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連載 営業マン小説 「商社マン しんちゃん。 走る!」 (18)

「商社マン しんちゃん。 走る!」
~営業マン小説:高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~

筆者の商社マン生活の実体験を元に小説風にしました。


いったんホテルに戻って、丸の内重工の皆様をお連れして
支店長宅に着くと、夜の7時は過ぎていた。


もう既に酔っ払って赤い顔をした永井店長が上機嫌で
玄関まで出迎えてくれ、一行を30畳はあるであろう
大きなリビングルームに通してくれた。


縦横3メーターはあると思われる巨大スクリーンには、
既に例の同期の両国が持ち込んだというビデオが堂々と
上映されており、その前の机には、宮田が持ち込んだ
日本酒がまるでお供え物のように大事に並べられていた。


そこには、大日本商事テヘラン支店の駐在員20名ほどと
数社のメーカーの日本からの出張者の方々がすでに
ずらりと勢ぞろいし、リビングのソファに腰を下ろして
既ににぎやかに一杯やっていた。


「よう!宮田」

「こんなところで会うとはな。 元気そうじゃないか」


同期の両国が声を掛けてきた。


お互いの入国審査での苦労話で花が咲き、イランへの
出張目的なんかで話が大いに盛り上がった。


宮田の所属している課の篠原由美子が人気があって、
目の前に座っている宮田がうらやましいとか気楽な
話題で盛り上がり、また、遠い異国の地で気楽に話せる
同期がいることで気分も和んでいたところへ、永井支店長が
突然立ち上がり、皆の前に一歩進んで威勢よく切り出した。


「皆さん!

このたびは、日本から遠く離れたこのイランの地へ
ようこそおいで下さいました。

本日は弊社が世界に誇ります2人の若手有望株であります
機械の宮田と石油の両国両氏のお陰で、このテヘランの地で
一大エンタテイメントをひらくことができました。

是非とも夜遅くまで存分にお楽しみいただきたいと思います!」


その後、改めて上機嫌の支店長の乾杯の音頭を皮切りに
どんちゃん騒ぎが始まり、興奮の絶頂に達した支店長は
自らスーツを脱いで上半身は裸で、下はステテコ一枚となり、
さらに頭にネクタイを鉢巻代わりに巻いて、リビングの中央で
得意のどじょうすくい踊りの真似事をして丸の内重工の皆様
から笑いを取っては、日本酒をあおるように飲んでいた。

「ピンポーン」

皆が盛り上がっているその時、突然玄関のベルが鳴った。

すぐに同期の両国が玄関に飛んでいってトビラを開けた。


そこには現地のイラン人電気工事屋が立っていた。


「こんにちは。電気工事に参りました。お昼に永井支店長
からお電話をいただき、リビングの天井のシャンデリアの
調子が悪いので本日夜に修理に来て欲しいという依頼を
受けて、ただいま参りました」


「ちょ、ちょっと待ってください」


両国は電気工事屋を玄関で待たせて、酔っぱらって
上機嫌でどじょうすくいを披露している支店長のところへ
一目散に駆け寄って、大声で叫んだ。

「永井さん! 電気工事屋が来ましたが、どうしましょうか?!」

その声を聞き踊りをピタリと踊りをやめた支店長は、
見る見る内に急に冷静になってこういった。


「えー?あー???、そうだった!
頼んでいたことをすっかり忘れてた!
こんな情景を見られては大変まずい。
す、すぐに帰ってもらい、後日出直すようにに言ってくれ! 
そして彼を家の外からすぐ出してくれたまえ!」


「わ、わかりました!」

両国はそう答えて、すぐに玄関に向かおうと踵を返したした
その時、すでに電気屋は気を利かして家の中まで
上がり込んできてしまっていたのだった。


イラン人電気屋は、リビングのドア入り口に立ち、
目の前で何十人もの日本人達がアルコールのにおいが
プンプンする部屋でお酒を飲みながらポルノビデオを見て
乱痴気騒ぎをしている部屋の一部始終を呆然と
直立不動の姿勢で見つめているところであった。

それを見た支店長が言った。


「あー、み、見られたあー!」


「ま、まずい!」

とっさにそう思った宮田は、両国に目配せして、その電気屋の
両脇を両国と一緒に一気に抱え込んで、家の外に一気に
連れ出した。


柔道仕込みの両国によって一気に外に放り出された電気屋は
頭を抱えて何かをつぶやきながら、こちらを振り向くことなく
「ワー!」と叫びながら一目散に走って支店長宅の表門から
闇の中に消え去っていった。


「あー、もうこれで終わりだ。
この伝統ある大日本商事テヘラン支店の歴史も今日の
この日で終わりだ・・・」


支店長の悲痛なつぶやきがむなしく宴に響いて行くのであった。

次回へ続く。

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