ >


宮田は、大学のゼミの教授が言っていた言葉を思い出していた。


「君が志望する総合商社というのは、売上高は巨大で、世界各国で
ビジネスを展開しているが、オフィスには、机と電話しかない。 
机と電話を使って、あとは人間の知恵と知識、想像力と行動力でビッグ
ビジネスを創出していくのだ。 生半可な気持ちではやっていけない
大変な仕事だ。 まー頑張ってくれたまえ」


ロマンにあこがれて、生まれ育った大阪を抜け出し北海道の大学を
めざした宮田真一は、大学では山岳スキー部に所属し、キャプテンを
務めた。 

まじめにゼミに出席する経済学部経営学科の同期の連中を尻目に、
ほとんど大学には来ず、北海道の大自然に入り浸っていた。 

夏は,日高や大雪山系にこもって、数千年前に氷河が山肌を削り取って
出来た野球場のような,カールと呼ばれる深い谷の斜面や、お花畑の
横の,落石がごろごろ転がっている雪渓で、野生のヒグマと隣り合わせ
になりながら、一日中夏スキーをして過ごしたり、冬は、利尻岳や知床、
日高、ニセコなどの厳冬期の冬山で、雪崩が頻発するような急斜面で,
深雪スキーを楽しんでいた。

大学4年生になると、卒業後の進路としてどうしても商社に行きたいと
考えるようになっていた。

海外で仕事がしたかった。

こせこせした狭い日本だけでサラリーマン生活を終えることが嫌で嫌で
仕方なかった。 
 
見知らぬ外国で、色々な外国人と堂々と渡り合って、日本企業の
先兵として,彼らと苦楽を共にしつつ,大きなビジネスを自分の力で
まとめあげて、巨大な製鉄所や石油化学コンビナートの建設現場に、
スーツ姿にアタッシュケースを手にして,チャーターしたヘリコプター
なんかで颯爽と到着し、現場に降り立つかっこいい自分をイメージ
していた。


「おい!宮田。 出かけるぞ! 支度しろ」 


 配属された日の翌日、OJT(On the Job Training)を担当してもらう
ことになった課長代理で、隣の机に座っている関から,突然大声を
掛けられた

関は、小柄だが大変元気で押しが強く、特徴的な彼の髪型は、恐らく
天然なのであろうと思われるパンチパーマ風で、両生え際が刈り
上がっており、かつ薄い色のついためがねをかけ、そのめがねの
奥には、眼光鋭い大きな目に、長いばさばさとしたまつげがあり、
また、大きな口から発する笑い声には威圧感があり、いかにも
商社マンでならした、といった風情をかもし出していた。
 
宮田が大学時代を過ごした北海道には見かけたことのないタイプの
人物像であった。


< いかにも柄悪そうなおっさんやな。 大阪でもここまで柄の悪そうな
おっさんはおらへんで。 このおっさんとこれからずっと仕事していくん
かいな。 いやー、これはほんまかなわんなー >


「今から面白いところへ行く。入社して早々の仕事としては、なかなか
いい体験が出来るぞ。 すぐ支度して付いて来い」


「は、はい!」


宮田は、あわててかばんにノートとペンを詰め込んで、さっさと
エレベーターホールに歩いていく先輩の後を追っかけた。

 会社の玄関を出ると、そこには小型のトラックが二人を待っており、
そのトラックに乗りこむやいなや、関が「大急ぎで、大森3丁目の
後藤鉄工所まで」と、運転手に告げた。


「ところで宮田。 お前は、差し押さえの現場ってところにいったことが
あるか?」


「差し押さえの現場? ですか?  いえ、ありませんが・・・」


< そんなもん。普通の学生上がりの人間にあるわけないやろ・・ >

 
トラックは、品川を抜け、第三京浜を経由して約30分後、JR大森駅の近くに
あるとある工場の前で止まった。


次回に続く。

三宅商店主 日記  2008年3月18日(火)

◆いよいよ本の締め切りが近付いてきた。
 

◆よく、テレビドラマなんかで、締切間近の高名な作家先生を、
若い編集記者が原稿取り立てのために追い回すという
風景があるが、逃げ回る作家先生の気持がよくわかる。


◆幸い、今回の編集者の方はとても紳士な方であるので、
取り立てこそないが、寝ても起きても締切のことばかりが
気になる。


◆特に今回大変なのは、海外事例の許可をとることである。
海外の大手企業の窓口を見つけ、事例の原稿を英語に
訳しなおして、企画書とともに提出し、許可をとるのだが、
これが本当に大変。


◆ドイツ最大手の小売店や、中国の巨大国際空港など
ここ一か月メールでやりとりの繰り返しである。
原稿を書く以前に、細かい交渉事を地道に繰り返さないと
いけない。


◆いくつかの候補のなかで、中国の国際空港からはいくら
メールをしても何の音沙汰もない。メールを受け取った
という返事もない。


◆どうせ中国は経済活況のなか忙しすぎて、こんな小さな
日本のコンサル会社の本なんか目もくれないのだろう。
広報部にはめちゃくちゃ大勢の人がいて、権限をもった
担当者に行きつくには何日もかかるだろう。
もともと丁寧に対応なんかしてくれないだろう。
などとほとんどあきらめていた。


◆しかし、苦労して10ページも英語で原稿を書いたので、
諦めきれず、だめもとで、ホームページから空港の広報の
代表番号を見つけて、思い切って電話をしてみた。


◆昔、商社で働いていたころ、主な通信手段は電話かFAXか
テレックスしかなく、ガンガン海外の取引先に電話を
かけまくっていた頃を思い出しながら。


◆「ニーハオ!This is Communications & Public Affairs!」

明るい元気な女性の声が返ってきた。


◆「日本から電話をしているMIYAKEと言います・・・。 あの・・。
本の件で・・・」

というやいなや、窓口の女性が

「あー。RFIDの本を書こうとしているMr.MIYAKEね!
すみません。連絡できずに。
ちゃんと原稿は複数の人間で審査してるわ。
今週中には必ず回答をするので、待っていてください」

「サ、サンキュウ!!!」
 


◆ 正直びっくりした。
まさか、最初の電話でまさに原稿を読んでくれていた
担当者本人と話すことができるなんて!

それも、とても丁寧で親切な応対だった。


◆ 電話をしてみるもんだとつくづく思った。
もしメールだけであきらめていたら、おそらく返事
はこなかったかもしれない。
  

◆ 最初から勝手にいい加減な対応しかしてくれないなどと
決めつけていた自分を大いに恥じた。
決めつけや思い込み、先入観は絶対に良くないと思った。


◆ それと、コミュニケーションといえば、もっぱらPCや
携帯でのメールなどのデジタル全盛の時代にあって、
電話という双方向のコミュニケーションも逆に
希少価値が出て、相手の印象にのこりやすいのでは
ないかと思った。


◆無機質なタイプ文字の羅列や絵文字もいいが、電話とか、
手書きのはがきなどのアナログコミュニケーションの良さも、
この出来事を機会に見直してみたい。 


ドイツメトロ (METRO group)壮大なRFIDプロジェクトレポート

◆ここからは、三宅商店主日記 「2008年2月15日(金)
冬のドイツ一人旅」の続編である。


◆いよいよドイツメトログループの中核ブランドである
Kaufhof Galeria百貨店でのRFID活用レポートの始まり。
始まり。


◆世界でも最先端のRFIDの取り組みを行っている百貨店は、
Dusseldorfから高速鉄道で約40分のところにあるEssenと
いう小都市の駅前にあった。


DSC05438.JPG

◆この百貨店の個別レポートをする前に、METROグループ
の全体像を紹介しよう。


BD-Group-Bruecke1-002.jpgのサムネール画像
写真提供:メトログループ


◆ドイツメトログループ(METRO Group)は、2006年の
売上高が600億ユーロ(約10兆円)を達成した、ドイツ一の、
かつ、世界でも第三位の有数の大手流通小売グループである。
31か国に2400店舗を持ち、従業員数は27万人を擁する。


◆このグループは持ち株会社であるメトロAGの傘下に、
以下の四部門がある。

(1)Cash&Carry(現金卸売業)
(2)Real(食品小売ハイパーマーケット)
(3)Media Markt (マルチメディア小売店舗)とSturn(家電量販店)、
(4)Galeria Kaufhof (百貨店)


グループ写真及び世界展開地図.JPG
写真提供:メトログループ


◆メトログループがRFID(ICタグ)を導入した最初の取組は、
未来型店舗フューチャーストアとして2003年4月に新装
オープンした、Extra(スーパーチェーン)のラインベルグ店
(デュッセルドルフ郊外)利用して、フューチャーストア
イニシアティブというプロジェクトとしての取り組みが最初
である。


◆この取り組みは、メトログループのみならず、SAP,インテル、
IBMを中核として、コカ・コーラ、P&G、などの一般消費財
メーカー、ヒューレット・パッカードなどののIT企業、多数の
RFIDベンダーなど約40社のパートナーの協力によって
進められた。


◆フューチャーストア イニシアティブの目的は、以下の
とおりであった。

(1)革新的技術の導入による小売ビジネスの効率化
(2)未来の小売ビジョンの展開
(3)それにより消費者・小売業者・サプライヤーにメリットを
還元することで、グループとして小売業界における革新者
としての位置づけを高め、業界の国際的技術標準確立の
リーダーシップをとること


◆メトログループとして、RFIDは、まさに革新的技術の
ひとつと捉えられており、2004年11月からRFIDの実証
実験が開始された。


◆この実験は当初一部の商品に限り、一部の店頭と倉庫
における実験であったが、最終的には、メーカーから店舗の
販売フローの棚、さらにはPOS(精算のためのレジ)レジに
至るまでの、モノ(商品や貨物)の動きを正確にトラッキング
することを狙っていた。


◆それによって、無駄のない、最適な発注を実現し、店頭
での欠品を防ぎ、また盗難を防止し、顧客につねに商品を
効率よく提供するという小売りの究極の課題に挑戦するもの
であったのだ。

三宅商店主 日記  2008年2月15日(金) 冬のドイツ一人旅

ドイツのEssenというところに来ている。

Dusseldorfから高速鉄道で北へ40分のところに
ある中堅工業都市だ。

街中をぶらりと歩いてみると、いかにも冬のヨーロッパ
といった様なたたずまいが見られ、旅情を誘う。


DSC05368.JPG


成田からフランクフルト経由降り立ったDusseldorfでは大勢の
日本人に遭遇したが、ここEssenではさすがに日本人の姿は
見かけない。
町のメインストリートからちょっと入った何気ない小道に風情が
あっていい。


DSC05371.JPG
何気なく曲がっていく小道。 日本ではありそでなさそう。


由緒正しそうな立派な建物が何気なくあったりする。
それを仲良く眺める老夫婦も絵になる。
ハプススブルグ家で栄えたドイツには、何となく余裕が感じられる。


DSC05365.JPG
いい感じの初老のお二人と由緒正しそうな立派な建物。ドイツっぽい。


ただ、寒さが半端じゃない。 
まるで、冬の札幌なみの寒さである。
緯度も同じぐらいなので仕方がない。

雪こそ降らないが、広場には屋外スケートリンクがあり、大勢の
市民がスケートを楽しんでいる程だ。


DSC05359.JPG


手袋なしではいられない。
空気そのものが底冷えしており、冷蔵庫の中にいるような感じである。

表通りを歩いているとふと古色蒼然としたたたずまいの教会が
現れたので、暖をとるために恐る恐る中に入ってみた。


DSC05376.JPG
表通りに面して堂々とたたずんでいる古めかしい協会。 街の雰囲気にしっかり溶け込んでいる


教会の中に入ってみると、ミサの最中であった。
時折パイプオルガンの低い音色が天井から荘厳に響いてくる。
司祭の説教をする声が静かに響き渡り、人々の声がそれに続く。
 
シャッター音に気を使いながら写真を1枚。
心の底から暖かくなる。


DSC05374-1.JPG


DSC05378.JPG]
並木の向こうにかすんで見える大きな教会の屋根。何やら偉大なお爺さんのような存在感


DSC05379.JPG
一番手前左のお姉さん。 他人事とはいえ、寒くないのだろうか・・・・?


Essenの駅前広場に出ると、何やら大勢の若者が、地元の
サッカーチームの黄色い大きな旗を振り回しながら、
大声でシュプレヒコールのようなものを叫んでいる。

初めて目の前でフーリガンというものを見た。 

でも、特別に暴れているわけではなさそう。
日本の成人式でのバカ騒ぎのほうがもっとすごい。

ただ、よく周りをみると、多数のごっつい体格の警官
や多くのパトカーががっちり取り囲んでいるのを
見るとちょっと怖くなってきた。

隣でビール片手に(この寒いのによく外で飲むな~)見物している
赤っぱなのおじさんに聞くと、地元のサポーターの連中だそうで、
暴れだすと半端じゃないとのこと。

ただ、まだ暴れていないからフーリガンではないと。
フーリガン化する可能性のあるサポーターの集会というわけだ。


DSC05382.JPG
Essenの駅前広場。 遠くの黄色い旗をもった黒い集団がフーリガン予備軍。
よく見ると右手前に警察官(背中にPOLOZEIと書いてある)。左にパトカー。


ところでなぜこんなところにいるかというと、6月に出版する
予定の本の取材のために訪れている。

実はここEssenにあるドイツで最大小売りグループMETRO
グループの百貨店が、世界で最先端のRFIDを活用した百貨店運営
を行っているのだ。
ドイツMETROグループ


DSC05380.JPG

一見すると何気ない、どこにでもある百貨店である。
いったいこの百貨店で何が起こっているのかをつぶさに取材して
きたので、次回のRFIDのコラムで紹介したいと思う。


DSC05381.JPG


餃子とRFID(ICタグ)

◆中国製ギョーザの問題が拡大している。

◆RFID関係者の間でよく口にされることばで、
  「トレーサビリティ」というのがある。
  モノの動きを追跡するという意味である。

◆もうちょっと正確に言うと、この「トレーサビリティ」
  という言葉には二つの意味がある。
  どこを起点にしてどの方向を見るかによって違う。

◆ひとつは、「トレースバック」。
  その対象物はどこから来たのですか?という意味。

◆もうひとつは、「トレースフォワード」。
  その対象物はどこに行く、あるいは行ったのですか?という
  意味である。

◆ここ何年か家電業界でも繰り返されているが、
 以前大手家電メーカーのガス温風器の不具合に対して
 全国規模の回収問題があった。

◆あれはどこに行ったのですか?ということががわからない
  ことが問題となっていた。
  つまり、トレースフォワードである。
 
◆ガス温風器のケースは、不良品が少なくともどこの工場
  のどのラインで、何月何日、誰が製造したどのロットであるか
  ということは把握できていると思われる。
  ただ、その不良品がどこの家の誰のところに流通したのか
  がわからない。

◆何万人、何百万人という消費者の顔が見えないのである。
  一人ひとりに売り上げ記録を小売り業者と一緒に確認
  すれば物理的に出来ないことはないと思われるが、
  それは膨大な作業を生じる上に、特定できないケースが
  多い。

◆いったん消費者に流通してしまうと、必ずしも
  購入者がそれを所有しているかどうかもわからない。
 
◆親戚や友達に譲っているかもしれないし、買った時の
  住所から別なところに移ってしまえば、小売の販売台帳
  だけみてもトレースできない。

◆どこに行ったのかを個別にユニークに、一つ一つの
  家庭や個人を特定するだけでも大変な問題である。

◆ところが、今回の農薬餃子問題が何にも増して深刻
  なのは、製造から流通、小売の流通プロセス上の、
  いったいどこで農薬が混入したのかが特定できない上に、
  どの消費者の手元にいきわたっているのかも特定
  できていない。

◆つまり、トレースバックもトレースフォワードも、その両方が
  見当がつかないということが、いままでの流通トレーサビリティ
  の問題以上に深刻さを増している。

◆中国は、昨年北京オリンピック選手村への食材供給に関して、
  ICタグを活用して、そのトレーサビリティを高めて安全な
  食品を提供すると新聞発表していた。

◆それはそれで新しい試みであり、私のようなRFID関係者
  からすると、RFIDの認知度向上を考えても
  素晴らしい事ではあるのだが、RFIDのプロからすると、
  それだけで解決はできないのではないかと考えてしまう。

◆確かにRFIDは、生産地で食品が取れた段階ですぐに、
  その原産地データ(例えば収穫年月日、生産農家の名前、
  使った農薬の成分など)を記録し、それをICタグでその
  農産物の個体を特定することにより、農産物とそれがもつ
  属性情報をつねに紐付けて管理することは可能だ。

◆さらにそのあとの流通の過程で、複数の読み取りポイント
  を設けることによって、何がどこをいつ通過したかという
  記録をRFIDにより、正確に、リアルタイムに集計し、記録
  しておくことは技術的に可能となってきた。

◆問題はこれからである。
  確かに家電製品、例えばプリンターや温風器など工場
  から出荷される時に製品の姿かたちが確定し、消費者の
  手に渡っても同じ形状、荷姿のものであればいい。

◆食品の場合の一番の問題点は、流通過程で荷姿が
  変化することであり、最終消費者の手元にいきわたるモノは、
  原産地のものと異なる場合が多い。

◆たとえば、牛肉を考えてみよう。
  農家から出荷されたその肉は、ものによっては、流通過程
  において、食品メーカーなどで他の肉と合法的に混ぜ合わ
  されて、いわゆるミンチとなったり、加工食品として最後は
  ハンバーグなどになって消費者の手に渡る。

◆こうなると、流通過程で七変化のように姿かたちをかえる
  食肉を最初から最後まで、お肉ひとかけらまでトレースする
  ことは不可能に近くなってくる。

◆ここが食品のトレーサビリティの一番難しいポイントである。

◆RFIDはもちろん協力な武器ではあるが、RFIDはあくまで
  ツールであり、それだけでは食品の場合は難しい。
  
◆もし、RFIDのような最新テクノロジーを活用して食の
  トレーサビリティを高めようとするならば、ひとつひとつの
  肉片にタグをつけて流通するわけにはいかないのである
  から、クレート、通い箱などのリターナブルが輸送機材に
  タグを貼付して、それをトレースすることによって、トレー
  サビリティを高めることは考えられる。

◆ただ、その場合の課題は、クレートや通い箱といった
  使いまわされる備品の形状がまちまちで、業界として
  標準的なものを使っていないという点である。

◆もうひとつは、パレットの上に乗っているものが変化
  するたびに、それが何であるかを常に認識して、
  パレットと結びつけて管理しなければならない。

◆例えば先にあげた食肉の例でも、業界が同じクレートや
  パレットを活用して、それを繰り返し流通するような
  仕掛けを設けて、そのものにタグをつけて
  トレースするということが出来ればいい。

◆実際、上智大学経済学部荒木先生主催のNPO食品
  流通高度化推進協議会では、和食の日配用のクレートの
  標準化(種類を減らして、共有できるようにすること)を
  行った上で、RFIDタグを貼付し、クレートという資産
  そのものの管理を強化することによって盗難や自然減
  を防ぎ、流通トレーサビリティを高めようという取組
  がなされている。

◆RFIDは素晴らしい技術であるが、RFIDをきっかけとして
  商習慣や業界のしきたり、人間の過去のしがらみなど
  を捨て去り、新しい業務変革を行うのだという
  人間の意志と情熱があわせもって初めて
  世の中に貢献できるのではと思う。

三宅商店主 日記  2008年2月6日(水)

◆会社を設立してからもうすぐ2か月。
あっという間というかんじ。

◆会社勤めのように、上司から何かあれこれ指示があるわけでない。
突然、わけのわからない会議への招集命令もない。

◆そういう意味からすると気楽だ。自由である。
契約に基づき、会社の代表者ではあるので、その会社のビジョンや
経営方針に沿って働かなければならないとは言え、そのビジョンや
経営方針は自分で作ったものだから、納得もいく。

◆だけど、逆に自分で動かねば何も起こらない。
何も始まらない。 誰も助けてくれない。 知ってもらえない。

◆世の中に、存在を知ってもらうためには発信しなければならない。
「自分は、この会社はこういうものですよー」とまるで江戸時代の
行商人が声を上げながら江戸の町を練り歩くように。

◆発信のひとつに、この度本を出版することになった。
今年の6月にはRFID(ICタグ)に関する事例本を、仲間と一緒に
出版することになっており、それはそれで大変うれしいのだが、
なにせこの執筆作業が大変なのである。

◆今回の本ではRFIDという技術が実際にどのように活用されている
のかをわかりやすく解説した内容にするため、実際の企業での
活用事例が中心となる。

◆執筆する以前に、その企業なり団体なりに事例の掲載の許可を
得るための労力が大変だ。

◆特にその企業が海外であったりすると、英語の資料を日本語
で原稿にし、許可を得るためにまた英語にし、修正をもらって
また日本語にするという作業となる。

◆場合によっては海外まで出向いて、談判しなければならない。
今、ヨーロッパへの自腹出張を覚悟している・・・。

◆どれだけの人が読んでくれるかも未定の段階で、多大な労力を
先行してつぎ込むことを覚悟しなければ、本は書けないなーと思う。

◆だけど、この本を手に取った人が、「あー、面白い」と思ってもらう
姿を想像していると、モチベーションがあがって、さてPCに向かうか
という気になる。

◆かっこつけるわけではないが、世の中のためにという思いを
どこかに持たないと、正直本を書くモチベーションは続かないなー
と思う。


 

RFID 基礎編 4 RFIDの親戚関係

◆RFIDは、実は自動認識という大親族の中の一人でして、何人か
のいとこといいますか、親戚関係にある技術が幾つかあります。
RFIDのみならず、今では自動認識の技術も大変進歩し、その種類も
年々多くなってきています。

◆RFID以外の代表的なものに、バーコードやバイオメトリクスが
あります。
バーコードはお分かりかと思いますが、バイオメトリクスというのは、
よく生体認証などと呼ばれ、最近は銀行のATMでお金を出し入れ
する際、指紋や静脈などを使って認証するというあれです。

◆RFIDは、これらの自動認識技術という大家族の中の、単なる
ひとつの技術であるとされています。

◆認識技術のひとつであるバーコードは、大きく二種類にわける
ことができます。
古くからある一次元バーコードと、最近開発され急速に普及し始めた
二次元バーコードです。

◆一次元バーコードに比べ大きなデータ量をもつ二次元バーコードも
含めて、スーパーやコンビニの店頭での精算、つまり
POS(ポス 販売時点情報管理Point of Sales)システムのときに
よく使われていたりします。

◆また、物流倉庫などで、貨物が入出荷したりするときに、例えば
出荷予定数量と実際に出荷されようとしている荷物の数合わせの
ためによく使われていたりします。

◆一方、バイオメトリクスは、人間の行動の独特な特徴や、指紋など
の身体的な特徴を用いて、個人を認証する技術です。

◆人間誰もがもっている特徴(普遍性:universality)や、本人しか
持たない特徴(唯一性:uniqueness) 、時間が経っても変化しない
(永続性:permanence)といった特徴を活用し、体の動きや指紋、
虹彩、静脈、顔の形、声など人それぞれによって違う相違をもとに、
個人を識別する技術のことをさします。

◆例えば、虹彩(アイリス)は、家族や、例え一卵性双生児(双子)
でもまったく別の模様を持っていたりします。


CCF20080206_00000.jpgのサムネール画像のサムネール画像
自動認識システム協会(JAISA)編「よくわかるバイオメトリクスの基礎」から抜粋

◆先ほどから、認証(Authentification)という単語がいくつか出ましたが、
正確に言いますと、認証(Authentification)と認識(Identification)は
異なります。
この違いお分かりになりますか?

◆バイオメトリクスなどで使われる「認証」とは、ある人が他の人に
自分が確かに本人であると納得させる事をいいます。 
ある物事が法的に正式であることを認め、証明することです。
例えば、私、三宅が三宅であることを証明する、あるいはしてもらう
ことです。

◆バーコードやRFIDでよく使われる「認識」とは、ある対象を
感知・識別し記録することです。

◆例えば、三宅という人間を識別し、三宅が何時何分どこそこを
通過したと認識し、記録、連絡するということです。

◆先に出てきた銀行の指紋認証は、単に指紋の写真を撮っている
のではなく、指紋の形状の特徴を確認しているのであり、
また、北米などに旅行しますと、空港での入管手続きの際写真を
撮られたりしますが、あれは単に写真をとっているだけではなく、
個人の顔の形、たとえば目や鼻の位置などの特徴を記録
しており、本人が本人かどうかを確認しているのです。


顔認証.jpg

自動認識システム協会(JAISA)編「よくわかるバイオメトリクスの基礎」から抜粋

◆「開け。ゴマ!」っていう合言葉、有名ですよね。
「アラビアンナイト」の中の一話、「アリババと40人の盗賊」に出てくる、
秘密の洞窟の岩の扉を開ける掛け声が「開け。ゴマ!」。

◆これなどは認証手法のひとつであります。
秘密の洞窟が人の言語を認識するために「開け。ゴマ!」という
パスワードを使った認証をしている訳でありますが、ただ、厳密に
言いますと、ここではまだ人の声そのもの、すなわち声紋認証までは
されていませんでした。

◆もしこれが声紋認証までされていれば、バイオメトリクスを使った
世界最古の物語になった可能性があります。
しかし、その場合、アラジンが「開け。ゴマ!」と言っても洞窟の岩
の扉は開かないかもしれず、面白くもなんともない話になって
しまいますが・・・。

◆多くの日本人が大好きな江戸時代の仇討ち事件である忠臣蔵
の赤穂浪士。

◆赤穂浪士といえば、「山」と「川」。

◆その昔、忍者が何者かと出会ったときに敵と味方を識別するため
に使った”合言葉”であります。

◆「山」「川」と交換しあって、相手が自分たちの仲間なのかどうか
を識別した幼いときの隠れ家や秘密基地の思い出がよみがえって
きますね。

◆このように、大親族の中にRFIDのいとこ達はたくさんおり、
これからも技術の進歩に伴い、多くの新しいいとこ達が生まれて
くることでしょう。

◆そのいとこ達と仲良くコラボレーションをして、世の中の役に立つ
ともっと素晴らしいですね。
  
◆皆さん、RFIDの位置づけがお分かりいただけたでしょうか?

RFID 基礎編 3 RFIDの歴史。 結構おもしろいよ!

◆家畜の個体を認識していた以外にも、第二次世界大戦において、イギリス
空軍の戦闘機が電波を飛ばして敵機と味方機の識別をしたといわれています。

◆RFIDが得意とする複数の個体を一括で認識し、それをインターネットを
介して遠隔地に飛ばすといったような、RFIDとITが融合したシステムの名残も
古くからあるようですね。

◆たとえば、西部劇で、アメリカインディアンが、岩山の上に身をひそめ、谷底の
道を砂煙をあげて行進する騎兵隊の隊列を上から覗き込んでいるシーンを昔
テレビドラマで見たことがありますよね。

◆あれなんかは、岩山の上から大勢の敵を察知すると、オオカミの糞で作った
といわれる狼煙(のろし)をあげて、はるか遠くにいる味方や自分たちの集落や
陣地に、敵の襲来の事実とともにおおよその数を事前に通知しておりました。

◆また、万里の長城は、北方騎馬民族が攻めてくると、監視台や狼煙台にいる
警護隊がそれを察知し、その規模を瞬時にとらえて、インディアンと同様に
狼煙(のろし)を上げて、数十キロという遠方に点在する多数の監視台に
敵の襲来という事実とそのおおよその規模を事前に連絡し、城の警備を
何十キロにわたって強化したといわれています。


万里の長城.JPG

◆これなどは、最古のIT(情報通信 Information Technology)インフラとも
言われており、実は当時から個体認識をして、その事実を遠隔地の伝達する
という、言ってみれば今の自動認識技術と通信技術の融合のしくみがすでに組み
込まれていたのであります。

日本一のお客様思いのスーパー

◆ここ連日中国からの農薬混じりの餃子問題でゆれにゆれています。
加ト吉やJTの信用問題までに発展しています。

◆昨年から繰り返される食品への偽造、偽装、安全問題。
不二家、ミートホープ、白い恋人、赤福、船場吉兆、マクドナルド
などなど・・・。
あまりにも多すぎて、一つひとつがどうだったのか、思い出せないくらいです。

◆毎年恒例の京都清水寺の僧侶が書く「今年の漢字」の昨年版は、
情けないことに「偽」でした。
偽装、偽証、偽計の「ギ」だそうです。

◆こういう状況を見ていますと、企業経営は、「顧客志向」、「現場主義」である。
などと昔からよく言われますが、そんなものいったいどこに行ってしまったのかと
思ってしまいます。

◆今年のお正月に、近くのビデオレンタルショップに行って、故伊丹十三監督の
「スーパーの女」という映画のDVDを借りてきて観てみました。

◆私が師事している松林先生というコンサルタントの方から、「顧客志向とは何か
という本質を教える素晴らしい映画だからぜひ観るといい」と薦められたから
でした。

◆松林先生は、製造業の業務改革などに特化したワクコンサルティング(株)
という会社の社長をされており、日々顧客志向とは、現場主義とはなんぞや
といったことを追及されておられます。   ワクコンサルティングのWEBサイト

◆この映画を観て、びっくりしました。
1996年の作品なのでもう10年以上も前に作られたのですが、そこに描かれ
ているストーリーは、まさに昨今問題になっている食品偽装に真正面から
取り組んで、真の顧客志向を追及するスーパーの物語が描かれておりました。

◆スーパーの名前は「正直屋」。
宮本信子演じる主人公が、あるとき近隣にオープンした安売り日本一
を歌い文句にする「安売り大魔王」に客を取られてしまい、そこに対抗
するために、幼馴染の社長を支えながら、お店の改革に着手し、
やがて遠のいていたお客を見事取り戻すというストーリーです。

◆主人公が支援を開始したときの正直屋は、名前とは全く正反対の
オペレーションを行っていました。

◆たとえば、業界の常識だといって、前日の売れ残りの肉や魚をパック
し直したり(リパック)、日付を偽装したり、高級肉に安い肉を交ぜて
かさを増してごまかしたりと、消費者がまさかと思うようなことを
平気で行って、儲けることばかりを優先していました。

◆儲け至上主義が偽装を生み、結局儲けるどころか、大事なお客様
を競合に奪われてしまいました。

◆お客様もさることながら、そこで働く社員やパートのおばちゃんも
正直屋で買うことがないスーパーにまで落ちぶれてしまいました。

◆そこで、主人公は、何よりも大切なことは何かを考えに考え抜いた末に、
それは、「お客様に本当に喜んでいただくこと」であるというビジョンを
掲げるにいたりました。

◆そして、日本一のお客様思いのスーパーに何があっても生まれ変わろう
と決意したのです。

◆それからは、偽装に手を染めていた職人やマネージャー、調達先
からの猛反発に遭いながらも、偽装を良しとしない一部の社員や
パートのおばちゃんたちと一緒になってお客の声を真摯に聞き留め、
希望や要望を吸い上げ、たとえ誰が抵抗しようと、多少お店に
損が出ることになろうと、やらなければならないことに邁進するのでした。

◆この正直屋のビジネスモデルから学べるのは、

1.顧客志向・現場主義

2.情熱をもったリーダーの存在(主人公)と明確な
  ビジョン(こうあるべきという方向性)

3.既存の業務プロセスの見直しと改革(改善ではない)

4.社員のやる気の喚起

の4点です。

◆松林先生も「顧客満足(CS)の解説本を何冊も読むよりは、顧客志向の
入門編としては「スーパーの女」を見るのが一番ストレートでわかりやすい」
とおっしゃっております。

◆以前ご覧になった方も、エンタテイメント映画としてご覧になった時と
違い、このような観点から皆さんもぜひ一度ご覧になってみてはいかがで
しょうか?

◆ただ、本当に今すぐ見てほしい方々は、冒頭に記載した企業の経営者
ですね。 ぜひ正直屋のように再生してもらいたいと思います。

RFID 基礎編2 「RFIDの歴史。 結構古いよ!」

◆今回はRFIDの歴史と、その祖先の方々を紹介いたします。
それと、RFIDに似たような親戚がおりまして、その親戚のなかでRFIDは
どこに位置づけられているのかをご紹介します。

◆「おぬし、何者ぞ?」
小学生とか、小さい頃よく秘密の隠れ家を学校からの帰り道に
こっそり仲間と作った覚えはありませんか?
その時に、仲間のみしか入れないようにするために、合言葉
を作って、その合言葉を言った友達だけを隠れ家に入れるので
したよね。

◆そこにある個体はいったい何か、何者であるかというように、
個体を正確に認識したいという欲求は古くからあったようです。

◆たとえば、江戸時代にさかのぼってみましょう。
当時、「入り鉄砲・出女」といって、江戸在住の大名の妻が密かに領国へ
帰国したり、江戸での軍事活動を可能にする江戸方面への鉄砲の流入
の2つの流れを、江戸幕府が「関所」を設けて厳重に規制をしました。


関所.jpg

◆これも今でいう自動認識システムを使った個体認識のはしりと言えるの
ではないかと思います。
この場合の通行手形が現代のいわゆるバーコードやRFタグの祖先といって
も差し仕えないでしょう。

◆電波や電磁波を使った、いわゆるRFID技術としては、1950年代に欧州で
牛などの家畜の飼育管理用に利用されたのが最初の実用化例と言われて
おります。

◆ピアスのような形状をしたイヤータグと呼ばれるものを家畜の耳に取り付け
たり、ガラス製のカプセルでできたインプラントタグを皮膚の下に埋め込んだり、
ペンダント状のタグを首からぶら下げたりして取り付けました。

CCF20080131_00000.jpgのサムネール画像

◆家畜の個体を認識して、家畜がえさ場に来た時に、そこにあるアンテナで
タグの中に埋め込まれているID(Identification 個体識別子:つまりユニークな
識別番号)を電波で認識し、そのIDを識別することによって、その家畜の個体
を把握し、飼料の供給時間や配合比率の調整などを行っていたといわれて
います。

◆次回は、もう少しRFIDの歴史あるいはなごりに触れたいと思います。
そして、この意外に古くからなごりのある技術が、どれほどこれから
ビジネスや社会生活を変革に導くか、そのように社会生活に良い影響を
もたらすかを、実際の事例を盛り込んで解説していきたいと思います。

RFID 基礎編1 「RFIDって何?」

◆ RFIDとは一体何なの?
RFIDとはRadio Frequency Identificationの3つの単語の頭文字を取ったも
ので、Radioは「無線」、Frequencyは「周波数」、Identificationは「認識」。
つまりRFIDとは「電波や電磁波などの無線技術を使った非接触による
個体認識技術の総称のことをいいます。

◆海外ではRF タグ、日本では、ICタグとか、電子タグと呼ばれていますが、
これらはRFIDという技術を支える道具のひとつであり、RFIDという技術の
中に含まれるものであります。

◆RFID技術を支える道具として、代表的なものとして、アンテナとICチップが
入ったタグや、そのICチップの中のデータや情報を読み取るリーダー/ライター
(読み取り装置)などがあります。

◆簡単に言うと、モノや人などの個体を一つひとつ個別に(ユニークに)
認識するためのコードや、その個体の固有のデータや情報などが書き込まれた
ICチップとアンテナが埋め込まれたRFタグ(ICタグ、電子タグなどとも呼ぶ)を、
モノやヒトに貼り付けて、離れたところからリーダー/ライターで電波を送ったり、
受け取ったりして、RFタグのチップに書き込まれた情報を読み取ったり、
書き込んだりする技術の総称です。

◆このブログでは、アンテナとICチップが入ったタグのことをRFタグと呼ぶこと
にしましょう。

◆RFIDの特徴は、大きく分けて5つあります。

①非接触性
RFタグとリーダーライターの双方が接触しなくても読み書きすることが
可能であるということです。
RFタグとリーダー/ライター数センチの距離から読み書きができ、RFタグの種類
によっては数十メートルという離れた所であっても認識することができます。

②非目視性
RFタグが、目で見ることができない、隠れた場所にあっても認識することが
できます。

③ 自動認識性
読み取る際に、人間が焦点を合わせたり、スイッチを押したりする必要がなく、
電波が及ぶ範囲にRFタグが入ると自動的に認識することができます。

④一括読み取り性
複数のタグに書き込まれたRFID情報を一度にまとめて認識することができます。

⑤書込み再現性
バーコードと違い、RFID情報やデータを何度も書き込んで、更新すること 
ができます。 つまり再利用できるということです。

以上のような特性をもったRFIDですが、それでは、どれくらい昔から
存在していたのでしょうか?
また、ほかの類似した技術では何があるのでしょうか?

次号からだんだん皆様に素晴らしいRFIDワールドをだんだんとお教えしますね!

大江戸ビジネスモデル考 (その1)

◆1603年~1867年にかけて栄えた江戸時代は、これからの政治を考える際
に明治時代がよく引き合いにされるのと同じように、これからのビジネスモデル
を考えるにおいては大変参考になる時代であり、優秀なビジネスモデルの
宝庫であるといえるのではないかと思います。

◆現在の世の中で当たり前となっているビジネスモデルの多くが、その起源を
たどると江戸時代であることが多いのです。

◆徳川家康が関ヶ原の戦いに勝利をおさめた後、江戸開府の1603年を始期とし、
徳川幕府は徹底的な政局安定策をとり、諸大名や朝廷に対し徹底した法治体制を
敷くなどしました。

◆その結果、260年以上続く長期安定政権を確立し、「天下泰平」という
今でも使われることばが生まれるほどの平和状態を日本にもたらしました。  

◆こうした国内の長期安定的な生活基盤に加えて、対外的には鎖国をして
いたため、長崎出島を通じての一部の貿易以外は、豊富な国内市場のニーズ
に対応するニュービジネスが多く育ったのです。

◆ひるがえって現在の日本がおかれている状況をみると、グローバル
スタンダードな経済環境の中での企業活動を強いられており、どうしても目を
海外に向けて活動せざるを得ないし、海外からのビジネススタイルやビジネス
モデルの影響を受けざるをえなくなって来ています。 

◆ただ、忘れてはならないのは、この小さな島国には、広く教育を受けた
1億2千万人もの人間が相対的に平和に生活しており、ライフスタイルの多様化
に伴って、いろいろなサービスや製品、ソリューションを日々渇望している巨大
マーケットが存在しているということであります。  

◆今のこの平成の時代というのは、経済規模や人口規模などの差はあるとは
言え、江戸時代と何か多くの共通点があるように思えるのであります。 

◆従って江戸時代に生み出された数々のビジネスモデルを分析することによって、
日本人の持っている商機のルーツに触れることができるのではと思いました。

◆大江戸ビジネスモデルを探究することによって、これからの日本の市場
が求めているビジネスモデルの方向性を教えてくれるのではないかと考えた
のが、この大江戸ビジネスモデル考の主旨であります。

◆次回から何回かにわたって大江戸ビジネスモデルの事例をいくつかご紹介
していきたいと思います。

新車を売らない自動車販売店? 

◆どの企業も、自分たちのコアビジネスとして売りたいものというものがあって、
それを何とか売ろうとして日々躍起になっています。
だが、その売りたいものの品質や価格などに特に問題がないのに売れ行きが
伸びない時や、売ろうとすればするほど売れないといった時を迎えたときに、
どうするか?

◆その時に大事なのが、逆転の発想です。 
たとえば車を売りたいのであれば、車を売り込むなということです。

◆日経朝刊に興味深い記事が載っていました。
新車を一台も売らないで利益を出す自動車販売店があるそうです。
普通は、売りやすい新車の販売に力を入れるのが常識ですが、
トヨタ自動車系の販売店はちがいます。

◆ネッツトヨタ神戸は、国内市場縮小のなか、新車販売に苦戦していました。 
そこで、補修・点検サービスや中古車などの新車販売以外のサービスの充実
に軸をおいて、そこに利益の源泉を求めました。 

◆その結果、新車販売以外の利益を固定費で割った「固定費カバー率」は、
全国平均が78%に対して、120%に迫るようになり、新車販売以外の
サービスだけで十分固定費をカバーすることになりました。  
補修・点検サービスの充実が、結果として、新車購入の顧客の開拓も
可能となり、トヨタの中で優良販社として表彰を受けるにいたったのです。

◆車の展示台数を極力減らして、余ったスペースを別なサービスに生かす
という逆転の発想をとった販売店もあります。

◆ネッツテラス尼崎では、展示車をたった一台だけとし、余ったスペースには、
車検やオイル交換などを待つ顧客に対する喫茶スペースを設け、待ち時間が
長いサービスを取り込む策をとりました。
さらにすごいのはトヨタ車以外の補修・点検も取り込み、結果として地域
シェアを大きく伸ばしました。

◆これらの例は新車販売からいったん視点をはずして、それ以外に顧客が
求めているサービスに目を向けて顧客をつなぎ留め、最後に新車の販売増
を目指すという逆転の発想戦略であります。

◆価格戦略でも、視点を変えて成功した例もあります。 
通常価格戦略は新車販売価格が焦点になります。 

◆金融子会社のトヨタファイナンスは、逆に下取り価格をいかに高くするかに
注目しました。 
200万件の中古車オークションの取引データを分析し、下取り価格を
平均1割引き上げることに成功。 
新車価格と下取り価格の差額を圧縮したローンが好評となり、そのローンの
利用率は3倍になりました。 
 
◆また、IT活用の分野では、カーナビゲーション機能に逆の発想を用いました。
通常のカーナビは、顧客向けに一方的に渋滞情報などを一方的に発信しますが、
レクサスに搭載されているカーナビは、顧客からオペレーターに対して発信
できる機能をもちます。  
これにより、対面販売では不可能は24時間体制での顧客の声を収集して、
新しいサービスや新車開発などのマーケティング戦略に生かしています。

◆車の品質は一級品のあのトヨタでさえ、いろいろ知恵を絞り、発想を逆転
させることで、活路を見出そうとしているのです。

◆顧客は新車だけを買うわけではない。車を含めた周辺のサービスも含めて
買うのです。
売れない売れないと嘆いたり、うちの製品やサービスのラインナップにはない
からとか決めつけずに、この事例を参考にして、「逆転の発想」を行い、実行
してみては如何?

参考記事 日経071221 15面


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