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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (8)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


「ネタがないんだったら、これでも売り込んでこい!」


圧延前の工程としてアルミニウムをスラブという形状にするための
鋳造工程というのがあり、その鋳造機にアルミニウムを入れるため
アルミニウム地金を溶解するための設備であった。

宮田は、宇都宮までの電車の中で、そのカタログを何気なくぺらぺらと
めくって、初めて目にする機械のスペック(仕様)と特長なりを頭に入れて、
自分なりのセールストークを考えようと必死だった。

鹿沼工場には製造部、品質保証部、研究開発部、設備部、資材部
など色々場部署があった。

通常、機械や設備物、サービスを工場に売るためには、色々な部署との
コネクションを構築し、情報を収集しなければならない。

関が以前この工場から受注した150億円もの圧延機となると、工場だけ
でなく、本社の調達部、本社の担当役員はもちろん、社長や会長なども
重要な関係者となって、受注にいたるまでに押さえておくべき関係者は
膨大な数とそのレベルが高度になってくる。

宮田は、守衛所で入門証をもらって、まずは資材部のところに足を運んだ。

そこには、大勢の地元含む建設業者や機械卸、設備メーカーなど色々な
業者が、資材部との打ち合わせをしようと商談コーナーにたむろっていた。

ここで、じっと待っていても、何も起こらないという予感はしていた。

意を決して、業者の待ち合わせ場所と事務所を仕切るキャビネット越しに
身を乗り出し、何人かの設備部の方々に向かって、声を出した。


「す、すみませーん。大日本商事の宮田と申します。
ちょっとよろしいでしょうか?」


宮田の呼びかけに対して、誰一人として応答しようとしない。

応答するどころか、宮田に一瞥さえ向けることもなかった。

なんら変わることなくもくもくと事務作業をしているシーン
とした事務所に、宮田の声だけがむなしく響き渡って
とても恥ずかしく思った。


<なんやこれ・・・。正直メッチャはずかしいやんけ。俺。>


先日のキックオフの際、関と親しそうに話していた設備部圧延担当の
峰山課長がちょうど前を横切ろうとしていた。

彼とならなんらかの話のとっかかりが出来るだろうと考え、思い切って
声を掛けてみた。


「す、すみません。いつもお世話になっております!大日本商事の宮田と申します。
関の下でやっております!」


「はい。それで?」


「・・・・」


「ちょっと今、忙しいから」


「あ、ちょっ、ちょっと待って下さい。今日は、最新鋭の溶解炉のカタログを
持ってきました。
この溶解炉はインダクションヒーティングシステムという業界初であります
電磁誘導方式というのを採用している溶解炉でして、通常より、オペレーション
コストの大幅な削減、かつ操業時の安全性に優れ・・・・」

宮田は、カタログを示しながら必死で説明を続けようとした。


「知ってるよ。それ、大和工業炉さんのだろう。昨年開発が終了したというやつだろ。 
そんな今さらカタログ読まれても。いらん。いらん。 興味なし!
もういいだろ。忙しいんだよ。

それより、あんた関さんと一緒にやっている新人さんっていったね?
関さんに、例の件よろしくと伝えといてよ。」


「例の件とは何でしょうか?」


「あんたには関係ない。それだけ言えば彼ならわかるから」


まるで、虫けらを見るような扱いにショックを受けたのであった。


<{全く宮田という自分というものを認めてもらってない。
大日本商事の社員なんやからなんだからもうちょっとはましな応対
してくれると思ってたんやけどな・・・}>


お客様と会話をするきっかけを作ることが如何に難しいのかを
初めて認識した宮田だった。

次回に続く。

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