連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (15)
「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~
筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。
「こ、これが戦時体制の空港か!」
バンコック経由ドバイで一泊し、翌日イラン航空機でやっと
2日間かけてテヘラン空港に到着し、入国審査窓口に
向かった宮田は驚いた。
税関の係官がいる検問所への通路の両側に重機関銃で
武装した兵士が何人もずらりと並んで、入国審査待ちの
乗客を睨みつけて立っている。
成田空港では到底考えられないようなその威圧感からくる
重苦しい緊張感の漂う空気に触れたその時て、初めて
宮田は心のそこから後悔した。
<あー。日本酒なんか持ってくるんやなかった。あー・・・・>
後悔先に立たずとはこのことである。
兵士が並んで立っている後ろの壁にはイランの高名な
宗教・政治指導者であるホメイニ師の大きな顔写真が
ずらりと飾られている。
「宮田さん!!。お酒、大丈夫ですかね?
この雰囲気だと見つかったらただじゃすまされないですよ・・・」
一緒に東京から現地入りした、丸の内重工のベテラン技師
である内村が心配そうに尋ねてきた。
「かといって、今ここで飛行機に戻ってずっと隠れているわけ
にも行きませんし。
捨てるといっても、この兵隊の列の中では・・・。
なるようにしかならないですよ!」
宮田は虚勢を張って答えた。
「Next!」
ついに宮田の順番がやってきた。
係官が大きな声で指示した。
「Open!」
宮田はスーツケースのフタをそっと開けながら祈った。
<どうぞ神様。仏様。 見つかりませんように>
日本の神様が逃げ切るか。
イスラムの神様がそれを阻止するか。
ふたつにひとつである。
立派な口ひげを蓄えた長身のイラン人係官は、いくつかの
荷物に触れ、ごそごそと調べた後、意外にもすぐにふたを
パタンとしめて、
「OK. You can go」
とあっけなく言った。
宮田と、横にいた内村技師は顔を見合わせ、
ほっとした。
「サ、サンキュー!」
<やった!助かったやないの!>
小躍りしそうになるのを押さえて、努めて冷静さを
装いながら、その場を敢えてゆっくり立ち去ろうとした
その時、係官が宮田を呼び止めた。
「Wait! What is that? Show me!」
そう言って係官が指差したのは、宮田が手に持っていた
日本の若者向け男性週刊誌であった。
係官が週刊誌を手にとって最初のページをめくった。
そこには、女性の鮮やかな水着写真が飛び出してきた。
係官の顔色がだんだんと赤くなってくるのを宮田は
見ていた。
係官は週刊誌を持ったまますぐに奥の部屋に去っていき、
すぐに仲間の係官数人と共に宮田のところに戻ってきて
こう言い放った。
「お前の持っている週刊誌はイスラムの戒律違反である。
再度お前の全ての持ち物ならびに身体の検査を徹底的に
行うことにする。
奥の個室に連行し、そこで取調べを行う!」
<し、しもた!週刊誌でひっかかるとは・・・>
とっさに宮田は、その本欲しければ君にあげると
言おうとしたが、そんなことで流れが変わるはずもないと
悟って観念した。
<なるようになれ!>
こうなっては開き直るしかない。
先ほど内村技師に言った言葉を思い出していた。
個室に入ると再びスーツケースを開けられ、今度は
中身をひとつ残らず出されて、全て机の上に並べられた。
宮田はパンツ一枚の格好で立たされた。
いよいよ問題の日本酒をつつんでいるタオルに係官が
手を掛けた。
宮田自身さえもいかにも怪しげだなと感じるような荷姿を
係官が目にしたとき、係官もこれは極めて怪しいと感じたのか、
他の数人の同僚係官にあごで合図を送り、一緒に確認
するよう依頼した。
「開けろ!」
係官の指示に従って、タオルや紙をはがして、丸裸となった
日本酒の紙パックを係官に手渡した。
紙パックの表面には日本語で、(清酒田万)と、見事に立派な
太い字で描かれている。
係官が数人がかりで紙パックの外装の表面をなめるようにして
観察している。
「これは何だ!?」
係官が疑いの眼で聞いてきた。
次回へ続く。
