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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (16)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を小説風にしました。

「これは何だ!?」


係官が疑いの眼で聞いてきた。


その時宮田はとっさに答えた。


「こ、これはTAMAN(田万)という
ジャパニーズライスジュースだ!」


「ライスジュースだと? それではこれは何だ?」


係官が指し示すラベルの先の数字の前後には、
カタカナと漢字でこう書いてあった。


(アルコール分25度)


幸運にもアルコールという文字が英語でかかれて
いなかったことをとっさに宮田は確認して堂々と
こう言い切った。


「米の成分が25%ということだ」


係官は、宮田の返事に一瞬怪訝な顔をしたが、次々と
紙パックを手にしてしきりに振って、ちゃぷちゃぷという音を
何度も立てながら、他の同僚係官となにやら話してから
最終的に宮田にこういった。


「検査は終了だ。週刊誌だけ没収する。
スーツケースのふたをして行ってよろしい」


検査自体はものの20分ぐらいだったが、宮田にとっては
数時間に感じられた。

終わったときには汗だくで放心状態であった。

税関を無事めでたく通過した宮田は、バゲッジクレーム
(荷物受け取り場)で心配そうに待っていた内村技師と
合流した。


「宮田さん。絶対出て来れないと思ってました。
よかった。よかった。 本当によかった。 
それにしても日本酒を12本もこのイランに持ち込んだなんて。
私も中東での仕事長いけどそんな日本人見たのは宮田さんが
初めてだ」


空港から外に出て天を仰いで見ると、9月のテヘラン市内は、
標高が高いこともあって、紺青色に澄んだ青空が広がる
とても気持ちのいい天気に覆われていた。

街中は、オートバイや車が多数走り回り、歩道には多くの
露店や通行人であふれかえってにぎわっており、
とても戦時中とは思えないほど活気に満ちており、
もっと暗いイメージをもっていた宮田は逆に平和な感じが
する街中を見て拍子抜けした。


宮田がチェックインしたホテルは、テヘランでも有数の
高級ホテルで、ロビーの大きな壁一面に

「打倒!アメリカ。 打倒!イラク」

という垂れ幕が掛けられている以外は豪華でゆったりした
ロビーをもった快適なホテルであった。

入国審査での大仕事の際の緊張感から開放された宮田は、
長旅を癒そうとしてロビーでゆっくりとくつろいでコーヒーを
すすっていた。

その時、数人の男たちに突然囲まれた。

全員が、重機関銃を持った屈強な兵士であった。
彼らは、宮田の回りを取り囲んだあと、驚く宮田に
こう言った。


「宿泊客か?」


「え・・・。 そうだが・・・?」


「我々は革命防衛隊のものだ。
お前の服装には大きな問題がある。
イスラムの戒律では、男も足や腕を出してはいけない。
すぐに長袖、長ズボンに着替えてもらいたい!」


そういわれて宮田は自分がTシャツ、短パン、草履姿で
座っていることを自覚した。

日本酒の指示だけしかなかったテヘランテンの総務を
恨んだ。


「わかった。すぐに部屋に行って着替えてくる」


「No!
本当に着替えるかどうか、部屋まで同行する!」


かくして自分の部屋まで連行され、数人の屈強な
銃を持った兵士に取り囲まれながら、素っ裸になって
着替えを余儀なくされた宮田は、


<とんでもない国に来てもうた。 ほんまに俺は異国の地
にいるんや・・・・>


ということを強烈に意識した。

部屋の壁には、空港の入国審査へと向かう通路に
あったのと同じホメイニ帥の写真が飾られ、宮田を
睨みつけていた。 

部屋の外からは、毎日定時になると街角のスピーカー
から流される、コーランの物悲しい旋律が聞こえてくるの
であった。


<何で一日で2回も人前でパンツ一丁にならなあかんのやろ・・・>


その日の夜は、無事持ち込んだ日本酒1ダースを大事に
かばんに隠し持ちながら、依頼した張本人である永井支店長の
待つ大日本商事テヘラン支店へタクシーを飛ばしていた。


次回へ続く。

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