餃子とRFID(ICタグ)
◆中国製ギョーザの問題が拡大している。
◆RFID関係者の間でよく口にされることばで、
「トレーサビリティ」というのがある。
モノの動きを追跡するという意味である。
◆もうちょっと正確に言うと、この「トレーサビリティ」
という言葉には二つの意味がある。
どこを起点にしてどの方向を見るかによって違う。
◆ひとつは、「トレースバック」。
その対象物はどこから来たのですか?という意味。
◆もうひとつは、「トレースフォワード」。
その対象物はどこに行く、あるいは行ったのですか?という
意味である。
◆ここ何年か家電業界でも繰り返されているが、
以前大手家電メーカーのガス温風器の不具合に対して
全国規模の回収問題があった。
◆あれはどこに行ったのですか?ということががわからない
ことが問題となっていた。
つまり、トレースフォワードである。
◆ガス温風器のケースは、不良品が少なくともどこの工場
のどのラインで、何月何日、誰が製造したどのロットであるか
ということは把握できていると思われる。
ただ、その不良品がどこの家の誰のところに流通したのか
がわからない。
◆何万人、何百万人という消費者の顔が見えないのである。
一人ひとりに売り上げ記録を小売り業者と一緒に確認
すれば物理的に出来ないことはないと思われるが、
それは膨大な作業を生じる上に、特定できないケースが
多い。
◆いったん消費者に流通してしまうと、必ずしも
購入者がそれを所有しているかどうかもわからない。
◆親戚や友達に譲っているかもしれないし、買った時の
住所から別なところに移ってしまえば、小売の販売台帳
だけみてもトレースできない。
◆どこに行ったのかを個別にユニークに、一つ一つの
家庭や個人を特定するだけでも大変な問題である。
◆ところが、今回の農薬餃子問題が何にも増して深刻
なのは、製造から流通、小売の流通プロセス上の、
いったいどこで農薬が混入したのかが特定できない上に、
どの消費者の手元にいきわたっているのかも特定
できていない。
◆つまり、トレースバックもトレースフォワードも、その両方が
見当がつかないということが、いままでの流通トレーサビリティ
の問題以上に深刻さを増している。
◆中国は、昨年北京オリンピック選手村への食材供給に関して、
ICタグを活用して、そのトレーサビリティを高めて安全な
食品を提供すると新聞発表していた。
◆それはそれで新しい試みであり、私のようなRFID関係者
からすると、RFIDの認知度向上を考えても
素晴らしい事ではあるのだが、RFIDのプロからすると、
それだけで解決はできないのではないかと考えてしまう。
◆確かにRFIDは、生産地で食品が取れた段階ですぐに、
その原産地データ(例えば収穫年月日、生産農家の名前、
使った農薬の成分など)を記録し、それをICタグでその
農産物の個体を特定することにより、農産物とそれがもつ
属性情報をつねに紐付けて管理することは可能だ。
◆さらにそのあとの流通の過程で、複数の読み取りポイント
を設けることによって、何がどこをいつ通過したかという
記録をRFIDにより、正確に、リアルタイムに集計し、記録
しておくことは技術的に可能となってきた。
◆問題はこれからである。
確かに家電製品、例えばプリンターや温風器など工場
から出荷される時に製品の姿かたちが確定し、消費者の
手に渡っても同じ形状、荷姿のものであればいい。
◆食品の場合の一番の問題点は、流通過程で荷姿が
変化することであり、最終消費者の手元にいきわたるモノは、
原産地のものと異なる場合が多い。
◆たとえば、牛肉を考えてみよう。
農家から出荷されたその肉は、ものによっては、流通過程
において、食品メーカーなどで他の肉と合法的に混ぜ合わ
されて、いわゆるミンチとなったり、加工食品として最後は
ハンバーグなどになって消費者の手に渡る。
◆こうなると、流通過程で七変化のように姿かたちをかえる
食肉を最初から最後まで、お肉ひとかけらまでトレースする
ことは不可能に近くなってくる。
◆ここが食品のトレーサビリティの一番難しいポイントである。
◆RFIDはもちろん協力な武器ではあるが、RFIDはあくまで
ツールであり、それだけでは食品の場合は難しい。
◆もし、RFIDのような最新テクノロジーを活用して食の
トレーサビリティを高めようとするならば、ひとつひとつの
肉片にタグをつけて流通するわけにはいかないのである
から、クレート、通い箱などのリターナブルが輸送機材に
タグを貼付して、それをトレースすることによって、トレー
サビリティを高めることは考えられる。
◆ただ、その場合の課題は、クレートや通い箱といった
使いまわされる備品の形状がまちまちで、業界として
標準的なものを使っていないという点である。
◆もうひとつは、パレットの上に乗っているものが変化
するたびに、それが何であるかを常に認識して、
パレットと結びつけて管理しなければならない。
◆例えば先にあげた食肉の例でも、業界が同じクレートや
パレットを活用して、それを繰り返し流通するような
仕掛けを設けて、そのものにタグをつけて
トレースするということが出来ればいい。
◆実際、上智大学経済学部荒木先生主催のNPO食品
流通高度化推進協議会では、和食の日配用のクレートの
標準化(種類を減らして、共有できるようにすること)を
行った上で、RFIDタグを貼付し、クレートという資産
そのものの管理を強化することによって盗難や自然減
を防ぎ、流通トレーサビリティを高めようという取組
がなされている。
◆RFIDは素晴らしい技術であるが、RFIDをきっかけとして
商習慣や業界のしきたり、人間の過去のしがらみなど
を捨て去り、新しい業務変革を行うのだという
人間の意志と情熱があわせもって初めて
世の中に貢献できるのではと思う。