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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (9)


「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


お客様と会話をするきっかけを作ることが如何に難しいのかを初めて
認識した宮田だった。

宮田は、マイクからマーケティングの重要性を説かれたこともあって、
マーケティングの本を買って読んでいた。
その中にAIDMA理論というのがあったことを思い出していた。
この理論は、購買決定プロセスにおける消費者の行動心理を表した
もので、それぞれの心理の頭文字をとってAIDMA(アイドマ)と呼んでいた。


A : Attention (注目)
I : Interest(興味)
D :Desire(欲望)
M :Memory(記憶)
A :Action(行動)


宮田は、峰山課長のInteres(興味)を引くどころか、Attention(注目)さえも
持ってもらえなかったことに情けなくなった。

結局、その後カタログを手にぶらぶらと事務所を歩き回り、資材部にも顔を
出したが、誰一人としてまともに取り扱ってくれない。

それどころか目を合わせてさえくれない。
まるで厄介者が近づいてくるかのように追い払われる自分に、
さすがに宮田も、何でこうなのだろうと思うと悲しくなった。

大学を出て大志を抱いて上京したのに、なんでこんなことをしなくてはならない
のだろうと自問自答していた。

海外取引だったらこんな地味な売り込みをしなくてもいいのに。
もっと格好がいいのに。
国内営業の担当を言い渡されて、本当にがっかりだった。


「ばっきゃろー!。それだけか?
俺への伝言を取るためだけに鹿沼くんだりまで出張しましたというのか? 
それじゃ子供の使いじゃないか!
何のビジネスの話も出来なかっただと?
ふざけてんじゃねーぞ!」


帰社して夕方峰山課長からの伝言をそのまま関に伝えると、案の定雷が落ちた。


「本当に馬鹿かお前は? 
カタログ振り回して、その説明だけをやってきましたなんて、地元の中小工具商
だってできる。
お前は、どこの会社に勤めてると思っているんだ。
天下の総合商社の大日本商事だぞ。
もっと頭使え。自分の頭だけじゃなく、人の頭も使うんだよ。
北海道の冬山の中ばっかりで生活していたから、お前の脳みそは
凍ってシャーベット状態になってるんじゃないのか?え?」


<くそったれが。そこまで言うか。そやけどシャーベット状態とは
これ結構おもろいかも。
うまいこというなこのおっさん。メモっとこ。>


そうこうして、配属されてから半年二ヶ月が経った。

週に何度も早朝から鹿沼に通い、嫌がられてもまずは顔だけでも覚えて
もらおうと一日中待合場所でぶらぶらした。

お昼は、工場の食堂で冷えたうどんを、ヘルメット姿の工場の作業員たちが
占有する机の隅の横ですすり、午後からは、色々な機械や設備のカタログを
手にして、隙あらば資材部、設備部の方々に声を掛けようとした。

だけど、ろくに話も聞いてもらえず、話題も続かず、門前払いを食うか、
あるいは一方的に挨拶だけで終わったりして、その結果を引きずって、
打ちひしがれては赤坂本社に夜遅く帰宅した。

そうすると、決まったように、まだ会社に残っている関に雷を落とされた。

関の雷を余韻に机の前の山積みされた例の暗号だらけテレックスに目を通し、
くたくたになって深夜に寮に帰るという毎日が続いた。

篠原由美子は、夜の8時や9時に鹿沼から帰社してもいつも残業しており、
宮田を見つけるといつも満面の笑みで迎えてくれたが、彼女も相当忙しいらしく、
マイクと3人で食事をして以来、夜のお酒や食事に誘い出したりする余裕も
チャンスもないままであった。


「宮田くん。同期の森永さんから電話があったわよ」


篠原が渡してくれたメモには、同期の森永の配属された部署である
非鉄金属本部、非鉄製品部の内線番号が書いてあった。

森永は、東京六大学の有名私立大学の柔道部キャプテンをしていた
こともあって、豪放磊落、体重も90キロはあろう体育会系の巨漢であった。


電話の向こうで森永が言った。


「おう!宮田か。元気にしてるか? 今日もう終わるけど、久しぶりに飲みに行かんか?」


入社直前の富士山の合宿以来大変気が合う同期仲間の一人であった。
2人は会社近くの居酒屋に入って、まずビールを頼んで、乾杯をした。

次回に続く。

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