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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (3)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。

第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ


大日本商事は、売上高7兆円、業界で4位の位置にある総合商社である。 

全世界に130箇所以上の現地法人、出張所などを持ち、従業員7000名。
輸出、輸入、国内取引、三国間貿易、投資案件、新規事業開発などを
手がける。 

本社は25階建ての真っ白いビルで、東京赤坂見附にあり、鉄鋼輸出
本部、国内鉄鋼本部、非鉄金属本部、船舶本部、航空機本部、自動車
本部、重工プラント本部、化学プラント本部、通信プロジェクト本部、ガス
エネルギー本部、食料本部、化学品本部、繊維本部など20以上の
利益を稼ぎ出すビジネス系の本部があり、あとは、財務関係、広報関係、
情報システム関係などバックエンドでビジネスを支える管理系の本部が
幾つかある、本格的な総合商社である。

宮田真一が配属されたのは、6階にある重工プラント本部の機械・
プラント部第3課であった。

部の総勢は約50名、その中には4つの課があって、それぞれの課は、
機械・プラントと名の付くものであればなんでもビジネスにするべく、
世界各国、色々な領域の機械・プラントの商談を展開していた。

また、部の傘下には、10の子会社を統括していた。


「おーい。宮田君。 これから栃木県の鹿沼というところに出張に
行ってくれ。 そこに日本非鉄金属工業の鹿沼工場があるんだ。
その会社は日本で有数のアルミニウム圧延工場で、うちの大の
お得意様なんだ。 そこで、うちが受注した圧延設備プロジェクトの
キックオフミーティングがあるので、そこに参加して、議事録を取って
きて欲しいんだ」


昨日の一件から気を取り直して、朝7時30分から、はりきって出社した
宮田は、課長の細川から呼び出された。

まだ東北新幹線が開通していない中、栃木県鹿沼まで行くには、
大変時間を費やした。

上野駅から、東北本線で宇都宮まで電車で2時間。 

そこからタクシーで40分。 合計約3時間かかって、やっと到着した
日本非鉄金属工業 鹿沼工場の周囲には、東京の喧騒の街中とは
違い、青々とした田んぼが広がる広大な田園風景が広がっていた。


<どうでもええけどメッチャ遠いな・・・>


門の前では、課長代理の関が宮田の到着を今や遅しと宮田を待ち
構えていた。

関と一緒に入門手続きを終え、工場の中に入った。


「うわー。アルミの工場って大きいんですね」


驚く宮田に関は誇らしげに言った。


「ここでは年間100万トンのアルミ圧延品を製造している。圧延品
というのは、主にビール缶や飲料缶などの材料になるものだ。
今日は、制御系電気設備を担当する大手電機と大型圧延機を
納入するJHJという重工メーカー、それとプラント据付を担当する、
総合プラント建設工業が一同に介してのキックオフミューティングが
行われるわけだ。
我々大日本商事は、その元請業者という立場で、日本非鉄金属工業
からすると、唯一の発注先企業だ。大手電機、JHJ、関東プラント建設
への発注は、全て大日本商事が行う。要は、大日本商事が全てこの
ビジネスを取りまとめたということになる」


会議室には、発注先である日本非鉄工業側の圧延部長、設備部長
以下、担当技師ら10数名、及びそれぞれの会社から営業責任者、
技師らが各社5~8人勢ぞろいしていた。


大日商事からは、重工プラント本部本部長の吉田、関、宮田の三人
だけであった。

我々の到着を待って、日本非鉄金属 圧延部長が口火を切った。 


「本日は、わが日本非鉄金属工業 鹿沼工場の命運を決するとも
いえる第3冷間圧延機プロジェクトの第一回合同打ち合わせの
ためにお越しいただきましてありがとうござました。 
この冷間圧延機、いわゆる冷延機が稼動しますと、生産量20%アップ、
品質の大幅な向上が実現可能となり、わが社におきましては業界に
おけるトップの地位をゆるぎないものにすることができると、弊社役員
一同も大変期待しているプロジェクトであります。 
今回、このプロジェクトを見事に取りまとめていただきました、
大日本商事さんの重工プラント本部本部長吉田様からお言葉を
頂きたいと存じます」


吉田本部長の挨拶が終わり、本部長、部長クラスが部屋から
出て行くと、早速担当者レベルの会議となった。

最初から、机に置かれた大きな図面を元に、機械と電気、据付関係の
技術や建設用語が飛び交う。

議事録を書くにも、飛び交う言葉がまるで英語のように聞こえ、何を
書くべきなのかどうか、どの単語やセンテンスがキーなのかどうか、
何が大事で大事じゃないのかなどの判断どころか、何も聞き取れない。

2時間たってたった数行の言葉しかかけなかった。

宮田はその紙切れを恐る恐る関に見せると、いつもの雷が落ちた。


「ばっきゃろー! お前こんなの幼稚園児でももっとちゃんとかけるぞ。
もっと耳の穴かっぽじって聞け!」


<そこまで言うか。このおっさん。そやけど、ほんま、何書いてええのか皆目わからへん。どないしょう。ほんま、幼稚園児ゆわれてもしゃーない。ほんま、これからどないしょう・・・>

幼稚園児以下の議事録とレッテルを貼られたこともショックだが、
宮田がそれ以上にショックだったのは、お客様である日本非鉄金属に
大日本商事がとても評価されていることだけはわかったが、肝心の大日本商事の
役割自体が飲み込めないことであった。

いったいこの重要なビジネスを、大日本商事が、あるいは担当者
である関が、どう取りまとめて、どの様に成立しているのか、大日本商事
を中心にいったい何が起こっているのか何もかもがわからない自分が
情けなかった。

次回へ続く。

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