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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (11)


「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。


翌日早速森永から電話がきた。


「宮田。柴田さんが今なら時間取れると行っている。すぐあがって来いよ」


非鉄金属本部のある15階に、9階から脱兎のごとく駆け上がった宮田は、
森永から柴田を紹介された。


「関さんの下でやっています、新人の宮田です。よろしく御願いします」


「おう、よろしく。君のことは関から聞いているよ。 関と俺は同じ大学出身で
同期なんでな。 で、何を知りたいんだ?」


しわがれた声で柴田が尋ねた。

柴田は、身長185cm程もある大柄な体格で、髪はオールバック、きらきら光る
銀縁めがねの奥から知的な感じのする眼光が放たれていた。

「はい。日本非鉄金属の鹿沼工場の設備や機械関係の売込みを担当し、
毎日色々な設備のカタログを持参して売り込みのトライをしているのですが、
ぜんぜん相手にされずうまく進みません。 

誠に恥ずかしい話なんですが、正直何をどう売っていいのか皆目わからず、
困っています。 関さんに相談しても、{そんなこと、自分で考えろ!}
の一言で終わりですし・・・」


「ははは。あいつらしいな」


「機械の売り込みのことを非鉄製品の販売の方に聞くのもおかしいのですが、
よろしく御願いします」

そういいながら宮田はぺこっと頭を下げた。


「全然おかしくないよ。むしろ当たり前のことだ。もっと早くくればよかったのに」


宮田は柴田の言葉に驚いた。 
柴田は笑顔から急にまじめな顔となって続けた。


「宮田君。 君にひとつ聞くが、日本非鉄金属の鹿沼工場は、わが社から
何を買いたいと思っているのかな?」


「何をって。 高性能で優秀な機械や設備を安く買いたいと思っていると思います」


「そうなのかな? それなら別にうちじゃなくても中堅の工具商社や、
メーカーさんと直接交渉して買えばいいんじゃないかな?」


宮田は柴田からそう言われて、以前関から自分のやり方を中小工具商と同じだと
叱られたことを思い出した。


「君がもしそう思い込んでいるとしたら、君はその考え方を変えない限り、
何年やっても一件たりとも大型の設備商談をまとめることは出来ないよ。
それと、もうひとつ聞くよ。 日本非鉄金属という会社は、何をしている会社かな?」


「何をって・・・。 アルミニウムや銅などの非鉄製品を製造し販売している会社
じゃないんですか?」


<そこまで馬鹿にせんでもええやん>


宮田はそんなこと知っているといわんばかりにちょっとむっとして答えた。


「そう。 その通り。 では、どんな製品をどのユーザーに販売しているのか
具体的に知っているかい?」


「えーっと。確かアルミの缶となる圧延製品を、色々なところに販売しています。
具体的にどこかはよく知りません」


「その程度しか知らないのは困りものだな。 それでは聞くが、そもそも君は
アルミニウムという金属をどれだけわかっているかい?」


「えーと。 鉄とは違う金属で、色は銀色のような色をしており・・・」


柴田は、これ以上宮田から何も出てこないころ合いまで待ってから、話を進めた。


「アルミニウムという金属は、比重が2.7と他の金属と比べてとても軽いんだ。
例えば、鉄は7.8、銅は8.9だ。また、比強度も他の金属と比べて優れている。
単位重量当りの強度が大きいということだ。  また、錆びにくいし熱伝導性にも
優れている。  

このように鉄などと違う金属特性を生かして、社会のいたるところで活用され
ようとしている。

例えば、鹿沼工場で生産している圧延品の場合、ビールや飲料水の缶以外にも、
自動車のパネル、アルミホウィール、ラジエーター、熱交換器、家庭用として、
あるいはタバコなどの包装用銀紙などに使われるアルミ箔、コンピューター用
ハードディスクドライブ(HDD)の中に組み込まれている磁気ディスク基盤、
新幹線や航空機、船舶、宇宙船などの構造材などだ。

それと、一円玉もすべてアルミニウムだ。  販売先も多岐にわたる。
ビール会社や飲料会社、缶を作る製缶会社、タバコ会社、自動車会社、
IBMやHPなどの大手コンピューター会社、大手重工メーカー、ボーイングなどの
航空機メーカーやスーパーなどの小売、造幣局などに販売しているんだよ」

隣の同期の森永もうなづきながら必死でメモを取っている。

「柴田さん。 素晴らしい金属で販売先も色々あるということはわかりました。
ただ、そのような情報が、僕の営業にどう役立つのかわかりません」

宮田はいらいらして聞いた。


「ここまでいってもわからないのかい? 

今回君の部で鹿沼工場向けに受注した大型圧延ラインを、日本非鉄金属は
なぜ導入することを決めたのか?  
それは彼らの製品のニーズが伸びて、需要が拡大し、それに対応する必要が
出てきたからなんだ。  アルミの総需要は現在400万トンといわれているが、
まだまだ伸びる可能性がある。  リサイクルも容易に可能で、環境にもやさしい。
マグネシウムやマンガン、亜鉛などの他の金属と混ぜて合金にすればもっと
機能が良くなり、新しいアプリケーションも開発されることもわかっている。 
アルミニウムの原料となるボーキサイトという鉱石の埋蔵量もオーストラリアや
ベネズエラの地下に250億トン眠っており、まだ1億トンしか使っていないので、
資源としても十分な量が約束されている。 

金属として非常に将来性のある有望なものなんだ。 
ポイントは、日本非鉄金属が何もしないで黙っていてこの需要の伸びに出くわしたのか
ということなんだ。  
君の部が何故大型圧延設備を受注できたかということとつながるんだが、実は、
君の先輩の関と俺で、日本非鉄金属という我大日本商事のお客様である、さらに
その先のお客様の市場に対してある仕掛けをしたからなんだ。

つまり、お客様のその先のお客様の新たなニーズに目をつけて、さらにウォンツと
デマンドを創出し、それらと日本非鉄金属の経営戦略と結び付けることに成功した
からなんだ」

宮田は、目からうろこが一枚一枚はがれ落ちるような思いであった。
商社の本質がだんだんとわかってくるような気がして飛び上がりたいほど
うれしい気分だった。
この際、聞くは一時の恥と自分に言い聞かせ、柴田が言ったマーケティング
用語に関する質問をした。


「柴田さん。 ニーズとウォンツ、それとデマンドの違いが良くわからないんですが・・・」


「森永もよく聞いとけよ。 お前ら、毎晩赤坂で飲んだくれて、女の子を追い掛け
回しているだけじゃだめだよ。  
たまにはコトラーの本でも読まないと。
マーケティングの世界的権威でアメリカの経済学者であるコトラーが
{マーケティングとは、交換過程を通して、ニーズとウォンツを満たすことを
意図する人間の活動である}と定義している。

この中のニーズとは、人間が生活を送る中で、必要なある充足状況が
奪われている状態のことをさす。 一方ウォンツとは、そのニーズを満たす
ある特定のものへの欲求、欲望のことをいう。
さらに、デマンドとは、購買能力と購入意思に支えられたある特定の製品に
対するウォンツであると定義しているんだ。

それでは質問です。
関が目をつけたニーズとはいったい何だったでしょう?」

次回に続く。

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