BFC Consulting BLOG - BFCコンサルティングブログ



連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (14)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「宮田くん。どこに出張?」


「イランって言われました。」


「えー!? イ、イラン??? 
それは、・・・大変!」


宮田は心のなかで叫んだ。

<よりによって初めての外国、初めての海外出張が
イランとは!
アメリカやヨーロッパはどこへいったんか!?ほんま!>


当時イランはイラン・イラク戦争の真っ只中であった。
米ソを中心とする世界的な冷戦構造が続く中、旧ソ連が
イランを、米国がイラクを政治的・軍事的に支援しており、
イラン・イラク戦争は実際は背後の大国が操る泥沼の
戦争の様相を呈していた。

特に米国の全面的支援を受けているイラクは、
フセイン大統領のカリスマ性もあいまって、イランに
対して圧倒的な武力攻撃をしかけ戦況を有利に展開して
いた。

一方のイランは、旧ソ連から譲り受けた旧式の装備が
中心であるため劣勢に立たされ、国境を越えて音速で
侵入してくる最新鋭のイラク爆撃戦闘機による空爆が
首都テヘランやイラク国境付近で頻繁に起こっており、
日系企業主導の幾つかの火力発電プロジェクトなどが
イラク軍の爆撃の被害にあうという報道が連日のように
日本でもなされていた。

今回の出張はまさに空爆のさなかの首都テヘランで
あったのだ。


「おい、宮田。今回の出張は、お前も関与しているイラン
でも有数の企業であるアルミニウム オブ イラン
(Aluminium of Iran Co.Ltd、通称アロイコ{ALOICO})
の案件だ。

今、イランでは民需用の圧延製品の需要が大きく
伸びている。
特にアルミ箔やアルミニウム缶や自動車のラジエータ用途
などの需要であり、アロイコはその需要を大きく取り込もうと
しており、それに必要な設備能力の増強のために圧延機を
必要としている。
そのためのプロジェクトだ。
うちはこの分野で有数の実績を誇る丸の内重工業と
コンソーシアムを組んで参画している。
先日国際テンダー(入札)があり、うちのコンソーシアムは
丸の内重工の圧延機一式をフルターンキーベースで
50億円という数字で応札した。
この入札書類は一部お前にも手伝ってもらった。
第一次価格審査はおかげさまで無事通り、今回は、
第二次審査である技術検討会がテヘランのアロイコ本社で
行われ、うちのコンソーシアムも呼ばれている。
この技術検討会の結果がよければ大きく受注の可能性が
高まる。
これに丸の内重工の技術者らと同行願いたいのだ」

淡々と説明を進める関の顔を見つめながら、宮田は
本当にイランに行くんだ、というより行かされるんだと
覚悟を決めていった。


「宮田よ。現地のテヘラン支店長である永井さんから
テレックスが入っている。
今回東京から来る出張者、つまりお前に持ってきて
もらいたいものがあるらしい。
内容をよく読んでできるだけ持って行って差しあげろ。
何せ現地は戦時状態の上に、中東でももっとも厳しい
イスラムの戒律を守っている国家のひとつだからな。
そんな国での駐在生活というのは色々不自由があるもんだ」
 

宮田は、出張を翌週末に控えた土曜日、京浜東北線
大井町にある独身寮の近くにあるスーパーの日本酒
売り場で、幾つかの日本酒を手にとって見比べながら
悩んでいた。


大日本商事テヘラン支店長永井から関へのの御願いは
こうであった。


「KIHO KARANO SHUCCHOUSHA NI ONEGAI ARI Z
NIHONNSHU WO ONE DOZEN JISAN SARETASHI Z
TSUKAN NIHA JYUUBUN CHUUI SARETASHI Z
YORO ONEGAI SHIMASU ZZKOOUN WO INORU 」


要は
「入国審査に十分注意して日本酒を1ダース持ってきて
欲しいのでよろしく」
という御願いであった。


宮田はイスラム圏の国にアルコールを持ち込むという
ことで一瞬嫌な予感がしたが、店長自らの御願いでも
あり、何とかしようとして、できるだけ外見が日本酒に
見えないものをデパートで探していたのであった。

このことが後でどれほどの災難に発展するかも全く
知らずにいた宮田であった。

当時、日本酒は、昔からの一升瓶に取って代わり、
紙パックスタイルのものが世の中に出回りだしていた。


「紙パックだったら、わからないだろう」


そう考えた宮田は、紙パックスタイルの日本酒で、
(田万)という銘柄を12本購入して、寮の部屋で一本
ずつていねいに紙で包み、さらにそれを白いタオルで
くるんで、海外出張用のスーツケースの一番下にずらりと
並べて、さらに全体をバスタオルで隠すようにして詰めた。

次回へ続く

« 連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (17) | メイン | 連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (15) »

コメントを投稿

名前:

メールアドレス:

URL:

コメント: (スタイル用のHTMLタグが使えます)


Page up