連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (7)
「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~
筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。
第二章 一人前への長い道のり
翌日、関が宮田に近寄ってきて案の定いつもの雷を落とした。
「ばっきゃろー!何だこれは。お前は全くテレックスの内容を
わかっておらんじゃないか。 もっと真剣に読んで、わからん
ことは回りに聞け! 皆忙しいから待っていても誰も教えてくれんぞ!
聞いて聞いて聞きまくれ。
板前修業のようなもんだ。わかったか!」
<出たー。またこれや。なにが「ばっきゃろー」や。どうせならアホ!
いうてもろたほうがまだましや。
それと、聞け聞けいうけど、いざ聞こうとしたらいっつも「忙しいから後だ!」
で終わりやないか。ほんま。>
「それと、お前、今日何でここに座ってんだ?」
<なにいうてんの。このおっさん。>
「えー? ここ自分の席ですからと思ってるんですけど、
どういうことでなんでしょうかしょうか?」
<なに聞いとるんや、このおっさんは。 アホかいな。
この机は、俺の机やろが。 なに、この会社は机もくれへん
会社なんかいな?>
「違うだろうー! 何で会社にいるんだと聞いているんだ。
どういうことなんでしょうでしょうか じゃないだろう?
馬鹿か!。 お前は。」
「はー・・・」
「鹿沼には行かないのか?」
「鹿沼・・・ですか?」
「そうだよ。 先日一緒に行った日本非鉄金属工業の鹿沼工場に
行かないのかって聞いているんだよ!」
「え? また行かないといけないのですか?」
「あったりまえだろう! お前はあそこの担当になってるんだよ。
雨が降ろうが、風が吹こうが、あの会社があそこにある限り、あそこには
何度でもずっと行き続けるのだ。 行って注文とってこい! 今からすぐ
行って来いや!」
<そんなん聞いてないし・・・>
正直、あんな東京から中途半端に遠い、田舎のお客様の担当になるのは
気が重かった。
もうひとつ理由があった。
華やかな海外ビジネスや英語とは無縁の泥臭い国内商売を担当するのは、
正直がっかりであった。
同期の連中の多数は、配属早々テレックスなどで海外の支店、お客との
やり取りを始めたり、早速オファー(Offer:(見積書))を提示するための
原稿を英語で書かされたり、海外取引先の要人とのアテンド(接待)に
駆りだされたりと大忙し。
彼らは、いわゆる総合商社らしい華やかな海外取引の現場に
入り込もうとしていた。
同期の連中が本当にうらやましくて仕方がなかった。
宇都宮から乗ったタクシーの窓から見える栃木県ののんびりした水田風景を
眺めながら、宮田はつぶやいた。
「前回は、冷間圧延設備のキックオフという大イベントがあったが、
今日は何もない。 いったいどの部署で誰とどんな話をすればええんやろか・・・」
会社を出る前に、関からあるメーカーのアルミニウムインゴットの溶解炉の
カタログを渡された。
次回に続く。