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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (13)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第三章 初めての海外出張


柴田の話を聞いて興奮した新人時代からからあっという
間に3年という月日が経っていた。

お客様のさらにその先にいるお客様や、市場のニーズ
から把握するという考え方を頭の隅に叩き込んだ宮田は、
その後、日本非鉄金属の狙うべき市場ニーズに目を
つけて、日々の営業活動を行うよう努力していった。

その結果、徐々にではあるが、最初は冷たかった
鹿沼工場の人々も、宮田がもってくる話に耳を傾けて
くれるようになり、行けば向こうから


「宮田さん。今日は何か面白い話ないの? 欧米の客の
動きとか?」


と声を掛けてくれる資材部や設備部の人も現れてきた。

圧延機などの大型商談こそまだ扱う実力には至らない
ものの、中規模程度の設備商談には、関の荒っぽい
指導の下、何とかこなせる実力がついてきたようで
あった。


宮田は、先輩の関がかってアルミ缶のニーズに目を
つけたと同様、日本非鉄金属自身が次に着目しなくては
ならないニーズを必死で探そうとしていた。


鹿沼工場に通う以上に頻繁に柴田や同期の森永らが
いる非鉄金属製品部に足しげく通って情報交換や
相談をしていた。

日本非鉄金属協会など公的な関連機関にも訪問して
情報収集を行った。


日本非鉄金属という会社にも歴史があり、企業戦略がある。
その流れに乗ったものでないとダメだ。 
突飛な提案は受け入れられない。日本非鉄金属だから
こその流れがある。
その先のニーズを探さなくてはダメだ。 
さらに最後には大日本商事が大型プラント・設備受注に
結び付くようシナリオでないといけないと考えていた。

色々資料は集まってきた。

ある日、集めてきた資料を前ににして頭を抱えていた
ところ、入社したての頃赤坂での食事に誘ってくれた
マイクが声を掛けてきた。


マイクは、その後コーチ役として宮田の指導をして
くれている。


「やー、相変わらず頑張っているようやね。 
どないですか?」


ハンガリー向けアルミ鋳物部品プラントの入札のため
一ヶ月近い海外出張から帰国したばかりのマイクが、
例によって優しくて奥の深い包容力のある青い目を
輝かせながら、宮田を見て微笑んでいた。


宮田は、一緒に仕事上で組んでおり、人事上いわゆる
指導員と位置づけられている関には、どうしても自分の
弱みを見せたくないと思うのか、素直に色々聞けない
のだが、このマイクにはいつも本音で困ったことは
相談してみようという気になっていた。


宮田は自分が抱えている課題、日本非鉄金属工業の
ニーズという壮大なテーマで行き詰っており、いい
方向性が出ないで悩んでいると相談してみた。


「宮田君。ええ質問やね。
あんた、マーケティング志向で取り組んでいるようで、
ほんまええわ! 実にええね」


マイクは、宮田の机の上の資料の山をちらっと見て
さらにこう続けた。


「相当資料を集めたようやね。 そういうときは、
ここは一旦、木を見て森を見ずとならんように、敢えて
大所高所で物事を見てみてはどうやろ?

自分も枝葉に入り込んで森が見えなくなったときに
ようく使うんやけど、単純やが使いやすい考え方が
ありまんねんで。

{What we have done}
{Where we are} 
{To where we have to go}
というステップで考えてみてはどうやろ?

日本非鉄金属は、今までの歴史で何をしてきはった
のか? その結果いまどこにいはるのか?
これからどこに向かおうとしはってるんか?」


宮田は、マイクからヒントをもらったお陰で次の
ステップに進めそうだと感じていた。


そこへ、関から声が掛った。


「おーい。宮田。ちょっとこっちへこい。 
出張の件で話がある」


突然関に呼ばれ振り返ると、課長の細川の机の
ところに関が立っており、課長と一緒にこっちを見て
手招きしている。

また、どこかの国内の地方都市への出張かと思って、
細川と関のところへ歩み寄った。


「何でしょうか?」


「そろそろ君に海外出張に行ってもらおうと思っている」

思いもよらぬことを細川課長が切り出した。

すでに同期の連中の大半は海外ビジネスを中心に
任され、一部の連中は中国などに駐在を命ぜられるなど
して海外を飛び回っていたので、その連中に大きく
後れを取っていたと感じてきた宮田にとっては、
細川課長のその一言に、いよいよ念願のその日が
来たかと心中

「やった!」

飛び上がらんばかりのうれしい思いであった。

大学時代にあこがれていた海外との仕事。

頭の中にニューヨークのマンハッタンの高層ビル、
霧のゴールデンゲートブリッジの鮮やかで華麗な姿、
はたまた英国のロンドンブリッジの豪華な偉容

などが横切った。


「ありがとうございます!がんばります!
ところで、どこへ出張するのでしょうか?」


「イランだ」


関がニヤニヤしながら言った。


「は? イ、 イラン・・・ですか? あの中東の?」


「ばっきゃろー。他にどこにイランがあるってんだ。
イランといえば世界にひとつしかなかろうが」


「あのー。 お言葉ですがイランは今イラクと交戦中で、
戦時中ではなかったでしょうか?」


「だからどうした。いやならいいんだぞ。
イランはいらんってか?」

<しょ、しょーもな!>と思いながらも言い切ってしまった。


「いえ、行かせてください。がんばります!」

その言葉を聞いた細川課長が間髪入れずに言った。


「ではがんばって行ってきてくれたまえ。
あそこにうちの大事なお得意さんがあることは
君も知っていると思う。
出張の目的は関さんと十分打ち合わせをするように。

それと、現地は危険地域に指定されているので、
万が一のことも考えて安全対策に関しては人事部と
事前に十分相談するように。

ちなみに、そういうことだから危険地手当もでるはずだ。」


細川課長にそう言われ、ポンと肩をたたかれた宮田は、
とぼとぼと自分の席に戻った。


<し、しもた! 安請け合いする前に、先に行き先
聞けばよかった!>

勢いで、 「行きます!」 なんて即答するんじゃなかったと
後悔した。

目の前に座っている篠原由美子が心配そうな顔で
こちらをチラチラと見ている。

「宮田くん。どこに出張?」

「イランって言われました。」

「えー!? イ、イラン?  それは、・・・大変!」


次回に続く。

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