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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (6)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


赤坂の夜の世界というのはある種特殊な世界である。


官庁、霞ヶ関などの役所、政府関係機関などが近隣にあるため、
日本の行く末などが語られる政治家御用達の料亭が、ひっそりと裏通り
にあったりする。 


かと思うと、ここは日本かと疑うばかりのハングル語や中国語が
飛び交う表通りがあったりし、多種多様化した巨大繁華街である。 

外国人、大物政治家、役人、財界人、サラリーマン、任侠の世界の人、
ちんぴらなどありとあらゆる世界に軸足を置く人間が夜な夜な
混沌とした闇の中でうまく融合しながらうごめいている夜の世界。

 
「これが夜の赤坂や。 一見華やろ?」


繁華街といえば、北海道のススキノしか知らない宮田だった。
ススキノは、同じ繁華街でも北海道らしくあっけらかんとしており、
赤坂から感じるどろどろした何かおどろおどろしいブラックホールの
ような不気味な雰囲気はなかった。

マイクがご馳走してくれた高級中華料理に舌鼓を打った一行は、
場所を変えて赤坂見附の交差点から程近くにある高級ホテルの
最上階にあるバーに移り、ウイスキーの水割りを注文し、
赤くぼんやりとライトアップされた東京タワーを遠くに望み、
眼下に赤坂の夜景を眺めながらお酒を楽しんでいた。


マイクが口を開いた。


「宮田君。 自分なー。マーケティングって言葉知っている?」


「はー。マーケティングですよね。広報とか宣伝とかのことですよね。」


「まー、そや。 普通、日本の大企業には、マーケティング本部とか
あるいはマーケティング部といった類の組織がようあるんやけど、
大日本商事にはマーケティング組織というものがあれへんのや。
気ーついてたー?」


「いえ・・・」


「うちに限らず他のいわゆる総合商社と呼ばれる会社には、どこにも
マーケティング組織なんかあれへん。 なんでやと思う?」


宮田はそれまで気づかなかった。
そういえば、社内電話帳を見回してみても、そういう部署名を見たこと
がない。

それに同期入社100人の連中の中で、マーケティングと名前の付いた
部署に配属になった人間が居るという話は聞かなかった。


「そういえば、確かにないですね。 大事な機能だと思うんのですが、
なんでないんですか? ようわかりません」

関西弁で話されると、封印していた関西弁がつい出てしまう宮田
であった。


「各自みな自分でがやるから必要ないんやよ。」


「商社は、取り扱い品目がめっちゃ多いんよ。 
マスコミなんかは{ラーメンから原発まで}とかなどと呼んだりしたり
するわな。 

そやから、とてもひとつの組織ですべての商品や
ビジネスのマーケティングを取り仕切ることは土台無理っちゅうもん
やねんな。 

例えばやな、君がやっている機械やプラントビジネスのように、一発ドドン!
とやるビジネスのマーケティングと、パプアニューギニアとかベトナムから
植林からやって何年もかけて育てて、木材をバルクで長きにわたって
日本に輸入しているビジネスのマーケティングとは違うんや。 

そやから、商社の場合は、各部課あるいはチームや個人単位で
マーケティングを行うんや。 

ええか。 商社マンちゅうのは単なる営業マンとちゃうんや。

商社マンはみな、物を売りながら、あわせてマーケティング活動も行うんやで。

もちろん、うちにも広報部というのはある。

ただ、これはマーケティングの大きく4つある戦略、通称4Pといわれる
Price(価格)、 Product(製品・サービス)、 Place(チャネル)、
Promotion(販売促進)のなかの,
Promotion戦略ということをやってるんよ。

Promotion戦略っちゅうのは、ステークホルダー向けの広報・宣伝活動、
パブリシティのための組織であってやな、あくまで一部のマーケティング
活動なんよ。

ステークホルダーって、自分わかるよね?」


「は、はい!?」


「あ、そのリアクション。多分分かってへんね。 
まー、ええけど。 
いずれにしてもやね。 このマーケティング感覚をガツンと磨いて
いかんと商社マンはやっていけまへんで。

それと、もうひとつ重要なことがあんねんけど。 自分聞く気ある?」


「え?ええ、もちろんです!」


<このマイクさん、何者やろ、よう知っとるし、説得力あるわなーという
気がする・・・>


マイクは、宮田の顔をじっと見つめて、さらに進めた。


「商社マンちゅうのはな、事業家の精神も必要やねん。」


「事業家???」


「そや、事業家や。 マーケティング力とあわせて一言で言うと、商社マンは
ビジネスプロデューサーであれっちゅうことかいな。
ビジネスクリエーターとも言える」


宮田は意外であった。
商社マンというのは営業マンとほぼ同義語で、違いは、ただ、皆、
英語など外国語がしゃべれて、海外駐在期間があって、活動が
日本のみならず、グローバルなだけかと思っていた。


<皆がそれぞれ、マーケティング活動を行うというのはどういうこと
なんやろう>


「マイクさん。マーケティングって一言で言っていって、いったい
何なんですか?」

宮田は尋ねた。


「一言でいうんは難しいけどなー、敢えていうとマーケティング
ちゅうもんは

{成功する確立の高い、売れる仕組み}

を作る行為と言えるかもしれへんねー。 

営業行為っちゅうのはやな。 その仕組み、あるいは仕掛けに乗って、
契約という最後の聖域での儀式を滞りなく行うことやねんな。

この契約する瞬間を{真実の瞬間}と表現する学者もおる。

何故真実の瞬間というかというと、契約されへん限り、商品の価値が
市場に向けて認知せーへんからなんや。

契約っちゅう行為はな。
商品やサービスにとって価値が認められて
世に出る大事な瞬間ともいえまんねん。

この真実の瞬間という儀式を無事クローズするのも大変やけど、
そこに向けてどんだけ効率ようその儀式へのお膳立てが出来るかどうか
が勝負や。

この確率の高こうて売れる仕組み作りと真実の瞬間をまとめあげる能力が
商社マンで生き残れるかどうかのポイントなんやと思うな。

誰かて楽をして物やサービスを売りたいやろが? 

お客さんにぺこぺこし、競合と同じようにその他大勢のひとつとして
扱われてやで、受注できるかどうかも皆目わからんで、
先の見えーへん状態であくせく競争しながらモノ売りたないやろう?」


<成功する確立の高い売れる仕組みか・・・>


 篠原由美子も、ふんふんと深くうなずきながら三田村の話を
興味深く聞いていた。

宮田は、マイクの話に引き込まれながらも、商社には関のように大声で
怒鳴って、命令と自己主張ばっかりしている人間ばかりでなく、
マイクのように論理的に客観的にビジネスを捉えて、語る人も
いるのだと感心していた。


<商社もまんざらすてたもんやないな・・・。結構勉強になるやんけ・・・。>


そう感心している自分がいると同時に、斜め前に座っている篠原の、
時々その黒くてつややかな長い髪をさらっとかき上げるしぐさや
意外の胸元が切れ込んだブラウスの胸の谷間を、不謹慎だと思い
ながらも、マイクに気づかれないよう、ちらちらと盗み見ては、都会的な
華やかな女の色気にどきどきしているのであった。


次回に続く。

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