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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (2)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ 


関と宮田を載せたトラックは、品川を抜け第三京浜を経由して
約30分後、JR大森駅の近くにある後藤鉄工所の前で止まった。

車を降り立った宮田の目の前には大きな工場の門があり、
複数の鍵で施錠され閉まっていた。 

隣にある事務所のほうへ移動して、窓越しに中をこっそりのぞいて
みても、中に人のいる気配がしない。

関は、おかまいなしに事務所のドアをガチャガチャと荒々しく開けて、
中に入っていった。

事務所の鍵はあいていた。


< ええんかいな。そんな勝手に入って・・・ >


宮田も置いていかれまいと関の後を追った。


「すみませーん! 誰かいますかー?」


関の大声が事務所の中に響き渡ったが、シーンとしていた。


「ちくしょう。やっぱり遅かったか・・・。銀行の連中は本当に早いよ。 
血も涙もない。 商社以上にハゲタカだ」


宮田には関が吐き捨てるようにつぶやいた言葉の意味がよく
わからなかった。

誰もおらず、電気もついていない薄暗い事務所の中を必死に目を
見開いて見渡してみると、机やイスなどの事務機器がなく、なにやら
がらんとしており、もぬけの殻といった様子であった。

事務所の奥には社長室があり、そこに入ってみると、この会社の
オーナー社長のものであろうか。

誇らしげに微笑む恰幅のいい紳士の大きな顔写真が、額に飾られ
壁に掛けられていた。


「社長は夜逃げしたに違いない。後藤さん、さぞ辛かったろうなー。
おい、宮田。 次は工場にいくぞ!」


宮田は、関の後を追って工場に入り、ずらりと整列した機械を見て、
初めて関が口にした言葉の意味がわかった。

全ての機械の表面にこのような張り紙が張られていた。


{本物件は、XX簡易裁判所において、XXX年○月△日をもって
物件立ち退きの判決を受け、この日を持って以降、如何なる者の
立ち入り、又は動産等の移動をしたものは、即時建造物侵入、又は
窃盗などにより、刑事告訴する。  
所有者YYY銀行 代理人弁護士◎△太郎}


関が言った。


「宮田よ。 どの機械の表面にも、こんな紙切れがべたべた張られて
いるだろう。 貸し倒れになった売掛債権を回収するために、銀行が
転売用として差し押さえたんだ。 銀行は、倒産したらその日にでも
差し押さえに来るからな。 事務所に机とかイスとかが全くなかった
だろう。 転売可能で持っていけるものは鉛筆一本だって何だって
持って行く。 この機械のように工場に据え付けられていて、重くて
すぐ運べないものにはこうして張り紙をして権利を主張する。 
銀行に比べたら商社なんて甘いものよ」


宮田は、社長室の壁に掛かっていた写真の中で誇らしげに
微笑んでいた、社長と思わしき人物の顔を思い出していた。

自分が汗水たらして苦労して育てあげた会社が、こうなってしまっては、
さぞ無念であったに違いない。


「宮田。 何でもいいから価値のありそうなものを車に積み込め。
何もないよりましだ」


宮田は、帰りの車の中で打ちひしがれていた。

大学時代抱いていた、華やかな商社でのビジネスマンのイメージが、
頭の中でがらがらと崩れていく音がした。

配属早々から、ビジネスのどろどろした裏の世界を間近かに見せ
つけられて、大学時代北海道の大地でのびのびと生活していた
自分とは相当の決意をもって決別し変わっていかなくては、とても
これから、この世界でやっていけないのではないかという漠然とした
不安感を抱いたのだった。


< あの後藤社長は今どないされてんのかな? 奥様や家族は
いったいどうなってはるんやろ・・・・ >


大学時代に倒産した自分の大阪の実家の親父の顔がだぶっていた。

額に飾られた写真の中の誇らしげな社長の顔が頭から離れなかった。

関が、宮田の心中を察してか、こう言った。


「宮田よ。 総合商社は国内外数え切れないほどの数の取引をして
いるんだ。 それも売り買いともにな。 商社の取引では、今日のような
ことはよくある話なんだ。 常に売掛金などの債権回収など貸し倒れ
リスクと隣りあわせで、ぎりぎりのところで商社はビジネスをしているんだ。
別に商社だけじゃない。 ビジネスはお金を手にしてなんぼの世界
なんだよ。 だけど総合商社は特にそうなんだ。 なんせ机と電話しか
ないからな。 回収漏れは即その契約の赤字につながる。例え、それが
海外のビッグプロジェクトであっても同じだ。 海外のプロジェクトのほうが
もっと厄介かもしれない。 契約当事者が法人相手だけではないからな。 
国を相手にして商売する場合もある。 その場合は、相手国の国情などが
リスク要素となってくるんだ。 カントリーリスクって聞いたことないか?
そういうのが常に付きまとう。 非常危険といって、民間企業がコントロール
不可能な、その国特有のリスクを分析しなくてはならない。
例えば、戦争、紛争、テロが起こる度合い、それらから影響を受ける
国家体制の安定度合い、為替リスク、外国為替法の安定度によっては、
急に現地で苦労して稼いだお金を、海外送金停止という制限によって
日本の本社に送金できなくなるなんてこともありえる。
俺が駐在していた中東サウジアラビアの国なんて、まだましなほう
だったけど。 まー、今日は、入社早々からどろくさい現場をお前には
見せることになったが、商売というものは万国共通どこにいっても
こんなものよ。 要は金を回収してなんぼの世界なんよ」


(ようしゃべるおっさんやな・・・)


そうは思いながらも宮田は、帰りのトラックの中で語る関の話を聞きながら、商社マンの
本質、さらには、ビジネスそのものの本質のほんの一部を垣間見た
ような気がした。

それと、いかにもやり手商社マンといった風でとっつきにくいと思って
いた関も、中東の海外駐在経験があって、ビジネスの厳しいところで
それなりに苦労しているのだなと思うと何となく親近感が沸いてくる
ことを感じていた。

次回に続く。

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