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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (12)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「それでは質問です。関が目をつけたニーズとはいったい何だったでしょう?」


宮田と森永は目を合わせた。


宮田が恐る恐る言った。


「えーと、ジュースなんかの清涼飲料水やビールに、管理やリサイクルが
難しいガラスが使われなくなってきたという世の中の状況があったり、
とはいっても鉄は錆びやすかったり、運ぶのに重い、リサイクルしにくい
という状況があったのだと思います」


「ご名答」


「そうだね。世の中が環境問題や健康問題にナーバスになってきて、
環境にやさしくクリーンなイメージを持つアルミニウムを必要とする
社会的背景が整ってきたという状況だね」


宮田は、自分の発言に対して,会社に入って初めてほめられたので、
内心秘かにうれしかった。


「いかに総合商社といえども、このニーズを直接満たすことや、
作り出したりすることは出来ない。

だけど、このニーズを明確にし、ウォンツに影響を与えていくことは
商社だってできるんだ。

関は、このニーズを他の代替品の中からアルミニウムを選択するように
イノベータ(革新者)に働きかけたのだ。

この辺りからマーケティング戦略ということになるかな。

アルミニウムが欲しいというウォンツをイノベータに植え付けることに
成功した。
 
具体的にどのようにしたかというと、関は2年以上も俺と組んで、俺の
お客先回りをしたんだ。

国内外のビール会社からイノベータと呼ばれる会社を2-3社に絞り、
徹底的にアルミニウムのアドバンテージを説いて回った」


「イノベータとは何ですか?」


宮田が聞いた。


「お前ら本当にマーケティングの本を読めよ。
どこにでも書いてあるぞ。 

スタンフォード大学のロジャースという教授が
説いているイノベータ理論というのがある。

イノベータとはそこに定義されているのだが、ある技術や製品が市場に
浸透していく過程で、それを採用する態度によって購入者、採用者を
分類しているんだ」


<商社マンも理論武装っちゅうもんをせなあかのやな・・・>


柴田は続けた。


「イノベータは市場全体の2.5%程度で、とにかく新しいものに興
味があり、お金も持っている。

社会通念にとらわれず、新しい技術やノウハウを使い始めることを
好む集団をさすんだ。

その次に来るのが、新しい技術が社会的に大きく採用される下地を
打つ存在であるオピニオンリーダー(13.5%)だ。
文字通りオピニオンリーダーとなる会社である。

彼らは、業界のドライバーとなって、あそこが使ったんだから問題ない
だろうと、他の企業が見習うような会社である。


そして、そのオピニオンリーダーが採用するや否や採用するアーリー
アダプター(34%)という集団がいる。
{みんなが使っているから派}とでも言おうか。


そのあとには、新しい技術に慎重で、市場に十分出回るまで採用を
手控える集団であるフォロワー(34%)がいて、最後が新しいものや
ハイテク嫌いで保守的なラガード(伝統主義者16%)という分類となる」


宮田は、商社がそんな分類でもってお客を区別しているとは全く
知らなかった。

<商社っちゅうのんは、一見大味なビジネススタイルに見えるけど、
結構繊細に冷静に顧客を分類・分析しているんや・・>

「案の定、業界ではアルミニウムへのウォンツがイノベータや
ピニオンリーダーのお陰で高まって、そして、幾つかの大企業が
具体的に予算をとった形でのアルミニウムへの引き合い、つまり
デマンドとなって現れた。

そこに、俺と関はあらかじめ計画しておいた戦略通りに日本非鉄
金属の製品販売部隊のトップを引き合わせ、大口の引き合いを獲得した。

日本非鉄金属は、そうなると当然その引き合いに見合う生産量を新たに
確保しなくてはならないよな。

そのため、新たな圧延設備能力の増強という計画を立てる必要に
迫られることになる。

そこで、関と俺は、日本非鉄金属と一緒になって必要な生産量や
設備能力などのコンサルティングを行うと共に、新たに購入が必要
となる原材料であるアルミインゴットの調達先なども紹介し、プロジェクト
全体のプロデュースを行い、さらに、メーカーの選定プロセスや選定
基準までの道筋を描くわけだ。

その間、一方でその能力を満たすであろうメーカーにも内々に声をかけ、
わが社の強い立場を説明し、独占的に協業することを取り付けて、その
メーカーに応札準備を進めさせる。
 
結果、本社調達部から引き合いが出る頃には、わが社は日本非鉄金属と
メーカーの両方から切っても切れない大事なパートナーという位置づけを
得ている状態になり、自然と主契約者として商流に入り込むことになる。

なぜなら、市場からの声を背景にアルミニウムというデマンドを業界に
引っ張り出した張本人だからな。

お客、メーカーどちらにとってもわが社との連携はアドバンテージになる
からだ。

もっと言うなら、一般消費者も味方だよな。 市場や社会的背景から、
ニーズ、ウォンツ、デマンド、お客のお客、販売チャネル、製品仕様など
何でも知っているわけだから、不要なわけがない。

したがって、関は一度もお客に売り込まずに何百億円の設備を売った
わけだ。

要はビジネスをプロデュースした結果の売り込みであるということだ。
これを業界では出来レースともいう」


宮田はキーワードを思いついた。


売りたければ売り込むな!


<そうや! 売りたければ売り込みに行ってはあかんのや。 
これや! 
売りたかったら売り込んだらあかんというこっちゃ。これや。これ!>


このことは彼なりにマーケティングの極意だと思った。

それと、以前赤坂の夜、マイクが言っていたビジネスプロデューサー
という意味がなんとなくわかったような気がした。


「柴田さん。ひとつ言わせて下さい。

そのプロジェクトは、たまたま関さんと柴田さんという優秀な商社マンが、
たまたまうまくコンビを組んだから出来たのでしょう? 

とても自分には
そんな大それたことをやる自信がありません・・・」


宮田は正直に気持ちを語ってみた。

実際、横で汗を書きながらメモをとっている森永とそんなことを
やっている姿をイメージしようとしたが、何度やっても鮮明なイメージが
見えてこなかった。


「そんなことはない。何も特別なことをやってきたわけじゃないよ。

要はそういう意識をもって日常の雑事に対処しているかどうかが大事なんだ。

普段やることは地味なことの繰り返しだが、そこに確固たる戦略をもって
行動するかどうかが大事なんだよ。

君だってさっき関が目をつけたニーズを俺が質問したら、見事に
言い当てたじゃないか」


「はい。確かに」


「あれが戦略の取っ掛かりなんだ。

あそこに目をつけるということそのものが、とても大事なことなんだ
ということを商社マンは知っている。

君は大学を優秀な成績で卒業し、頭脳明晰で知能指数も高く頭は
誰よりも冴えわたっているエリートだと自分のことを思っているかい?」


宮田は、頭がシャーベット状態であるといわれた関の言葉を思い出し
ながら、頭を横に振っていた。


横を見ると同期の森永も、もっと強く頭を横に振っていた。

むしろその逆であるといった方が正しいように思った。


「だろう。森永だって柔道ばっかりやってきて、脳みそが筋肉だと
からかわれているよね。

俺だって、関だって同じだ。

別に特段優れた営業マンでもサラリーマンでもない。

ただ、商社マンとしてやるべきことはきちんとやった。その違いだけだ」


「それは何でしょうか?」


「戦略を立てること。 

そして、いったん立てたらそれを地道に確実に実行することだ。

戦略は実行するために戦術に落とす必要がある。

いわゆる実行プランだ。

この実行プランを、使命をかけて行うことが大事なんだ。

ところで、{実行}や{使命}という字を見てどう思う?」


宮田は、会話の最初から柴田の突然本質を突いた質問攻めに
戸惑いながらも、自分の知的想像力にだんだん火がついていくのを
感じていた。


<実行・・・、 使命・・・。
いつも簡単に口走ってる言葉やけど・・・。
どう思うていわれても答えようないな・・・>


「実行という字は{実際に行う}ということだ。

いくら素晴らしい戦略を描いても実際に行動に移さないと意味がない。

総合商社という環境は幸か不幸かよく出来ていて、考えるだけでは
給料をもらえないよ。

机と電話しかない環境に日柄座っていても仕方ないから外に出る
しかない。

自然と行動するしかない環境なんだな。 
評論家はいらない。
実際に自ら現場に飛び込んで、自分の目で見て、肌で感じて、
生身の相手とやりとりをして行く先を切り開いて行動するのが
商社マンだ。

それともうひとつ。

{使命}という文字。

よく、{あの人は、使命感にあふれている}とか、{使命感に燃えた人}とか
いう用途で使われる。

その人の行動を賞賛するケースがほとんどであるよな。

字を分解すると、{命を使う}となる。 

宮田君。この意味判るか?」


「命を使う・・・ですか?」


「そうだ。文字通り命を使うほど真剣に行うということだ。

これが商社マンの本質的な行動原理なんだ。

実際海外の発展途上国などで事故や戦争、テロなどで怪我をしたり、
最悪、命を失った先輩も少なくないからな」


宮田の心の中には、柴田の話を聞いていて、いろいろ困難はあるけれど、
早く海外に行って、見ず知らずの異国の地で、思いきりビジネスをし、
結果としてその国の人々の喜ぶ顔を見てみたいという思いが
沸々と湧いてくるのであった。


次回に続く。

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