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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (4)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。

第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ


幼稚園児以下の議事録とレッテルを貼られたこともショックだが、
宮田がそれ以上にショックだったのは、お客様である日本非鉄金属に
大日本商事がとても評価されていることだけはわかったが、
肝心の大日本商事の役割自体が飲み込めず、いったい
このビジネスを大日本商事が、あるいは担当者である関が
どう取りまとめて、どの様に成立しているのか、大日本商事を
中心にいったい何が起こっているのか何もかもがわからない
自分が情けなかった。


「宮田。次、現場にいくぞ!」


関が、現場視察に行くというので、大きな建屋に事務所から車で移動した。

工場の中にはいくつもの大型の建屋があり、その中に、世界各国から
輸入したアルミ地金をインゴットからスラブ状にし、それを溶解炉で溶解させ、
熱間、冷間圧延を施し、精製してコイル状にする一環工程での大型設備が
各工程毎に納められている。


<ハー。でっかいなー。ようこんなでかいものを人間が作りよったな。><>


入り口には、巨大なシャッターがあり、そこから中をのぞくと、天井には長さ
何十メートルもある巨大なオーバーヘッドクレーンとよばれるクレーンが
うなり声をあげて走り回っており、その下を既存の圧延機の長いラインが
ずっと建屋の奥まで続いている。

圧延機が高速で回転するためにその回転部分が加熱しないように
冷却するためのクーラントオイルが噴霧されているため、奥のほうは
ぼんやりとかすんでいて見えないほどであった。

「このラインは、数年前にうちが納入したラインだ。これでフルターンキー
契約ベースで約150億円のビジネスだ。
今回キックオフされたラインはこれよりもひと回り大きい規模となる。
お前も早くこれくらいの設備をまとめられるようになれよ!」


関が何気なく言った150億円という数字が宮田の頭の中に響いていた。


<なんなん、それ。150億円って。実感なんかわかえへんで。 
そういえば大学の時代、大学生協で食べるめっちゃまずいとてもまずい
定食の値段が、そういうたらいえば150円やった・・・>

そういうことを思い出していた。


そのレベルが日常の物差しとなっていた宮田にとって、商社が扱う
取引金額は大きいとは聞いていたが、具体的な案件に落とし込んで
聞いてみるとその額の巨大さがより際立って感じた。


何故電話と机だけで、そんな大型商談をリードできるのだろうか?


何か仕掛けがあるに違いない。

でないと、工場や研究施設をもっているわけでもない商社に対して
そんな大きな注文を出すはずがない。

ただ、その仕掛けとはいったい何なんであろうか?


ますます悶々としてくる宮田であった。


<机と電話したあれへんこんな会社に何でそんな契約を任すんか、
やっぱりわかれへん?どう考えてもわかれへん・・・>


翌日、いつもの様に早朝から出社した宮田は、目の前に置かれた
テレックスの山と格闘していた。
関から、それを全部読んで、今日中に内容をまとめておけと
昨日から命令されていた。

テレックスというのは、パソコンによるe-メールなどのインターネットが
普及する前に、海外と安く交信できる通信手段として広く普及した
通信技術で、大日本商事も海外との交信は、主にこのテレックスか
ファックスを活用していた。

今で言うところの情報システム部である電算室にて全世界から
受け付けられ、巻紙上の紙の上に印字され、毎朝一番に各部門に
一斉に配布される。

インクで印字された新しいテレックスを読むのは、刷り上った新聞を
読むのと同じような緊張感とうきうきした期待感があった。

テレックスに書かれている日本語は、全てがローマ字で記載されていた。

相当慣れなれないと読めるものではない。
宮田にはどの文字も同じに見え、内容を把握するどころか、
一時一句読むことさえままならなかった。

周りを見回すと、自分以外の皆は、このテレックスを片手に電話で
わいわいがやがやと議論しあっている。


「宮田君。 テレックスの読み方 教えてあげようか?」


目の前に座っている篠原由美子が、あごに両肘を付いてこっちをみて
ニコッと微笑んでいる。


篠原由美子は、宮田の1年先輩であり、横浜の短大を出て、
大日本商事に就職し、この機械・プラント本部第三課に一般事務職
として配属となった。

横浜のお嬢さんといった感じの雰囲気を持っており、すらっとした長身、
長い黒髪、色白な顔に切れ長の美しい目が知性を感じさせる都会的な
美人である。

宮田は一年浪人して大学入学しているので、彼女は二つ年下である
ということを宮田は瞬間に計算していたのであった。


「宜しく御願いします」


<そーか。なんやら入社してから初めて人間らしい扱いを受けたような気がするわ。
あー、やっとほっと一息やわ・・・>


宮田は、ここ数日間あれよあれよと経験した商社の生々しい現場に
振り回され、周りを落ち着いて眺める余裕がなかった。

篠原由美子に声を掛けられ、ハッっとした宮田は、彼女のその優しい
微笑みに、妙に安心感と安堵感を覚え、フーっと肩の力が抜けていくような気がした。


次回に続く。

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